Main Ⅰ 浸蝕
Ⅰ 底辺だった僕は変なものを見ました
僕は家族の中で底辺だ。長男なのに父の子の中で魔法の才が無い。長男なのに妹より学力が劣っている。長男なのに弟より運動ができない。長男なのに家事しか使えない役立たず。両親からそう言われている。
学校でもそうだ。男なのに女々しいと言われる。友人といれば先生に友人と比べられる。友人にも劣っているから周りに馬鹿にされる。成績が伸びにくいから悔しくないのかと言われる。妹や弟に劣っているのに悔しくないのかと言われる。馬鹿にされているのに悔しくないのかと言われる。悔しいのに努力しないのかと言われる。
「そりゃあ悔しいさ……努力しても何も掴めない自分が憎いくらいに………」
そんな言葉は誰も聞いてくれない。だから偶に、自分は本当に努力しているのか疑問になってしまう。だって僕の周りは才に溢れ過ぎて、僕自身の努力が進んでいないように見えてしまうのだ。僕が頑張って追いついたとしても、ほんの数秒、数分、数時間、数日でまた差が大きく開いている。
だから今夜も、僕は家を抜け出して森で過ごす。
僕の家の近くには誰も立ち入らない森がある。勿論、家でも立ち入るなとは言われている。しかし、家の中で底辺な僕は存在が無いのと等しく、森に立ち入っても何も言われない。むしろ、帰ってこない方が喜ぶだろう。そんな森に踏み込んだのは弟が剣の大きな大会で堂々と優勝した日だ。その日、父母は僕の前でハッキリと言った。
「やはり長男は一族の面汚し……か」
「やはりあの女の子供だからじゃないの? 黒髪に黄色い瞳、ほぼそっくりですもの。気持ち悪いったらありゃしない」
あの女とは僕の母の事。最近までは生きていたが、ある日、毒蜂の毒に蝕まれて五日間寝込んだ。そして息を引き取った。母は綺麗な人だった。妹と弟の母も綺麗だが見た目だけだ。僕の母はそれよりも何倍も綺麗だった。
僕が悪く言われるのはまだ耐えられたが、母の事を言われた途端に僕は俯いて、森の方向に体を向け涙を流しながら走って行った。
勿論、誰も追いかけては来ない。
涙で視界が霞む中、森の中で不意に僕は転んだ。躓いたのではなく、急に左足に激痛が走ったから転んだ。前から倒れこむ様に転んだ僕は横に転がり、痛みを堪えながら激痛が走る左足に目を向ける。目を向けた先には、何かが左足に刺さっていた。
それは黒く、
それは鋭く、
それは脈打ち、
それは僕を見つめていた。
僕は直ぐにそれを引き抜いた。直感的に危険だと思ったからだ。引き抜いたのは良いが、刺さった部分からの出血が止まらない。
痛い、
熱い、
寒い、
怠い、
息が苦しい、
視界が眩んできた、
心臓の音も早くなって…………………視界が暗転した。
目を見開けば僕は自分の部屋のベッドの上で寝ていた。少し意識が朦朧としていたが、左足のことを考えた途端に意識が覚醒した。急いで起き上がり、左足を見てみると不思議なことに刺されたこと自体が無かった様に元通りに戻っていた。そして、刺さって来たあの謎の物体に事を思い出した途端、僕は強烈な吐き気に襲われた。急いで自室にある痰を吐く為の箱に…………吐いた。喉を通った胃酸が口まで到達して苦い。胃酸が喉を傷めつけて痛い。こんな音を聞いても誰も来ない。それは当たり前だろう。家に居る人全員僕のことを心配しないのだから。と言うより、僕の部屋はそもそも別館にあるから誰にも聞こえない。
少ししてやっと吐き気が収まった。しかし、胃酸が通った後の喉はまだ荒れている感覚もあるし痛い。そして、口に残っている胃酸を流そうとまだ、唾液があふれ出てくる。
「………何だったんだろうあの黒いのは…………」
足に刺さったあの黒いモノの事を考えたら少し吐き気がしたが、我慢できた。その、後色々と考えていたりしていたらお腹の虫がなった。そう言えばまだ夕食を摂っていなかった。
「気になるけど……今は食べるか」
そんなこんなで自炊した夕食を食べ終え、現在は皿洗い。
「そう言えば僕はどうやって家に帰ったんだろう?……また森に入れば分かるかな?」
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