三通目 二枚目

その日の朝は途中まではいつも通りであった。


ただひとつ違ったのは机の上の手紙の存在だが、どうすれば良いのか私には判断出来なかった。刻々と迫る登校時間に身支度をしながら色々考えたが脳内処理が追いつかなかったので手紙を机の引き出しにしまい家を飛び出した。


学校につく頃にはなんとか平静を保てる位には落ち着いた。

しかしどうしたものか……。特に予定はないからLIVEには行けるもののお礼の手紙くらい書いた方が良いのか、どんな服を着ていったら良いのか、そもそもなんで返信が帰ってきたのか……と、また思考が混乱する。異性とまともに会話することも最近無かったから感情を読み取ることも出来ない(文面だから当然なのだが)し、相手があのRENなのだから対応マニュアルを持っていない私にとっては緊急事態を通り越してバイオハザード真っ最中だ。


しかし、私の使命感がなんとか学校へ舵を切ってくれた。お陰で通学時間を「RENの手紙に関する考察」という有意義かつ幸福な時間に当てることが出来る。だが依然と私は困惑していた。

時間が有限であるが故に気がついた時には昼休みの鐘がなっていた。学校の騒がしい廊下を通り抜け、階段を上る足音だけが淡々と響く。階段を上りきった扉を開けると地平線がはっきりと見えるほど空が透き通っていた。

私が唯一心を落ち着かせることが出来る絶対領域だ。たまに侵略してくる敵がいるが本日は貸し切りのようだ。


私は懐に大切にしまいこんだ手紙を読み返し悦びに満ち溢れていた。自分では気付いていないが周りから見ると相当ヤバい奴だ。だが、周りには誰もいない。普段感情を顕にしない私がこんなにはしゃいでいるのを両親が見たら失神するだろう。

さて、一つ冷静になった私は今後の行動を考えた。

手紙は書こう。返信が来たという時点でそれは決定事項だった。

問題はその後だ。LIVEに行くためにどうしたらいいんだ。服装や持ち物はどうしたらいいんだろう。あぁそれに……


「キーンコーンカーンコーン……コーンカーンキー…」


考えを遮るかのように予鈴がなった。

確か次は移動教室だ、早く帰って準備しないと。

そして手紙をまた懐にしまい絶対領域を後にした。


そこからの時間は早かった。

授業が終わってすぐ私は文具屋に駆け込み便箋を選んだ。そう、RENが返信に使ってくれたものと同じものを探し出したのだ。この時の私といったら……恥ずかしすぎて書くに耐えない。

家に帰ったら直ぐに文をしたため始めた。


「親愛なるRENへ」

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