XⅢ 底辺だった僕は変なものの正体を知りました
ソレは異形だった。形は随時変化し、多数の触手がうねっている。全身は黒く、所々に目があった。その異形は、過去に僕の足に刺さったあの黒いモノと似ていた。
「チッ……完全にピュルテを狙っておる………」
「私を…狙う?」
「それは後で説明する。今は大気中の魔素を儂の周辺に集めよ!」
「は、はい!」
現在どういう状況か分からないが、取り敢えずお母様の指示通りに僕は魔素を集める。
それと同時にお母様は詠唱を開始する。
『Dieu tonnerre qui condamne le désordre qui dérange toutes choses J'espère Détruisez les ennemis noirs qui défigurent la Terre Mère!』
僕が集めた魔素が全てお母様の元へ集束し、草木がざわめく。そして空は黒雲が集まり帯電する。風は吹き荒れ、異形の周囲を疾走している。その風のお陰で、僕の方向へ飛んてくる筈の触手が片っ端から弾かれている様だ。
『
そして詠唱が完了したお母様は、右手を掲げ、魔法名を叫びながら勢い良く下に振り下ろす。それと同時に、天から巨大な雷が落ちた。しかし、雷特有の音が響かない。
お母様が放った
しかし、ここで気になった事がある。それは、お母様の詠唱のことと異形が何故僕を狙うか、だ。お母様の詠唱と魔法名は僕の聞き慣れている言語ではない、何か異質な感じがした。だが、僕は魔法名の方は理解する事が出来た。
「あの、お母様―――」
「大丈夫かピュルテ!」
お母様にあの黒い異形について訊こうとしたが、お母様が急に抱きついて来た。苦しい…………
「むごむご……ぷはっ………だ、大丈夫です……ところで、さっきの異形は何だったのでしょうか?」
「あの黒いのは……ふむ…昔お前さんの足に刺さった黒いのがいたじゃろ? そいつの成長した段階のやつじゃ。まあ今回のはまだ未成熟じゃったから良かったが、成熟したら普通の人間も見える様になってしまうがの」
僕の足に刺さった…………う、急に吐き気が…………でも我慢我慢……
「そう言えば最近になって丁度22体かの? 成熟したのが。そいつらは確か〈
「え? ちょっ、んっっっ!」
甘い声が出て来てしまった………と言うか、これは擽ったいて言う段階で済まないよ!もう擽ったいを通り越して快楽に近いよ!!もう本当にお嫁に行けない!!
「どうしたピュルテよ? そんな甘い声を出して? それに顔を赤く………ははん…お前さんは擽りに弱いのかえ?」
「そ、そんな事はどうでもいいですから、早くは、話の続きを!」
悪い顔をしたお母様に、僕は説明を催促する。お母様は揶揄うのを諦め、真面目な表情で話を戻した。
「むぅ……仕方がないのぉ………では、まずはあの黒いのの誕生から話すとするか。あれは―――」
おおよそ2億年前、人族と魔族の登場により、神族の大地は穢れた。神族は神界を創り、1人の罪人の少女を残してその神界に逃げた。穢れた大地は魔素を微量ながら発し、更に大地を汚染しようとしていた。そこで神族は、魔素による汚染を抑えるために聖素を神界から同じ量を放出し始めた。しかし、人族と魔族の文明は早く育ち、神界から放出される聖素よりも穢れが増えた。その様子を一から地上で見ていた神族の罪人の少女は、穢れから〈
「―――とまあ、ざっとこんな経緯であの黒いのは生まれたのじゃ」
「成る程……っと、言う事はあと21人以上もの犠牲者がいるって事じゃ無いですか!!」
僕がそう叫ぶと、お母様は何故か明後日の方向を向いた。そこで僕がさらに問いただそうとした時、声が聞こえた。
『私の
「ふぇっ!? バ、バルバトス様!? わ、私……召喚? え?」
バルバトス様の声が耳元で聞こえて驚いた。僕はバルバトス様を召喚していないはずなのに、バルバトス様の声が突然聞こえたのだ。
「私はここですよ? 私の
背後からそう聞こえたかと思うと、突然僕はバルバトス様にお姫様抱っこと言う形で何故か抱き抱えられた。そして顔が近い。顔が……近い。
「本日のお召し物は随分と誘惑的ですね?」
「そ、それは違います! そ、それより、わ、わわ、私はバルバトス様をしょ、召喚した覚えがな、ななな無いのですが!」
突然の登場とその顔は止めてくださいお願いします僕が死んじゃいます心臓止まっちゃいます……
「なんだバルバトスよ、また来よって……幾ら来てもピュルテはお前さんにやらんぞ。もしピュルテと関係を持ったら…………その時はお前さんは二度とピュルテには合わせられぬ様に消すからの」
「おお怖い怖い。だが、それだと私と私の
お母様とバルバトス様の間には見えないが、火花がバチバチと散っている様な気がした。
それより、今は早く降ろして!!
「そう言えば聞きましたよ、私の姫。明日から学び舎に通うそうですね? 私もお供してもよろしいでしょうか? まあ勝手に付いて行きますが」
「勝手に付いて来るなら許可はいらないじゃ無いですか……って、姫!?」
「その反応は肯定として受け取っておきます。それより今宵はもう遅いですし、貴方達もそろそろ寝床へ就くか夕食を摂りなさい」
バルバトス様はそう言って、森の動物達を森に送る。ただし僕を抱えたまま。姫じゃ無いんだけど……
お母様は何かブツブツと呟いていたが、直ぐに家に入った。その後に僕とバルバトス様も家に入る。
「言っておくがお前さんの分はないぞバルバトスよ」
「ああ構わないさ」
お母様は夕食を準備しながらそう言うが、僕はバルバトス様が可哀想だと思った。
「なら私の分の半分どうぞ」
「ピュルテ!?」
「おや、私は実に良い
「そ、それはあり得ません!」
取り敢えず突っ込ませてもらおう。僕はどの国の姫よりも美しさは劣っていて、どの学者よりも学問に熱心である事も劣っていて、どの淑女よりもお淑やかさでも劣っている! そもそも僕は男だったから、女性と比べられると困るから!!
そう心の中で突っ込んでいたら、夕食の準備が終わった。やはりバルバトス様の分は無いらしい。だから僕は、もう一人分の食器を運んで、自分の分を半分に別ける。
そして夕食を食べ始めた。
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