第3話




 学園に編入という形で入学する事になったswallow達は部隊から離れ教室の扉を開く事に、学園は三等学部で構成され、入学年齢等は特に設けられておらず、まず初等部が三年、中等部が三年、専門科高等部が三年の計9年で卒業になる、学力等鑑みて飛び級制度や初等部や中等部を飛ばして専門科高等部に入る事も出来る、swallow達は専門科高等部の一年として入学していた。


「え~今日からこのクラスの一員になるクロト・トリナ君だ」


 この名前はswallowが公に出る際に使用する偽名カバーネームである、クロト・トリナを漢字で書くと玄人鳥名と書き、その文字を並べ替えると玄鳥人名になり、玄鳥つまり燕の別名である、「燕の人名」をもじっただけのものだったりする。


「クロトです、よろしくお願いします」


 簡単な自己紹介を済ませて、教師が指定した席に座る、席に座るまでの道すがらクラスメイト達から好奇の目を向けられた。

 swallowは同じ任務に就いた彼女とは別のクラスになった、指令書で次の任務に向かう道中にswallowは初めて少女の名前を知った。

 彼女の名前はアビリット・テノン、彼女の配属されたクラスは確か後方系だったかと思い出すswallow。


 専門科高等部に上がる際にもしくは入学する際の中等部迄のクラスで適性検査を受けて、クラスの組み換えをする、組分けは、戦種科・整備科・補給科・情報科・指揮科などがある、そのなかで大多数は戦種科や整備などになり、指揮科などはその年によっては1人しかいない時がある。


「授業は苦手だ」


 基本的に現場の人間であるswallowは自分に関わる知識は必要最低限以上は持っている、言い換えるならばそれ以外はからっきしだった、その為に隊長はswallowに学園の任務に就かせた意図があった。


「それでは授業を始める、生徒カードをカートリッジに」


 生徒達は各自配布されたカードをカートリッジに投入する、卓上に電子キーボードとモニターが浮かび上がる。


「それでは授業を」


 教師の声を聴きながらswallowは考える、アビリットには無くswallowだけに与えられた任務の事を。


 授業が終了して休み時間の度に好奇心からswallowに質問する者、遠巻きで眺める者、無関心の者に別れた。


 質問は生まれや育ち、何故この時期に入学してきた等を聞かれた。


 生まれや育ちに点いては、swallowはカバー用の設定を思いだしながら、戦乱孤児で保護者が学園の入学するようにと、すべては語らないが嘘は付いていない受け答えをする。


