第10話 蒼い空と黒い雲(1)
今日の夢はいつもより早い時間なのだろうか。まだ完全に夕方となっておらず、青い空が遠くに見えている。隣にはいつもどおり誰かがいるのだが、少し離れた場所に座ってる。俺は声をかけようとして立ち上がるが…
...起きてしまった。何かが違った夢だったからもう少し見たかったが仕方がない。時計を見ると5時5分前。二度寝してもいいが小さい頃から二度寝が成功した試しがない。かといって走りに行く気にもならず、少し寝たまま最近のことを思い出した。
まず千夏ちゃん。あの子は学校では何もしてこないはずだ。人前では大人しいキャラのはずだからな。だけど俺から誘って家に来させているのにそれを俺が断るのは無理だから、家だけ注意してなるべく翠のそばにいよう。
あと、沙夜姉と買い物した時にいた男。俺か沙夜姉の知り合いだとすると、小柄で少し鍛えた体の人物は数少ない。無理やり条件を加えると、沙夜姉のファン。それに当てはまる人、と言っても最近まで沙夜姉の人気を知らなかったんだがな。でも学校内にいると考えれば探すのは楽になってくる。...あれ?でも俺は探してどうするんだ?
「あお兄〜、起きてるー?」
ん?翠か。なんでこんな早くに。
「起きてるよ。入ってきていいぞ」
ガチャ
「1つ聞きたいことがあるんだけど」
「唐突だな」
「昨日ちーちゃんと何かあった?」
「げっふげふ!な、何も無いよ?」
「うわわかりやすっ、何があったの?」
ぐいっと近づいて来る。今後のためにも話すべきなのだろうが、あまり気が乗らない。というか、話すと俺が危ない。
「えーとな、翠。...胸チラしてるぞ」
「え!?うそ!見んな変態!」
「嘘だよ嘘。妹の胸見たってなんとも思わん」
まあ見えていたんだがな。
「まったく、そんなに話したくないなら話さなくてもいいんだけど、ちーちゃん悲しませるようなことはしないでよ?」
「それはわかってる」
被害者俺だし。
「ならよろしい」
「でもなんでこんな早くに?」
「え、いや、ちーちゃんにあお兄とられるんじゃないかって...」
「え?」
「ん?あ!違う!あお兄にちーちゃんとられるんじゃないかって心配で!」
「ぷっ...そんなこと気にしてたのか?俺はお前の親友をとったりしないよ。千夏ちゃんを悲しませるようなことはしないように、お前を本当に悲しませることも無い。だから安心しろ」
少しカッコつけ過ぎたかな?柄でもないことを言ってしまった。
「...バカ」
と言って翠は出ていってしまった。
「え、俺なにかした...?」
時は進んで放課後。今日は部活があるので俺は一人で部室に向かっていた。すると道場の中から話し声が聞こえた。
「...理由を聞かせ......か?」
うーん、ドア越しだとうまく聞こえねえな。でもなんかシリアスな雰囲気だから入りにくいし。この声は部長の出雲さんかな?紹介しておくと、3年の出雲 帝さんは空手部の部長だ。部内では3番手に当たるが、男子をまとめるのがこの人で、女子をまとめるのが沙夜姉だ。
「私実はす......んだよね。だから...」
どうやら話しているのは出雲さんと沙夜姉のようだ。
「くっ...また話す機会をくれ」
ガチャ
「のわわっ!」
いきなりドアを開けるもんだからもう少しで顔が潰れるところだった。
「ん?佐々木か...まさか聞いていたか?」
「何をです?」
「いや、何でもない。俺は用事があるから今日は休ませてもらう。秋月に従え」
「わかりました」
「.........が調子にのるなよ......」
「何か言いました?」
「いや、何でもない。じゃあな」
なんだか、今のあの人の目は怖かった。普段から威厳のある人だがよく俺とは話をしてくれる。だがあんな目をしたことはなかったはずだ。
「俺がなにかしたのかな...」
中を見ると沙夜姉が1人突っ立っていた。
「沙夜姉、どうかしたの?」
と聞いてみたが反応がない。
「沙夜姉?」
と、顔を覗いてみた。
「きゃっ!」
「おぉっ」
似合わない可愛い声出すもんだからびっくりした。
「なんだあお君かぁ〜びっくりした。いきなりキス迫らないでよ〜」
「ちがうわっ!遠くから呼んでも反応がなかったから顔覗き込んだだけだ!で、どうしたの?」
「あ、えーと、何でもないの!気にしないで」
「そうか?相談してくれれば出来ることなら何でもするからな?」
「うん、ありがとう」
やはりどこかいつもの沙夜姉と比べて暗い表情だ。出雲さんのあの表情と言い、不穏な空気が漂っていた。
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