第2話 東野マリア先生
奥の部屋でドアを叩く音がしている。俺は炊飯器のスイッチを入れると部屋の奥を
覗きに行く。不思議な事に、ドアがある。ドアの向こうは『空中』のはずだが……
「東野先生 もうすぐ出来ますよ 出てきて下さい 先日 お話した池田君も
着ています 先生」
するとドアの向こうから声が聞こえた。
「池田君? 池田君は食事が作れるの?」
「はい! 食事作れます」
東野先生は女性の声だった。最近ではペンネームを、わざと男性の名前にする女性
作家さんや両性でも通じるペンネームを使う作家さんが多いが東野マリア先生は
本物の女性だった。
「先生 とりあえず開けますよ」
そう言うと友部さんは開けても『空中』しかないドアを開けた。
しかし、そこには深々とした緑に囲まれた木の上に作られた部屋があった。部屋の
中には生活感を感じさせる椅子やテーブルの他、家具や絵画等も飾られていた。
ありえない……俺は自分の目を疑った。そして気が動転しながらも部屋の中を
食い入るように確認した。
あっ!そういえば先生……東野マリア先生はどこに? 初対面だし挨拶しないと
ふと、右手に小さな机と椅子が置いてある事に気がついた。
そこには部屋の壁に寄りかかり、真っ青なワンピースを着た金髪の女性がカップの
お茶を啜っていたのだ。
「あっ 東野マリア先生ですか?」
「ええ はじめまして池田君 私がマリアです」
先生は、そう言って俺に微笑みかけた。美しい……そして綺麗だった。歳は30
歳前後、うちの猪瀬社長と同い年くらいだろうか。
ん?何か違和感を感じる。はっ!……耳が、耳が長かったのだ!
異世界アニメや小説に出てくる『エルフ』族……その耳は長いのが特徴で寿命も
相当長くて魔法が使えると言われている。その設定が嘘か本当かは別にして、東野
先生の耳が長いことだけは本当だ。
まさか、俺が来るのを知っていて誑かしているのでは……いやいや、そんな暇な
人はいないだろう。あっ!挨拶をしないと……
「はっはじめまして 池田です 池田大樹と申します この度は先生の担当と
なり光栄に ぞっ 存じます! 宜しくお願いします!」
「そんなに硬くならないで だいちゃん」
「だ だいちゃん?」
「そっ 大樹だから だいちゃんでいいじゃない? さぁ ご飯作って」
「あっ 池田君 東野先生は 『おにぎり』と味噌汁しか食べないんだ
どうするかは私が今から作るのを見て覚えて下さい」
「は はい……」
そう言うと友部さんは、キッチンの下から海苔を出し炊き立てのご飯に塩を
塗して『おにぎり』を握っていく。握り終わった『おにぎり』に海苔を巻き完成。
「先生 出来ました」
友部さんが言うと、東野先生は
「よっしーの食事が食べられなくなると 少し寂しいわね でも ずっと
会えなくなる訳じゃないんだし 元気でね」
「はい 先生 お世話になりました」
友部さんは寂しげに、そう言った。ん? よっしー? 友部洋四郎のよっしーと
いう事か……
「先生…… 質問してもよろしくですか?」
「何? だいちゃん もしかして『耳』の事かしら?」
「い いや……その」
「ふふふ そっ だいちゃんの思った通り 私は『エルフ』よ 可笑しいでしょ
『エルフ』が小説書いてるなんてね ふふ」
俺の見間違えだろうか……東野先生は口では笑っていたが何処か寂しそうに
見えた。
「そのうち レイナにも会うでしょうから 『エルフ』に関する詳しい話は
レイナに聞くといいわ ふふ さあ食べましょうよ」
東野先生は、そう言うと『おにぎり』をパクリと幸せそうに頬張っていた。
俺は、なるべく平常心を心がけ気持ちを強く、しっかり保つ事に集中した。
横で友部さんは申し訳無さそうに俺を見つめながら『おにぎり』を食べていた。
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