V 底辺だった僕は侍女服を着始めました

「うぅー………」


 現在、僕は机の上で突っ伏している。頭がパンクしそうだ…………

 何故そういう状況なのかというと、魔女が使う魔法、魔術や呪術の基礎を師匠から教わっているからだ。しかし、僕が今まで覚えた基礎知識は実際は少し間違っていたらしく、『魔女』が知識ある者の種族と呼ばれる理由が今、実感している。

 例えば、魔女は悪魔を身に宿した女性を指していて、男性が悪魔を身に宿すと肉体が耐えられる器へと作り変えられ、性別が変わる場合があるのだ。他にも魔女が使うのは魔法だけではなく魔術もあったり、自然物から薬を生み出すための薬草学など、色々と師匠から教えてもらっている。


「なんじゃ、もう頭に入らぬのか?」


 師匠は僕にそう声をかける。


「そもそも師匠の教え方がその……特殊過ぎるのです。とても覚え難いです」


 僕は突っ伏したまま更に続けて言う。


「それに、一人称を強制的に変えられるは、着せ替え人形されるはで色々と疲れました………(まぁ、家事とかは楽しくて良いのですが……」


「し、仕方無かろう。お、教えるのは久し振りなのじゃからの……はぁ、これは最後の時まで取っておきたかったのじゃが今言うしかないのう…………」


 ん?最後まで教わったら何かあるのかな?


「最後ですか?」


「ああ、じゃがこれを言わねばお前さんは頑張らないだろうし今言うかの」


 それを聞いたら僕にやる気が出るのかな?


「一応、お前さんは覚えるのが早いから言うのは早いと思ったのじゃが、こうもやる気が出ぬのなら仕方が有るまい」


 結構気になるけど……言わないで欲しい!


「わ、分かりました! が、頑張りますから言わないで下さいお願いします! 何でもしますから!!」


 僕はガバッと体を起こしそう言った。が、それを聞いたらお師匠様が何か悪いことを考えている様な笑みで聞いていた。


「ほう、『なんでも』か?」


「あ、行き過ぎたのだけは勘弁して下さい」


 やらかしてしまった。どうしよう……


「じゃあ言うかの、終わった後のこt「あー! あー! 分かりましたからそれ以上は!」……諦めたら良いものを……やはり似ておるな…仔猫キトゥンに」


 なんか色々と疲れる……


「じゃ、この服をこれから着るようにしてくれるか? 一応言っておくのじゃが、拒否権はないぞ♡」


 最後のハートに僕の背筋が凍った。


「わ、分かりました!」


 こうして僕は今日から侍女服で過ごすことになった。どうしてこうなったんだろう…………




 ―――――――――――――――――――――




「も、もう覚えよった…………」


「はい! バッチリ全部覚えました!」


 ふふふ……仕返しとして基礎を全部覚えてやりましたよ……序でに発展もいくつか独学だけど色々と作れたし……

 今、やっと師匠をギャフンと言わせられて嬉しい気持ちでいっぱいだ。


「あゝ……儂の可愛い可愛い着せ替え人形が……15日間で完璧に覚えるとは思わなかったぞ………ライラだってこんなに早く覚えられなかったのに………」


 え?なんで僕が手放される雰囲気なの?


「え、えっと……師匠。それで、こ、今後の予定は…どうしたら良いのでしょうか?」


 取り敢えず前々から気になっていた今後のことを聞いてみる。


「今、転入の申請書を送っておいた……」


 師匠がなんか悲しそう……そんなに着せ替え人形が手放し難いのだろうか?って、問題はそこじゃなかった。


「っ!? て、転入ですか!?」


 まさか師匠がそんなものを用意していたとは……って、


「で、ですが私の名前はどうしたのですか?」


 僕がそれを聞くと師匠は急に得意げな表情で胸を張って言った。


「儂が考えた」


 ………………はい?


「え、えっと、師匠が私の名前を勝手に決めたのですか?」


「儂はもうお前の師ではない。これからは母として儂に接せよ。そして週一くらいには蝙蝠便を寄越せ……」


 ………………ナニコノテンカイ………


「あ、う、し、師匠?」

「師匠と呼ぶな!」


「は、はい、お義母様!」


 急に怒られた……なんでだろう…………


「それで来週からお前が通う学び舎はの、隣国の魔法都市なのじゃ」


 魔法都市はこの魔女の森と呼ばれている森の東側にあり、この森は帝国の端にある。一応帝都と魔都は交易はしているが、そんなに仲が良いわけではないらしい。因みに、帝国の名前は〈アーカッド〉、魔法都市の名前は〈イスクゥシェ〉だ。お母様が僕を入学させようとしている学校が隣国にあると言うことは結構距離があるのだ。因みにこの世界では転移魔法は完成していないらしい。


「で、お前さんは『ピュルテ』と言う名で生きる事になる。それは前の名を捨てる事になるが良いか?」


「私は一向に構いません。寧ろ、元父が付けた名ですからいつでも捨てられます!」

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