Ⅲ 底辺だった僕は女になっていました

 目が覚めて驚いた。僕の体は男の体から女の体になっていた。慌てて自分の服装と周囲を見回して確信する。服は女物白いワンピースだが運ばれて服装が乱れた跡はなく、周囲の景色も変わっていなかった。(後々知ったことなのだが、この時着せられていた白いワンピースは、マキシワンピースと言うものらしい。それに、手作りのようなので、肩紐には丁寧にレースが縫われていた。)


「昨日までは男だったのに声まで女になっています……どうして?」


 声も高くなり、自分の体が自分では無い感覚のはずなのに何故かすぐに慣れた。少し慣れないとすれば…その……下が男の尊厳であるアレが消えて、しかも足元がスースーしていて落ち着かない……髪の毛も短かったのに何故か腰ぐらいまでの長さになっていた。

 腕を動かしていると、ふと、右手首に違和感を覚えた。僕は右手首に視線を向けると、今まで身に付けていた金の細いブレスレットではなく、手首には包帯が巻かれ、その上に黒い金属のブレスレットがあった。その包帯と僕の手首の間に何か違和感をさらに覚えた僕は、包帯を解く。包帯を解くと、何か書かれた羊皮紙が出てきた。羊皮紙には僕の身体の事について書かれてあり、昨晩の魔女からのものであった。



 ―弟子へ

 お前さんが起きた頃にはお前さんの体は女になっておるじゃろう。じゃが、驚かなくても良い。理由は儂がやったからな!

 と言っても、右手首にあった腕輪に施されていた封印を解いただけじゃがな。後から解くのも良かったのじゃが、儂はお前さんを弟子にする事はもう決めた事じゃからな。逃げられては困るので予め解いておいた。それと、腕輪が黒くなっているのはそれが元の色じゃ。元は黒金の腕輪じゃったが、封印の文字を隠す為に偽造されていたのじゃ。それもついでに戻しておいた。

 ついでに、お前さんが着ている服は儂からの選別じゃから金は取らぬ。その代わりじゃが、これから儂が趣味で作る洋服の着せ替え人形になって貰う。勿論、修行とは別で生活内でじゃ。

 じゃから、逃げられると思うなよ……わっぱ

            師匠より―



 酷い内容だった。もう逃げ道は封鎖されて弟子になる選択肢以外だと『死』しか無いじゃないか。


「ああ……学校どうしよう………学長先生に手紙を渡さないといけないのに……」


 僕はその場から立ち上がり、軽く付着した土や草を払う。


「仕方がない、気が進まないけどそのまま行くしかないか……」


 僕はそう呟いで自分の寝室に戻った。





「荷物はこれくらいでいいかな? あ、あの手紙を忘れるところだった」


 学校に行く準備が整った。僕の部屋は特に何も置いてないから色々と見つけやすい。必要な荷物を入れればもう新居の状態だ。教科書とかは学校に置いてあるから忘れる心配も無い。

 学校に向かう準備が整い、僕は別館の裏口から出る。こう言う姿だからそこから出た訳ではなく、僕がいつもそこから出て登校しているから不自然ではない。



 登校中、何回か視線を感じたが問題なく学校に着いた。学校は普段から開放しているので誰が来ても警備員に止められない。なので僕も普通に学校の正面から入る。

 廊下を歩いているとこんな話し声が聞こえた。


「なあ見ろよあの娘。滅茶苦茶可愛くね?」


「お前、やっぱり長い髪の毛の女が好みかよ」


「そう言うお前は幼女体系の娘やドワーフ娘とかが好みなんだろこのロリコめ」


 多分『あの娘』は僕の事では無いはずだ……


「ねぇ、あの娘が着ている服可愛くない?」


「分かる。でも、着ている娘も可愛い。て言うか、着ている娘が可愛いから服も可愛く見える。妹に欲しいくらい可愛いわ………」


 何も聞こえない何も聞こえない。僕は何も聞いていない。そう、廊下は静かだったんだ。廊下は……静かであって欲しい…………

 そうこうして学長室前に着いた。初めは扉をノックして入ろうと思ったが、よくよく考えると今の僕は僕ではなくなってしまった。どうやって学長先生に手紙を渡そうか部屋の前でオドオドしていると、1人の女子生徒が歩いてきた。名前は思い出せないが、確かこの学校の生徒会長だった気がする。まだ入学して間もなかった頃は同じクラスだった事は覚えていた。


「あら? 貴女は……ウチの学生ではないですね。学長には何か要件があるのですか?」


 あ、やっぱり他人だと思われている。当然だけど……


「は、はい。私はとある人から手紙を此処の学長先生に渡しに行けと言われまして……」


 一人称が『僕』から強制的に『私』と言わされた。絶対、封印を解いたと同時に何か仕組んだよあの魔女……


「そう、貴女は運が良いのね。丁度私も学長先生に用があるの。良かったら一緒に済ませない?」


 おお、これは有難いお言葉だ。是非ご一緒させていただきますとも。


「お、お願いします」


 こうして、僕は何の問題も無く学長室に入ることが出来た。

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