茜色の夢は君と

茶々 錦

第1話 茜色の夢

心地よい風が吹いている。周りの草花も揺れる。僕は草原に寝転がっている。それは夕暮れの茜色。ふと隣を見ると、草の間から誰かも寝転がっているのが見える。誰だろう、見えるのに、霧がかかっているように見えない。もどかしい気持ちのまま、僕は目を覚ます。


「ふぅ...」

毎度毎度の事ながらあとすこしの所で目が覚める。そのことがとても悔しいような悲しいような、とにかく気がかりだった。まず毎日同じような夢を見ている事が不思議だが、小さい頃から見てる夢だからそんなものだと割り切っている。

「あお兄〜、ママがご飯できたって〜」

1回から妹である翠の声が聞こえた。時計を見ると既に7時だった。家を出る時間まで30分しかない。

「さてと...」

立ち上がって部屋のカーテンを開くと、隣の家のカーテンもほぼ同時に開き、見慣れた顔があった。自分より一つ上の幼馴染で、昔から姉のような立ち位置の秋月 沙夜だ。向こうも僕に気づき、おはよう、の意味で手を振っている。こちらも振り返し、また後で、の意味で手を挙げる。これも日課に近い。

「あお兄ーっ!遅れるよ!」

「はいはいはい」


食卓につくと既に翠は食べ終わって歯を磨いていた。

「まったく、あお兄は私がいないとダメだねえ」

「そうよ蒼、翠がお嫁に行ったらあんた毎日遅刻じゃないの」

おい、母さんや、それは俺が生涯独身と言ってるのか?

「じゃ、私先に行ってるねー」

いつの間にか支度をすべて終えた翠が家を出ようとしていた。

「おう、行ってらっしゃい」

「あお兄も早く準備しないと、今日校門に鬼塚先生が立ってるよ」

「え、まじか」

鬼塚先生とは本名は大塚なんだが、怖い顔と体格そして剣道部顧問。まさに鬼のような人だ。おそらく剣道部所属の翠だからこそ入手出来た情報だろう。


「いってきます」

なんとか俺も十分余裕の時間に家を出ることが出来た。すると隣の家からも、ほぼ同時に沙夜も出てきた。

「あ、おはよう。相変わらず私とタイミングが一緒だねぇ、あお君もしかして狙ってる?」

「んなわけあるか、狙ってたらバレないようにタイミング少し遅らせるわ。偶然だよ偶然。逆に沙夜が狙ってんだろ」

「沙夜じゃなくて沙夜姉でしょ。昔からそう呼んでたんだから。これが反抗期というものか...」

「誰が反抗期じゃい。そして話をそらすな。...まさか本当に狙ってねえだろうな?」

「アハハ、どうかなー、ぐーぜんでしょぐーぜん」

「狙ってんだろ!ストーカーかお前は!」

「嫌だなーあお君の保護者だよ保護者。あお君まだお子ちゃまだから」

「沙夜ほどお子ちゃまじゃn―」

しゅっ

「さ、や、ね、え、でしょ?」

さすが空手部という鋭さの手刀が俺の鼻寸前を横切った。

「さ、沙夜姉...」

「うん、よろしい」

言い忘れていたが、俺、佐々木 蒼と秋月 沙夜は星燈高校の空手部員である。沙夜...もとい沙夜姉は3年生、俺は2年、ちなみに翠は1年だ。

「あ、やっば」

突然沙夜姉が走り出した。

「ん?ん?」

何故かわからず小走りで追いかけると、

キーンコーンカーンコーン...

...予鈴がなりやがった!

話しながら歩いてたせいで時間ぎりぎりだったようだ。沙夜姉は駆け込みでセーフ。俺は間に合わず、

「おい、佐々木兄、また遅刻だ」

「おーこれはこれは大塚先生、いつも妹がお世話になっております〜僕は授業があるのでこれで...」

「たるんどる!昼休み生徒指導室に来い!」

昼休み丸々消えることとなった...



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