 そうこうしている内に気が付けば昼休みになっており、そこにswallowに話し掛けた生徒が。


「あのクロトさんですね、お話があるので時間を貰えませんか?」


 突然の声を掛けられた方を見ると、緑色の髪をサイドアップテールにしている女子生徒がいた、その言葉を聞いたクロトは。


「放課後でいいのなら構わないが」


「はい、それで構いません、それでは放課後に屋上迄の来てください」


「了解した」


 笑顔で去る女子生徒を見送ると、隣の席に座っていた生徒が声を掛けてきた。


「おいクロト、いまの晴野陽羽里ハルノヒバリだろ、知り合いなのか!?」


「あーと、・・・君は?」


「貴様、自己紹介しただろ、ヤマト、大山大和オオヤマヤマトだ」


「ああ、よろしく、それでヤマト、今の彼女は名前がハルノヒバリでいいのか?」


「なんだよ、知り合いじゃなかったのかよ!?」


「いや、彼女とは初対面のはず、何処かで会った記憶に無いな、しかし用件があるなら今話せばいいと思わないか?」


「おいクロト、なんかムカついてきた、一発殴っていいか」


 ヤマトが拳を振りかぶるが、クロトは余裕で避けながら席を立ちヤマトに事も無げもなく言う。


「そろそろ午後の授業の準備しないとな」


「おい、待ちやがれ」


 ヤマトが追いかけるが気が付けば、何処に行ったか解らなくなり午後の準備に向かうヤマト。


 学園では専門科高等部になると午後の授業が全て実技授業になる、例えば戦種科ではADの搭乗訓練、整備科はそれに準ずる整備等を行う。


 クロトは教室を出ながらヤマトに手を振り了承したと合図する。




 戦種科実技グラウンド


 生徒達は実技用の服に着替えてグラウンドに集合していたクロトを除いて。


「あのやろう、初日からサボりか!?、それとも怖くなって逃げたか?」


「そうですよヤマトさん」


 クラスメイトの男性生徒達がヤマトに言う


「ケケケ、ヤマトさんの実力なら上級生にも負けませんから、それを知ったクロトの奴は怖くなって逃げたんですよ」


「そうそう、上級生相手に勝てるヤマトさんなら学園ランカーの上位に食い込みますよ」


 戦種科ではランキング制を導入している、学年別と学園ランクの二つで、文字通りに一学年毎のランクと学園全体のランクである。


 クラスの男子達は昼の一件を近くなり遠くなりで見知っている為、午後の授業でヤマトにクロトがやられる事を少なからず望んでいた。



「全員集まったかー」


 実技担当の教師が生徒達に向かい声を掛ける。


「先生~、クロト君がいません」


「ああ、彼ならいいんだ、まぁ、そうだな今日から新しく実技専門の教官が来られた、それでは教官、よろしくお願いいたします」


 教師はインカムを使い合図を送り、新たに来る教官を招く。


 機体用のハンガーからADが一機発進して生徒達の前に停止する、ADが生徒達の前に停まるの見て教師は再度話を進める。


「彼が今日から担当教官になる者だが・・・君達の力量を知ってもらいたい、手合わせをしたいのだ希望する者はいるか?」


 生徒達は沈黙で応える、実技専門の教官に下手に手合わせをして悪印象や怪我を恐れて誰も名乗りでない。


「・・・誰もいないか?、ならば景品を用意しよう、そーだな、勝てたら部隊配属の推薦状なんかどうだろう?」


 景品の内容を聞いて生徒達の目の色が変わる、推薦状それは自分の希望する部隊に就ける夢のチケットである、最前線や最後方の部隊、最新鋭装備と零細の部隊、配属先で死亡率などが関わってくるが、戦場を知らないから学徒達からすれば、憧れの部隊や兵士の元に行く事の出来るだけの物でしかない、しかし、内容の違いはともかく餌さとしては十分効果が有った。


「今度は数が多いこれだとなかなかの手間だな、そうだな、代表の者を二名立てろ、その者が勝ったら全員分の推薦状を出そう」


 生徒達は暗黙の了解の如く二名の生徒に視線が集中した、1人は男子生徒のヤマトにもう一人は女子生徒に集中していた。


「その二人前に」


 ヤマトと女子生徒が前に出て、教官のADの元に歩み寄る。


「名前を」


「戦種科一年大山大和オオヤマヤマト


「同じく戦種科一年柊唯花ヒイラギユイ


「両名はADに搭乗、後に準備次第模擬戦を開始する、質問は?」


「はい先生」


 ヒイラギユイが手を上げて教師に質問をする。


「勝利条件は?、あとルールの説明を」


「ああ、そうだったな」


 教師は全学年を担当していたために、まるで当たり前の事を説明しなければならないかと、間の抜けた声を出してしまった。


「簡単だ、二人がかりで掛かって動け無くなった方の負けだ、五分後に開始する」


 端的な説明を終わらせると教師は手を上げて教官に合図を送る、教官はADを再び起動させて、訓練用のフィールドにADを走らせ消えていく、説明を聞いた二人は慌ててADに乗り込み起動を開始する。


***


 二人は起動を終えてフィールドに入り込むと、そこは森林地帯になっていた、ADのフィールドは仮想空間になっている、設定を変えれば多種多様のフィールドを再現出来、外部モニターからフィールド内部の映像が閲覧出来る仕様になっている。


 二人はツーマンセルの要領で右半分と左半分を警戒しながら歩みを進める、森林地帯の半ば迄進んだら突然AD用のペイント弾を撃ち込まれた、その内の一発がヤマト機の肩に命中被弾する、ADが被弾判定してヤマト機の片腕は使用不可になる。


