第2話不動の夜(1)

さて、昼休みにたっぷりのお説教と進路相談までしてくださりやがったので、5、6時間目はぐったり。放課後に入り部活用意をしていると、クラスでも仲がいい三上 隼人が話しかけてきた。

「よう蒼、今日は部活か?」

「おう、鬼塚のせいで精神力はもう残ってないけどな」

「それはあの秋月先輩と仲良く登校している罰だ」

「なにが仲良くだ。あいつ自分だけ校門滑り込みしやがって」

「お前知らないのか?秋月先輩人気あるし、お前に嫉妬してるやつも沢山いるぞ」

「そ、そうなのか?知らなかった、沙夜がそこまで人気者とh...」

「とうっ!」

「痛っ」

突然後ろからのチョップ。振り返ると沙夜がいた。

「沙夜じゃなくて沙夜姉って言ってんじゃん。私の方が一つ上だよ?」

「なんで沙夜姉がいない所までその呼び方しなきゃいけないんだよ。恥ずかしいし、しかも誕生日1ヶ月しか変わらねえだろ」

「それでも上級生は上級生だよ。ほら、部活行くよ」

「へいへい、わかりましたよ秋月先輩っ」

「それはダメ」

「なんでだよ!」

「なんとなく!」

うーむ、こいつはホントわからん。というか女子はわからん。

「やっぱ蒼、仲いいじゃねえか」

「そんなんじゃねえ!お前は黙ってろ。じゃあな」


「「しゃぁっす!」」

学校の敷地の隅にある道場に一礼して入る。今日の練習メニューはホワイトボードに書かれている。顧問は去年まではベテランで若い頃は全国大会まで進んだ人だったが、定年退職したため今年新任の女性の先生が代わりに顧問となった。空手の知識も経験もないので、前任が残した練習メニューをこうしてホワイトボードに書く形になっている。

「今日は...組手演習か」

「でもまだ誰も来てないし...そうだあお君、いいこと思いついた」

「嫌だ」

「まだ何も言ってないじゃん!」

「俺と沙夜姉で演習しようってんだろ?」

「なんでわかるの!?はっ、あお君、私のこと好き過ぎて...」

「ち、ちがうわ!演習のときいつもそうだろ!」

「でも、部内1位と2位で練習するのが1番効率がいいでしょ?」

自分で言うのもなんだが、大会などの成績から見て沙夜姉が部内1位、俺が2位だ。だが、俺と沙夜姉の実力の差が広すぎる。沙夜姉は県の中でも『不動の夜』の二つ名がある程で、名前の通り攻撃をかけられた位置から全く動かずに相手に勝つ。だからといってこちらも動かないと距離を詰められて技をかけられる。つまり隙がない。空手のルールで「逃げること、得点を取られないように攻撃しないこと」は禁止されているが、攻撃されたら動かずとも交戦してればいいわけだ。その点からは自分の戦い方が固まってると言える。

「じゃあ、あお君が勝ったらご褒美にキス♡」

「いらん」

「うー、じゃあ案山子堂のいちご大福」

「ぬ...今日の帰りな...」

「やったー!」

案山子堂のいちご大福とは、気軽に買うには地味に高い俺の大好物である。それの奢りとなれば話は別だ。

「じゃあ私が勝ったら〜今度買い物に付き合ってね」

「な...まあいいだろう」

天秤にかけても中々いい条件だ。

「じゃあ8点差はめんどくさいから4点差でいいね?」

基本ルールとしては、先に8点差をつけた方が勝ちだ。演習の時は大体4点差で済ます。


「3、2、1、始め!」

審判がいないのでカウントで始める。案の定沙夜姉は動かない。この場合普通なら無闇に攻撃してカウンターを喰らうのだが、カウンターをカウンターで返すことを得意とする俺なら先攻が有利となる。

「せいっ!」

一気に間合いを詰めて上段を狙う。だが払いで流され空いた場所に突きが来る。それは予想済みだ。こちらも上げ払いで流し中段に突く。これは決まりかと思ったが、ギリギリのところで払いに使った手に止められた。

「えっちー」

中段とは言ったが胸なんだよな…というか話しかけるの違反だぞ

そう考えながら俺は回し蹴りを喰らった。


結局2対6で沙夜姉の技あり1本。週末の買い物の付き添いが決定した。


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