XⅣ 底辺だった僕は質問責めにあいました

 目が覚めた。日付は変わって陽が昇り始めている。そして僕は、学校の支度をしている。部屋はイスクゥシェにあるお母様の別荘?の寝室だ。

 特に朝は問題なく…………いや、一つあった。朝、目が覚めた時に問題が一つあった。それは…その……バルバトス様が……一緒のベッドで寝ていた。しかも上半身裸で、僕の体を抱き枕にして。男性でも目が向いてしまうほどの美形な顔立ちが、目を開けた時に目の前にあったら心臓に悪い。その時、自分の顔が熱くなっているのを感じ、心臓の鼓動が激しかったという事をはっきり覚えている。さらに、バルバトス様は僕が顔を赤くしている間に瞼を開き、ニッコリと爽やかな笑みを浮かべながら「おはようございます、私の姫」と言うのだ。女になってから、日に日に自分が、心が女になっている事が分かっている中、その台詞を聞いてしまって、さらに進行してしまっている気がした。その内、心の中での一人称も変わってしまうのだろうか?

 そんな朝の振り返りをしながら昼食のお弁当を作っていると、いつのまにか支度は終わって家を出ていた。もちろんバルバトス様も一緒にだ。


「あの……バルバトス様。どうして実体化しているのですか?」


 街に出てから、周りからの視線が怖い。男性はバルバトス様に殺気を飛ばし、女性は僕に向かって殺気を飛ばしているのだと。やはり僕みたいな綺麗でも可愛くもない外見の女が、バルバトス様のような色男と並ぶのはおかしいのだろう。


「それは愚問ですよ、姫。姫の様な可憐な方を一人にしてしまっては、害虫が纏わり付いてしまいますでしょう? それに、無理矢理犯されてしまったら、私とのパスが切れてしまいます。また、この国が魔女殿に消されます。(本当の気持ちを言うと、姫を抱き抱えて目的地まで運びたいのですがね……」


 最後の部分は聴き取れなかったが、答えには不穏な単語が聞こえた。だが、気の所為だろう。と言うか、お母様がこの国を滅ぼすとかどうのこうの後の方が気の所為だろう!


「と、兎に角、今は学園へ向かいましょうか!」


 僕はそう言って、歩むスピードを少し上げる。因みに今日着ている服は、今日から正式に通い始める学園の制服を、お母様が少し改造したものだ。なので少しデザインが似ているため、他の学生と馴染めるだろう。

 誰もがバルバトス様に目が向く中、僕は学園に目立たず通い始めた。




「えっと、はじめまして。私はピュルテと言います。得意な事は家事全般です、よろしくお願いします」


 第一印象は大事だと言われている。背後にバルバトス様が居る時点で、僕が普通の人ではない事は教室の生徒全員がすぐにわかっただろう…………そう思っていた時期が僕にもありました。

 僕の自己紹介が終わって、少し間が空いて歓声が響いた。


「よっしゃぁぁぁぁぁああ!」(男子生徒ら)

「きゃぁぁぁぁぁぁぁああ!」(女子生徒ら)


 二つの奇声が教室を揺らした。そして、五月雨の如く質問が僕に飛んでくる。


「彼氏はいますか!?」

「誕生日はいつ!?」

「どこに住んでるの!?」

「お人形は好き?」

「俺と付き合ってください!!」

「私の妹になって!!」

「好みの男性は!?」

「彼女は居るの!?」

「背後にいる男性はパートナーなのか!?」

 エトセトラエトセトラ………


 取り敢えず全員の質問が収まるまで少し待とう…………

 そして、数分してやっと静かになった。


「え、えっと……彼女も彼氏もいません。それに私は誰ともお付き合いはできません。「それは背後にいる男性と婚約――」してません! えっと、その……義姉様………」


 そこで高慢さんに助け舟を送ると、真顔で鼻血を流しながら助けてくれた。


「えっと、ピュルテちゃんは私と同じ魔女です。それと彼女の背後にいらっしゃるのが……」


「どうも、私は魔神七十二柱中序列八位、伯爵位と公爵位のバルバトス。本日から姫が通うこの学園に付き添いとして来ました。以後、お見知り置きを」


 高慢さんがバルバトス様の紹介に入る時、バルバトス様にバトンが渡される。バルバトス様は自分の自己紹介を終えたあと、右手で帽子を外し、流れるように華麗な一礼をする。

 しかし、一つ突っ込ませてください。


「私は姫じゃありませんって言ってるじゃないですか。バルバトス様にとって私はただの非力な魔女の小娘でしょう?」


 僕がそう言うと、何故か高慢さんがツッコミを入れる。


「何を言っているの貴女は! 貴女みたいな傾国の美少女がただの小娘ではないでしょう! あなたたちもそう思うわよねぇ?!」


 そして、生徒に共感を促す高慢さん。その問いかけに、僕以外の生徒一同は同意見の意思を示す。どうやら僕には味方がいないらしい……ちょっと悲しいかな………


「も、もういいです……と言うよりそろそろ授業を始めないのですか?」


 僕がそう言うと、高慢さんはハッとする。しかし、高慢さんはこの地獄の時間を終わらせない。


「ま、いいわ、どうせ私の講義でしかも前回の復習しかできないもの」


 その後も尋問タイムは続いた。









「恥ずかしい……」


 休み時間、僕は机に突っ伏していた。理由は簡単に言うと、ドジを踏んだ。机は階段のようになっている。そして、空いていた席が中段あたりしか無かったので、尋問が終わった後に座りに行こうとしたら一段目で躓き、転んだ。幸い、バルバトス様が僕が階段に身体をぶつけそうになった時に助けてくださったので、怪我はせずに済んだ。しかし、その時の周りの人の表情が、微笑ましそうな感じで僕は恥ずかしかった。

 そして現在、隣に座って居た女子生徒に頭を撫でられている。


「いや〜初めからそう言う危なっかしい雰囲気がある可愛い子だとは思って居たけれど、本当にドジっ子だとはね〜」


 僕の頭を撫でている茶髪の三つ編みお下げの女子生徒は、アリサと呼ばれている。どうやら彼女は平民の出で、魔力が他の人よりも多かったから知識を身につけに来たらしい。


「頭を撫でるのはやめて下さい。余計に自分が惨めに思います…………」


 僕はそう言ったが、撫でる手は一向に止まる気配が無い。それに、伏せているからこそ分かるのだが、アリサの鼻息が地味に荒い。

 そこでバルバトス様が僕に何か仰った。


「姫、そろそろ教室を移動いた方がよろしいのでは?」


「っ! そうです! 次の講義がありました! 急がないと……きゃっ!?」


 ええと、はい。またやらかしました。ええ、やらかしました。やらかしましたとも。

 自分の踵に足を引っ掛けて、階段から落ちた。幸い、これもバルバトス様に助けて貰った。

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