その手はお日様のようにあたたかく

カゲトモ

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「あらはなちゃん、お久しぶりね」

「えっ? あぁ栗原さん、お久しぶりです」

「こんなところではなちゃんを見かけるのは珍しいわね」

「買い出しの途中にちょっと散歩したくなって」

「そうなのね、元気にしてた?」

「おかげさまで」

 陽の光を浴びてのんびりとベンチに腰かけていると、一人の女性が話しかけてきた。微笑むと一層皺が濃くなるが、穏やかで美しい笑みを浮かべるのは栗原歌さんだ。

 以前住んでいたアパートのお隣さんだった。こうして出会うのは久しぶりだ。

「栗原さんも元気みたいで良かった」

「ふふふ、毎日何をするわけでもないんだけど、元気だけはあるのよ」

「今もガーデニングはしてるの?」

「えぇ、もちろん」

 ぼろアパートの隣には年季の入った一軒家が建っていて、そこに住んでいたのが栗原さん夫婦だった。庭には木々が植えられ、花々も沢山育てられていた。隣に住んでいたこともあり、実ったミカンやカキ、ザクロなんかもよく貰っていて、大変世話になっていた。

「あの子達は子供も同然だからね」

 栗原さんには子供がいなくて、ずっと庭の植物たちを子供のように可愛がっているんだと以前言っていた。愛情をたっぷり注ぎ込まれた植物はどれも生き生きとしていて、美しく、そして美味しかった。

「栗原さんの育てるお花は全部綺麗だもんね」

「あら、嬉しいことを言ってくれるのね」

「俺は嘘が付けないタイプなんだって知ってるでしょ」

「ふふふ。口が上手くなったわね」

「それほどでも」

 栗原さんと話していると、祖母とはこう言った存在なのだろうかと思う。穏やかでおおらかで温かくて。包み込んでくれるような優しさを持っている。そんな存在じゃないのかと。

自分にはその記憶がないから、照らし合わせることが出来ないけど、そうだったらいいなと思う。

「はなちゃんに会えるなら何か持って来たらよかったね」

「そんな、いいよべつに」

「お店を開けるまでまだ時間はあるでしょう? 良かったら家までいらっしゃいな」

「え、いいよ、悪いし」

「遠慮なんかしないで、ね? はなちゃんに渡したいのよ」

 そう言って腕を組んできた。少しだけ細くなった気がした。多少強引な所は少しも変わっていなかったけど。

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