Ⅵ 底辺だった僕は悪魔様に会いました
「そうそう、ピュルテの制服は儂が作った服だけじゃから、絶対に買うでないぞ?」
えぇ…………なにそれ……ん?と言う事は、
「こんな侍女服で通わなければならないのですか!?」
「そうじゃ。そして侍女服ではない! メイドドレスじゃ! それと、ピュルテの転入の申請書は儂が書いたから絶対に通るからな」
え!お義母様にそんな権力が!?本当に何者なのだろうか…………
「それと、今夜は早く寝なさい」
今夜は?そういえば、今日は月が変わって15日だから満月だよね?確か満月は、大気中にある魔素、聖素などが比較的に増える原因になる月だっけ?それで、増えるから危険となると何かが森に出現するのかな?多くの魔素や聖素が必要なのは確か………悪魔と天使か。でも、天使はあまり地上に降りないから悪魔の出現か。それに聖素が充満する中だと下級や中級の悪魔だと直ぐに浄化されるから残るは上級と特別種が残る。
「となると大悪魔、もしくはそれ以上の存在か、大精霊の発生……ですか」
「なんじゃ、当ててしもうたか。ま、それもそうかの……さて、夜まではまだ長い。今のうちに寝ておけ」
答えが口に出てしまった……恥ずかしい…………
「で、ですがさっき早く寝ろと仰っていたじゃないですか? 危険なのではないのですか?」
「ん? あれか? あれはまぁ……簡単な卒業試験の様なものじゃよ。お前さんは覚えが早いから31日から始まって丁度15日目、今宵は満月じゃ。それがこの森だと奴しか現れん」
奴しか現れないと言う事は、お義母様の知り合いだろうか?
「それに、さっきの答えがわからぬのなら一からまた叩き込ませたのじゃが…………ハァ……本当に残念だ…………」
うーん……アレは言うべき……かな?僕が作った魔術……論理は完成して、コッソリ実験もして成功したけど………
「あ、あの、お義母様……この様な雰囲気に大変場違いな事を言っても宜しいでしょうか……?」
「なんじゃ? 言うてみなさい」
「えっと……この魔術陣なのですが……」
そう言って僕はお義母様に一枚の紙を渡す。
「この魔術陣は…………ッ! 実証はしたのか?」
どうやらお義母様は見ただけで理解できた様だ。やっぱりお義母様はすごいなぁ…………
「はい……独学で作って見たのですがどうでしょうか?」
「お前さんは……とんでもないものを作ってしまったな…………完璧じゃ。論理は完璧、しかも応用も作り易い。そして魔力の消費が少ない………何時ぞの世も、化け物や天才は埋もれているものなのじゃな…………」
褒められた……のかな?
「しかし、これは絶対に他の者に教えてはならぬぞ? 良いな?」
「はい、分かりました。では、広める用に膨大な魔力が必要な物や、それに異世界から召喚する物などを作ってみるのはどうでしょうか? いつまでも平和は続かないものですしっ!」
「フフッ。面白い事をそう易々と思いつくのお…ピュルテは。本当にそこが愛らしい……」
お義母様が僕の頭をそう言いながら抱き撫でる。暖かい……久し振りの人肌の温もりだと思う……
―――――――――――――――――――――
陽が落ちるまで僕は人の体温に包まれていた。
「さて、日も落ちてきた事じゃ。そろそろ奴が来る頃じゃの」
「あ、その前にこれを飲みましょう、お義母様」
「お、コーヒーか。ピュルテの淹れるものと儂の淹れたのを比べると、悔しいがお前さんの方が美味いからの。頂こう」
そう言ってお母様はコーヒーカップを受け取り、僕が淹れたコーヒーを一口飲む。
「今夜は寝ない方が良いと思うので、豆は多めでお口に合うか分かりませんが………」
「いや、これはこれでいいぞ。儂は好きだ。特に苦みを抑えるための砂糖が少しだけ主張していて丁度良い」
どうやらお義母様のお口に合ったようだ。合わなかったらどうしようかと思ったけど、安心した。
すると、遠くからトランペットの音色が聞こえて来た。その音色は次第にこの家に近づいて来る。そして家の前に着くと、演奏が止んで扉をノックする音がした。お義母様が椅子から立ち上がって出ようとしていたが、ここは僕が出ると言って、お母様をまた座らせた。
僕は恐る恐る扉に近付き、扉を開けた。
扉の向こうには悪魔がいた。一目見た時は人間だと思ったが、すぐに悪魔だと僕は気が付いた。
「こ、こんばんは………悪魔様」
「ああ、こんばんは新しい魔女のお嬢さん。貴女の事はもう知っていますよ」
「そ、そうですか……」
扉の向こう側には美しい短い銀髪の青年がいた。彼の見た目は狩人なのだが、何処か雰囲気が違う。背中の弓はとても軽そうなのだが、それでも威圧感が大きい。この感覚は上級の悪魔なのだろうか?僕には中級以下の悪魔すら会った事が無いから差がわかならない。
そんな圧迫感に、僕は押し潰されそうになった。
「これバルバトス。儂の可愛い娘をあまり苛めないでおくれ」
お母様が僕の背後からバルバトスと呼ばれた青年に話し掛ける。
「ああ、すまないすまない。ちょっと揶揄い甲斐のある様なお嬢さんだったものでね」
そう言った悪魔様から威圧感が消えた。その瞬間、僕は腰が抜け、その場に崩れた。
「揶揄いすぎじゃ! 儂の可愛いピュルテが腰を抜かしてしもうたではないか!」
「おっと、それは本当にすまない。それにしても貴女は変わりましたな。2匹目の
青年の顔の表情は、笑顔のままでいた。彼の表情は、全く変わっていない。でも、お母様との対話では、その笑顔に緊張が見える。
僕は、狩人の悪魔様とお義母様の関係がとても気になった。しかし、それを知るのは未だ先になりそうだ。
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