Ⅳ 底辺だった僕は学校を辞めました

「学長先生、各研究室からの予算申請をまとめた書類を持って来きました」


 生徒会長は学長室の扉をノックしてそう言った。そしてそのまま扉を開けて入る。僕はそのまま彼女の後に続いて入った。


「そうかい。じゃあそこら辺の机の上に置いておいてくれ。後で確認する。それと後ろの小娘は誰だ?」


「彼女ですか? 彼女は学長に渡すものがあるそうなので序でに連れて来ました」


 学長先生は僕を見る。そして何かを知った様な雰囲気で会話を続けた。


「そうだったか。じゃあお前さんは先に出てっても構わないよ。私もこの小娘にちょっと二人だけの内緒話ができたからな」


ここまで僕はただの置物のように黙って手紙を持ったまま立って聞いていた。生徒会長が部屋から出ると、少しの間静寂が訪れた。が、すぐに学長先生が口を開く。


「これは驚いたな。まさかまた、魔女に会うとは思わなかったわい」


 『また会うとは』と学長先生は言った。つまり、森のあの魔女に会ったことがあるのだろう。あの魔女も学長先生の事を小僧と呼んでいたのだし……

 僕は手紙を渡す序でに質問する。


「え、えっと、し、師匠から手紙を渡して来いと言われまして……その………どうして私が魔女だと分かったのですか?」


 これは疑問に思った。学長先生は僕の事を魔女として認識した。つまり、人間と魔女の見分け方があるのだろう。

 僕は手紙を学長先生に渡す。


「その手紙を留めている封蝋に見覚えがあってな」


 学長先生は手紙を受け取ると、直ぐに読み始めた。そして、今度は驚いた表情で僕を凝視した。


「君は……あの学年最下位の……」


 どうやら手紙の内容に僕のことについて書いてあったらしい。あれ?でも、僕は自分の事は名前も勿論、一切口にしていないはずなのに…………


「その名前で私を呼ばないで下さい。今の私は、昔の私ではありません」


 と、取り敢えず自分も知っている風に誤魔化しておこう。詳細は後であの魔女に訊くことになりそうだ……


「あ、ああ……では、お前は森に迷って帰ってこなくなったという事にしておこう。5日後にそう市役所に書類を書いておく」


「それでお願いします。では、私は用が済みましたのでこれで失礼します」


 僕はそう言って学長室を出る。最後に学長先生が何か言いたげな表情だったが、僕は歩みを止めなかった。

 自分が死んだことになったが、特に悪い気持ちがしない。寧ろ清々した気持ちでいっぱいだった。あの両親達に泥を塗ることが出来たし、満足で心が満たされている。お母さんは望んでいなかったことだろうけど、それでも僕はその結果に満足している。

 こうして、前の僕はこの学校を去ることになった。




 ―――――――――――――――――――――




 本来、僕はこの時間は学校で勉強している。しかし、その僕は今はもう存在しない。今いるのは『魔女』になった僕だ。初めはこの身体に慣れなかったが、『魔女』だったらしく、直ぐに女の体に慣れてしまった。

 だから、街の中を1人で歩くのは少し怖い。何故なら大人の男性からの視線が鋭く、今の僕の体は華奢な女の子の体なので自分を守る手段がないからだ。

 なので僕は、急いで森へ帰ることにした。

 森の入り口に着くと、忘れ物をしたことに気が付いた。僕は急いで自分の部屋に戻ると、大きめの鞄を用意してそれに荷物を詰め込み始める。入れる物は料理器具と調味料、筆記用具と安物の手帳を何冊か、タロットカード、一冊の分厚い本の6点だ。最後に入れたタロットカードと本は、僕の母の物だ。何かの役に立ちそうなので入れておいた。これで準備が整った。

 持ち上げてみると少し重かったが、流石に体力と筋力はあの時と同じくらいで何とかなりそうだった。




 しばらくして森を歩いていると、大体森の中心あたりの所で一つの小屋を見つけた。如何して地図を持たずに中心あたりだと認識できたのか分からなかったが、多分この小屋が目的地だろう。

 僕は小屋の扉の前に立ちノックする。すると、直ぐに扉が開いた。


「早かったのう。如何やってここまで来た? 地図を使ったのか?」


「え、えっと、地図を使っていませんでしたが自分でも分かりません。ただ………感覚に任せて来たら辿り着き…ました」


 僕は正直に話す。


「ほう、森の者にも好かれておるのか……合格じゃ、ささ、上がりなさい」


 森の者?知らない単語だ。だけど、後から知る事ができるだろう。

 それより、昨晩と違って印象が少し違うような気が…ま、これも後々分かるだろうしそのままでいいか。

 だけどこの時の僕はまだ、考えが浅かったのかもしれない。

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