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「それももう熟しているわね」

「はいはい」

 気が付くと籠片手にスモモとザクロの収穫をしていた。明らかに俺一人に分けてくれるには多い量だが、気にしない。これくらい手伝わなければ。

「あと、その右のも。あ、違うわ、少し上のよ」

「え、どれ? これ?」

「違う違う、その奥のよ」

「待って待ってどれ!?」

「だから、それ、それだって」

「それってどれだよ~」

「だから、ふふふ」

 栗原さんが堪えきれないと言った風に笑った。俺も同じように声を上げて笑う。

楽しい、この穏やかな時間をもう少し過ごしていたいと、そう思った。



「あれ、マスター花なんて珍しいね」

「綺麗でしょう? 頂きものなんですけど、私一人だけでは勿体なくて。お客様にも見ていただきたくて飾ったんです」

「へぇ、綺麗だね」

「愛情がたっぷりと掛けられていますから」

 飾り棚に花瓶を飾った。その中には栗原さんが丹精込めて育てた花がスポットライトを浴びて輝いている。

 あの後、両手いっぱいに土産を持たせて栗原さんは見送ってくれた。こんなに持てないと言っても「平気平気、男の子でしょ」と言って袋をぶら下げて来るのだ。それから角を曲がって見えなくなるまで、道路に出て手を振って見送ってくれた。少し恥ずかしかったけど、なんだか嬉しくて。

ちょっと強引で、でもそれすら愛情で。とても心が温かくなった。

 栗原さんは、確か甘い洋菓子が好きだったはずだ。今度それを土産に持って顔を見に行こう。

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