とりあえず、生き延びようと思ってます

@key85

第1話 母親の絵文字は気にしたら負け。

多分数分固まってた。

活動し始めた脳で考えた。

手元にあるのは修学旅行の為にまとめたスーツケースと弟に買った木刀、背中には土産がぎっしり詰まったリュック。

周りに同級生らしき姿はない。

ポケットからスマホを取り出し画面を確認。wifiの表示がある。圏外でもない。

先ほどまで一緒に居た結城に電話する。コール音はするが出ない。緊急連絡先の教師、両親や数人の友人にも連絡は取れなかった。LINE、SMS、メールどれも13時25分から表示されてない。勿論こちらから送ったモノもだ。

ネットに繋げてみるが13時あたりから更新されているサイトはない。


此処は木が沢山茂っている。シダの様な植物も…


検索する。≪山、遭難した時にするべき事≫


◎移動しない。

●安全な場所に移動する。


なるほど…どっち?


後ろで音が聞こえた。振り返ると手が届きそうな場所をトカゲがゆったり飛んでた。羽が生えてるトカゲ、いやコウモリか?

それはゆったり木々の間に飛んで消えた。


検索する。《コウモリ 画像》

検索する。《トカゲ 画像》


……


検索する。《異世界に移転したら》


小説がたくさん出た。次を見てもその次も小説。使えない。


検索をヤメて、スマホから最近ハマっている曲を選び音量を最大にして再生し大声で歌う。

この行為はベストではない。

分かっているが全身に感じている言葉にできない衝動を発散せずにはいられなかった。

歌い切りスマホをポケットに戻す。

若干力が抜けた。

スーツケースに座り耳をすます。木々の葉の揺れる音しかしない。


どうする…


やはり身を隠せる場所に移動したい。周りを調べる事にする。

まず映画のオチによくある。最初の場所でジッとしてれば生存フラグを回収するために目印を付ける。

近くの木で手で届く範囲の一番高い場所の枝にハンカチを固く結んで、同じ木の目線の位置に自宅の鍵でバッテンを10センチぐらいの大きさで刻んでおく。

制服に木屑がつく、汚れるのは嫌だし機動性を考えて、木を背にしてスーツケースから体操ジャージを取り出し着替える。リュックにある壊れ物の土産をスーツケースにタオルをリュックに移す。

ついでに防御を考えて手袋とニットキャップ、マスクを装着する。

スーツケースは持ち歩くのは無理、近くの草むらに不自然にならないぐらい枯れ枝や葉を振り掛け隠す。

スマホのタイマーを15分に合わせ進む。アラームが鳴ると引き返すを4方向試す。迷わないように木刀を引きずり跡をつけている。

暑くも寒くもない。木の葉で太陽は見えないし辺りは薄暗いが、朝か昼だろう。少し歩いても息苦しもない、勾配もなく山ではなさそう。森かな?足元も悪くない。何にも出会わない。先ほどのトカゲコウモリだけだ。


3方向目で変化があった。風の音が強くなる。アラームが鳴ったがもう少し進むことにする。あと5分ほど進むと木々は途切れ日が差した先は崖になっていた。

崖の下はアマゾンのように木々が生い茂る。崖は大きく丸くアマゾンを取り囲んでいる。クレーター。青ヶ島っぽい。

下へと流れる大きな滝が三本見える。離れているが水が確認出来て安堵した。


しかし出現場所が崖の下でなくて良かった。50メートルはありそうな断崖絶壁を登る自信はない。永遠に過ごす羽目になりそうだ。


落ちる恐怖と背後から襲われる可能性を考えて崖から離れる。

森に戻りるとスマホの着信音が響く。画面には母親の表示。

胸が締め付けられた、慌てて出た。

「助け『やっと出た。問題です。今、母さんは何処にいるでしょうか?』

「えっ?」

『ブッブー。タイムアップです。正解は誰もいない校庭でした。あんた、どんなつもりですか?喧嘩売ってるの?今何処よ。』

「何処だろ、森?スマホは通じるから日本なのか?」

『森?何言ってるの?』

「でもトカゲが飛んでるし目の前に崖が…」


ヒュッと母親の息を飲む音が聞こえる。

『崖とか周りの風景写メで送って。』

淡々とした声、普段喜怒哀楽が激しい母親の感情が伝わらない。

「でも切ったら繋がらなくなるかも、こっちからは連絡出来ないみたいだし。」

『多分大丈夫だから。写真とったら崖から離れて。』

「何か知ってる?」

『写真すぐ送りなさい。』


ガチャぎりされた。通話が切れると鳥肌が全身を覆う。

自分ではどうしようもないから、母親の言った様に、なるべく全体がよく分かるように写真を撮り崖から離れて送信する。今度大丈夫だった。でも母親からすぐに連絡が来ない。木を背にし体育座りでスマホを眺める。

かけ直すか悩んでいると電話ではなくメールが届いた。


件名『頑張って生き延びるために\(^^)/』


…とりあえず生き延びようと思います。



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