逃亡記
「小屋から煙が…マリーが…戻らなきゃ…助けなきゃ…」
戻ろうとする皇女を老人が一喝する。
「戻っては彼女の思いが無駄になりますぞ!何のためにここまで生き残ったのか、どうすれば犠牲に報いる事が出来るのか、わからない姫様ではございますまい!」
「わからないわよ…どうしてこんな…」
泣き崩れる皇女を抱きしめ老人は
「今は西の国を目指しましょう。泣くのはその後でも出来ます」としか言えなかった。
しばらく歩き夜が白んだ頃、亮が召喚され突如現れた。
「あっれー?何で槍がここにあんの?」
亮と一緒に槍も現れたのだ。
「お主と一緒にお主の持ち物も召喚されるんじゃ。じゃなきゃお主裸でここにおらんと変じゃろ?」とジジイが答えた。
「先に言ってよ!『召喚された時槍がなかったらどうしよ』てホームセンターでステンレス物干し竿買っちゃったじゃん!『いつ召喚されるかわからんから』てステンレス物干し竿持ち歩いちゃったじゃん!変な人って通報されちゃったじゃん!しょうがなく警察の前で服に物干し竿通してダンスしたら『人前でやらない方が良いよウケないから』って真顔でアドバイスされちゃったじゃん!金と名誉を返せ!…でどうすんのコレ?」
「危ないから振り回すでない!お主の持ち物でなくなれば二度と一緒に召喚される事はないわい!」
「じゃあいらねーなっと!」
と言うと木の間に隠れている敵3人に槍投げの要領で物干し竿を投げつけ串刺しにした。「ライフゲージ見えてる俺にその隠れ方はねーだろ…って敵多すぎじゃね!?」
隠れているた事がバレた敵達がゾロゾロと5000人程出て来てそれを見て亮は驚いた。
「山道を通った時必ず通るんじゃから兵を待たせとくのは当然じゃろ!」
「ジジイテメー…当然のように言いやがって。俺が来なかったらどうするつもりだったんだ!」
「敵がいなけりゃラッキー…と思っとったんじゃ」
「ノープランじゃねーか!しかし…ヤバいぞ」
ゲームでレベルを最高まで上げても囲まれたらボコボコにされ死んでしまう、そんな状況でジジイと皇女を守るとなれば…
「無理よ!終わりなのよ…」
皇女が絶望に顔を染め呟いた。
「うるせー!お前を生かすため散っていった仲間のためにもお前は生き残る義務があんだよ!生き残らせるのは俺の役目だ!俺の願いを聞き俺に守られろ!わかったな?」亮が怒鳴ると皇女は聞き返した。
「願いってどんな?」
「会った瞬間から惹かれてました!まずはお友達から始めてください!お願いします!」
亮のこの時の土下座は『空前絶後の美しい土下座』として後世に語り継がれる。
「私は西の国の皇太子の婚約者ですよ!?」
「婚約なんて関係ない!たとえ皇太子からお前を寝取る事になろうとも俺はお前と付き合いたい!チューしたい!」
「お主姫様と寝るつもりなのか!?」
「うるせージジイ!言葉のあやだ、童貞をこじらせた俺にえっちな事が出来る訳ないだろ!清い交際の後、森のチャペルで式をあげてお互いに童貞と処女で初夜に結ばれるんだよ!」
「お主相当気持ち悪いぞ…」
「うるせーって言ってんだろ!クソジジイ!」
「なんて素敵なのかしら…私でよろしければ…」
「姫様!?」
「おっしゃ!契約成立だ!リア充の俺は恐いモノなしだぜ!命がいらないヤツはかかって来な!」地面を槍で叩くと砂埃と一緒に近くにいる兵士達が天空に巻き上げられた。
レベルは「40×16」。頑張って元の世界でもレベルを上げて来たが、レベルが上がれば上がるほど経験値は必要となり、レベルは上がりにくくなるようだ。とっくにカンストしてると思ったら、あと30もレベル上がるのか、もうちょっと頑張ればよかった。
わらわらと出てくる敵に
「キリがねーぞこりゃ。よっしゃ逃げるぞ!」と亮は背中を向けた。
「どこへ行くんじゃ?そっちは西の国ではないぞ?」とジジイ。
「西の国へ行っても『皇太子の花嫁を奪った裏切り者』だぜ?」
「奪ったのはお主じゃろが!お主さえ諦めればもうちょっとで助かるじゃろが!」
「俺に『国が滅びて渡すモノもない』んだろ?『姫様で手を打つ』って言ってんだから良いじゃねーか!それよりジジイ!混戦こそ魔術師の力の見せ所じゃねーか!全体攻撃魔法今使っても良いんじゃないか?」
「大魔法の事かの?魔力切れを起こしても良いなら使うが…魔力の切れたワシは普通の老人以下じゃぞ?」
「出来るだけ魔力省エネでお願いします!ジジイも守りながら戦えねーし、戦いたくねー!」
いつの間にか「追いかけてくる敵を倒すのが亮の役割で皇女を守るのがジジイの役割」になり「これいつまで続くんだ?」と敵味方関係なく思いはじめた頃皇女を守って逃げていたジジイの脚がもつれてコケた。
咄嗟に亮は皇女を抱え逃亡姿勢を取り直したが、ジジイは敵に囲まれてしまった。
「ゴンザエモン!」皇女は悲鳴を上げた。ジジイの名前だろうか?イメージと違って和風な名前だな。
「姫様、振り返ってはなりませぬ!お逃げください!」
ジジイは怒鳴ると、魔法詠唱を始めた。
「ジジイ!まさか!」亮は後ろを振り返る。
「そのまさかじゃ!ワシは大魔法を使う!お主は逃げろ!姫様を頼んだぞ!」
ジジイは逃げる亮の背中に、祈るように叫んだ。
敵軍隊をジジイの大魔法が包む。
亮は皇女を脇に抱え、その場から逃げる事に専念した。
「ここはどこだろう?」というくらい遠くまで来た。
どうやら敵を撒いたらしい。
しかしこの逃亡生活がいつまで続くかわからない。
俺達はようやくのぼり始めたばかりなのだから…
この果てしなく長い逃亡坂を…
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