第1ゲーム⑤


「これ、ウチの近くじゃん! というかそこじゃん! えええ!?」


 桜は二枚目のトーストを食べている最中だった。朝からよくそんなに食べれるな。


「桜ちゃん、ウチに泊まって良かったわね。最近、本当に物騒になってきたわ。コースケ、ちゃんと気をつけるのよ」

「……」

「あら、なんだか今日は素直ね。いつもはなんで俺が!? くらい言うのに。コースケ、あんた一体まさか!?」

「違う何もしてない!」


 あの後はそのまま眠ってしまったらしい。だが、すぐ起きて一目散に自分の部屋に駆け込んだ。最後の気力を振り絞った。昨夜の自分を褒め称えたい。あのまま寝ていたら、本当に大変な目にあってしまう。


「本当に何もしてませんよ」


 桜は何故か怒っていた。

 朝のニュースで映し出されて居たのは、僕らが住むマンションの前の道路だった。


『ついに連続強盗婦女暴行の容疑者が逮捕されました』


 あの白髪は藤堂猛というらしい。外見は全くの逆で、骨張った顔をしていた。

 昨夜、ウチのマンションの前で半狂乱になっているのを通報され、警察が逮捕した。昨日の夜のパトカーの音はそれだったのか。

 それまでの犯行現場近くの防犯カメラに姿が移っていたのが決め手になって、再逮捕されたらしい。


『藤堂容疑者は『俺は神の力を得た』と――』


 あの世界は精神の世界だと言っていた。

 キルシュが一瞬、桜のような素振りを見せたのは、現実世界の人の潜在意識があの世界の人物なのだろうか。あの男は僕が訪れてすぐ行動を起こした。桜が寝てから、行動を起こしたってことか?


 学校に着いても、考えが止まらない。ああ、もうわからん。完全に脱力して、机に俯せの状態になる。


「もー、結局いつもと同じじゃん。」


 桜にそんなことはないと声を大にして、言いたい。でも、そんな元気はなかった。

 朝のホームルームが始まった。顔はうつぶせのまま。


「今日は皆様にお知らせがあります。このクラスに転校生が来ました。九条さん? 良いよ、入ってきて」


 クラスの私語が大きくなった。

 その騒ぎに比例して、僕の意識が遠くなる。別に誰が来ても、変わらない。  

 教室のドアがスライドして、教壇の上を歩く音が聞こえる。


「九条あやめです。本日から皆様とご一緒に勉強させて頂きます」


 意識の深淵から、いきなり引っ張り出された。驚きで思わず顔をあげた。少しウェーブがかかった長い黒髪の女の子だった。目が合って、微笑みかけられた。

 そう、その声に覚えがある。昨夜、頭の中で響いた声だった。

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アカシックレコ―ド《タップで始まる魔導郷》 アーキトレーブ @architrave

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