Ⅻ 底辺だった僕は怒られました

「全く……バカな事をしおって………」


「はい……大変深く反省しています…………」


 僕はボロボロになった侍女服…ではなくメイドドレスで土下座をしている。少し泥を被ったメイドドレスと髪と肌は、お母様が見た途端激怒するのは当たり前だ。

 事の発端は少し前に遡ることになる。








 僕は高慢さんの所で思い付いたアイデアを試そうと、お母様の家に転移して庭に出た。

 お母様は丁度外出していた為、好都合だと思って実行した。


「えーっと、大気中にある魔素を効率よく変換する術式のここをいじって…………で、永続的にさせる為に……………」


 世界観が変わった今だから思いついた事。自分で開発した、大気中にある魔素を効率よく変換する術式を脳内で改造を検証して出来た仮説の術式。実験のモルモットは自分。失敗する可能性は低いと確信していた。

 僕が作った新しい魔術。それは『魔法行使の際に、大気中にある魔素を効率よく吸収する術式』。これは特に誰かに教えるつもりは無いので、名前は付けない。


「出来ました!」


 この時、完成したと確信した。無駄な部分を削りつつ、既存の術式の利点を生かして出来た僕の最初で最後の最高傑作。

 因みにタロットカードの方はまだ未完成。

 そして僕はその魔術を発動する。


「刻印魔術No.0、発動」


 ここで事故が起きた。魔術の行使は成功した。しかし、原因がわからないがその場が爆発した。幸い、威力は僕自身が被害に遭う程度で周りには被害は無かった。

 その後、爆発音を聞き付けてお母様が飛んで来た。








 そして爆発の原因を厳しく尋問され、現在に至る。

 ただ、個人的に幸運だった事は、メイドドレスが破れ、所々肌が露出してしまうと言うキワドイに近い状態にならなかった事だ。

 そしてお母様の説教は続く。


「……爆発は未だ眼福になれると言うのになんなんじゃ、その中途半端な焦げ方は! もっと威力を上げ所々肌が露出するように破れ! …………」


 お母様!?ちょっと、なんでそこに期待してたのですか!

 ここが森の中だからと言って、流石にその状態は僕には耐えられないよ!?


「……それに自身に刻印魔術を刻むとはの………全く…本当にライラに似ておる……」


 へぇ、僕のお母さんだと思われるライラさんも同じ事をしたのか……

 そこで僕は右手の甲に変なものを見た気がした。だから右の袖をまくる。すると、今まで見たことが無かった印が一つあった。その印は、六つの翼が描かれてあり、中心には六本の放射線の小さな光があった。さらに左腕を確認しょうとした。

 その時お母様が言った。しかも興味深そうに。


「折角隠しておいたのじゃがのぉ……右は『傲慢』か」


「隠していたのですか? それに6枚翼で傲慢ってまるで――」

「『七つの大罪』…じゃろ?」


 七つの大罪、神からの罰が最も重い七つの罪。それは傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲の七つ。そしてどれも対応の悪魔が存在する。

 僕の右手の甲の印をお母様は傲慢と言った。成る程、確かに翼が六つで、さらに光を表す小さなシンボルは光をもたらすという意味だろう。これらを纏めて考えるとルシフェルを意味する事になる。


「まぁ、今は他の部位にある『罪』を儂に見せよ!」


 そう言って研究心に火がついたお母様は僕の衣服を魔法でテキトウに転移させ、僕は全裸にさせられた。もうお嫁に行けない!!




 結果、左腕には五芒星と牛の片角で『怠惰』。右太腿にはとぐろを巻く蛇のような水龍に王冠で『嫉妬』。左太腿には金を抱え込んでいる猫で『強欲』。背中の心臓が位置するあたりには氷?を纏った狼で『憤怒』。右頬には骨つき肉を喰らう大きな虎で『暴食』。か、下腹部……には………ぐ、軍旗を…逆さまに向けたのと……一緒に…その……さ、蠍……で、し『色欲』……最後のは位置と構図が恥ずかしい!!配置に悪意しか感じないよ!もはや淫紋だよ!!


「ふむ……やはり魔女によって罪の印も変わるのか………して、ピュルテよ。お前さんは随分色っぽくなったのぉ……」


「そ、そんな事…ありません…………私は全く変わっていませんよ、お母様……それより何か着るものを下さい………恥ずかしいです」


 取り敢えず感想はいいから何か着るものを下さい。お願いします。恥ずかしいです。この身体になって慣れていたつもりだったけれど、全く慣れていないです。だから、だから何か着るものを……

 そんな事を思うが、もっと言ったら逆にお母様が興奮しそうだから言えない。それに、森の動物達も徐々に集まって来ているみたいだ。草木が少し揺れ、それが徐々に大きくなっているので何となくだがわかる。


「仕方がない、ほれっ」


「ありが――」


 お母様はそう言って綺麗な服を僕に渡した。僕は感謝の言葉を言おうとした時、服を広げて言うのを止めた。服は無地で飾り気のない白いワンピースなのだが、おへそ、両腰、背中に楕円形の穴があるデザインだったのだ。露出度が………露出度が……

 なかなか渡された服を着ようとしない僕を見て焦れったいとお母様は思ったのか、否応無しにその露出度が高い服を僕に魔法を使って着せた。それが一瞬の事だったので、手に広げていた服が消え、自分がそれをいつの間にか着ていたので驚いてしまった。


「うむ、良く似合っておる」


 お母様はそう嬉しそうに「眼福眼福」など言ってから、揺れる森に身体を向けた。その瞬間からお母様の雰囲気が変わる。さっきまで和んでいた空気だったが、今は緊張感が支配しており、肌に感じる気温は低くなっている。それに、現在感じている空気が触手のように纏わり付いているから気持ち悪い。

 そして揺れる森から次々と動物達が飛び出してくる。その時、彼らは僕を捕捉すると、すぐに僕の後ろに回り、縮こまった。


「お、お母様、これは一体何が―――っ!?」


 お母様に現状を聞こうと思ったが、僕は森から現れたを見て出す言葉を失った。

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