二通目 二枚目

もうすぐ正午になろうかといったとき、扉がノックされプロデューサーが昼飯行くぞと言って身支度をさっさと済ませ車に乗りこんだ。


「お望み通りの美味しそうなラーメン屋を予約しておいたぞ。何でも最近オープンしたが人気急上昇中であっという間に予約が取りづらくなった店だそうだ」

「そんな店取れたんですか!?」

「まぁオープン当初から行きつけだったもんですんなり取れたんだ、但しお前のプロデューサーだってコネは一切使ってないから急に行ったらビックリされるかもな」

そう呑気に言ってられるのが俺がこの人に付いてきた理由なのかもしれないなと感じた。


「そういやあの手紙はどうだったんだよ」

「あぁファンレターでしたよ、然もかなり考えて書いたんだろうなって事が伝わってきました」

「そりゃ結構なこった!んで、いつも通り返事をするのかい」

呆れながらも聞いてくれるあたり流石だ。

「勿論です。便箋とボールペンを帰りに買いたいので雑貨屋にでも寄ってください」

「へいへい、仰せのままにっと。着いたぜ」

そう言って車を降り店に入った。


「いらっしゃいま……せ?」

瞬間店員の若い女が硬直するのが見え、案の定騒ぎになるかと思ったが奥から店長と思しき人がそそくさと個室へ案内してくれた。


「いやー店長助かりました」

「これくらいで礼を言うならもっと前から彼を連れてきてくれれば良かったのに」

そう言って俺に向かって会釈をしたのですかさず俺も挨拶をする。

「いやこれは一本取られましたな、そんなら自慢のラーメンを二つ頼みます」

「はいよ」

そう言って若いながらもどこか風格の漂う店長は厨房へ戻った。

「な?こんな店長だから美味しいんだよ」

「そうかもしれないですね」

と二人で笑った。


「そういや手紙について詳しく聞いて無かったがなんか新しい曲のモデルにでもなりそうか?」

「俺をそんなフレーズ泥棒みたいに言わないで下さいよ。まぁでも一つインスピレーションを受けたのは英語のフレーズですかね」

「なんだよ英語のフレーズって」

「手紙の最後に英語のフレーズが綴られていて、確か《Until now I have been looking for you.》って書いてありました」

「悪いが勉強は苦手なんだ、どんな意味なんだ?」

「あなたをずっと探していたって意味だったはずです。こんなフレーズを使えるって事に感動してお陰で新曲もスムーズに書き上がりました」

「そりゃ良かった、んじゃまぁ返事も御礼代わりに英語のフレーズで返したらどうだ?」

俺の頭は目の前の言葉を理解することで数秒を要した。

「……あぁなるほど、ありかも知れないですね」

「だろだろ!」

そう自慢げに言ってくるので少し適当にあしらい、暫くすると待ちかねたラーメンがやってきた。その時についでに色紙にサインをし、飾ってもらえると聞いて素直に嬉しかった。



ラーメンはシンプルながらもコクがあり、とても美味しかった。個人的にもまた行こうと決意した瞬間でもあった。

そして帰りにプロデューサーに便箋とボールペンを買ってもらい、ついでに一つ頼み事をして昼前と同じ部屋に帰ってきた。


手紙をしたためるべく便箋を机の上に広げた。

とはいえ文章を並べることはあまり得意ではなく、ましてや内容をあまり考えていなかったため意欲だけが先に行ってしまっている状態が続いた。

このまま考えても仕方ないと、


「お手紙ありがとう。情熱的な思いは俺に新たなインスピレーションと、感動を覚えさせてくれました。これはそのお礼と感謝の気持ちです。


Please keep holding my hands.」


そして最後にサインを綴り封筒に入れた。

先ほどプロデューサーに頼んでいたものも同封し、近くのポストに出してもらった。



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