「畜生、腕をやられた」


「直ぐに物陰に」


 ヒイラギとヤマトの機体は木々に隠れるようにして弾丸から身を守る、ペイント弾は断続的に撃ち込まれていく。


「ねぇ、ヤマトくん」


「んだよ、突破口でもあるのかヒイラギ」


「ちがうよ、教官の弾道が一方からで、しかも散発的なんだよ、これ変じゃない?」


「!?、やべ、おい、逃げろヒイラギ、あれはトラップだ」


 機体を反転させようとしたその時、背後からADが現れ二人を襲う。

 両手に二本のチェーンナイフですれ違いざまに二人の機体を切りつけてまた森の中に入っていく。


「ヤマトくん被害は!?」


「畜生、もうほとんど動かせねえ、どうにか片腕だけが動かせる程度だ」


「私は今の攻撃で操作系がやられて、今非常用で対応してるけど長くは持たないよ」


「ちぃ、手詰まりかよ」


「ちょっといい、ならこれなら・・・」



 ヒイラギの機体がヤマトの機体を引摺り三方向が障害物に囲まれた場所に陣取る、これで奇襲は防ぐ事は出来るとヒイラギは考えた。


「あとは手筈通りにお願いねヤマトくん」


「分かってんよ、教官だかなんだか知らねが一方的にやられんのは性に合わねんだこちは」


 ヤマトは機体を岩に寄りかかった状態で、唯一動く片腕に銃器を持って構えて教官の機体が現れるのを待った。


 ヤマトの前方の物陰から姿を現した教官は、迷う事無くヤマトの機体に狙いを定めて前進してくる。


「このやろう、舐めんな」


 銃器で応戦するヤマト、しかし射線が読まれ軽々と回避してヤマトとの距離を詰め、遂には肉薄されチェーンナイフを振りかざす。


「今だ、ヒイラギ」


 ヤマトは持っていた銃を投げ捨てて、教官のチェーンナイフを機体で受け止めながら胴体に腕を回して足留めをする。

 ヤマトの声を聞いたヒイラギはADを待機モードから即応強制起動で背後のブッシュから背後を付く。


「やれヒイラギ」


「覚悟」


 ヒイラギのチェーンナイフが教官の機体に当たると確信した次の瞬間。


「試合終了」


 ヤマトとヒイラギは状況が飲み込めていない、勝ったと思ったら二人は地面に機体が横たわっていた。


***


 グラウンドに戻って生徒達は整列して教師の言葉を待っている。

 教官は二人が搭乗していた機体を整備科に引き渡しをしている。


「これより試合の評定を行う、先ずは合否からで、合を定める」


 教師の評価に生徒達は負けてはずだと、思い評価に疑問を覚えた。


「先生、合の理由は?」


 納得行かない生徒の一人が挙手で質問する。


「強者に対しての立ち回り、不利な状況下での次の一手、今回は巧くいかなかったが、戦場でそれを出来るかが生死を分けることがある、その点を評価して今回は合とした」


 教師はもともと教官に勝てないことを前提して採点していたのだった。

 そこに整備科に引き渡しを終えて戻ってきた教官。


「あ~戻ってきたね、順番が変わってってしまったが紹介しよう、教官、降機をお願いいたします」


 教師の言葉を聞きADを停止させて降機する、降りてきたその姿は軍の正式採用パイロットスーツに身を包んでいた、ヘルメットに手を掛けて脱着すると、クロトの顔が姿を見せる。


「トリナ操者中尉だ、改めて自己紹介をお願いいたします中尉」


「紹介に有った、クロト操者中尉です、所属は本土防衛機構機械科小隊でアタッカー担当をしています」


 swallowは別に嘘は言ってない、カバー用の名前だが、所属部隊は実在して、尚且つ小隊の人員として登録させているが、実質的に活動をしている部隊が別に有るだけである。

 

「いま、先生は合を出しましたが、自分の評価では赤点物で恥ずかしいレベルですよ、君達の代表者でこれでは先が思いやまれます、なので君達には死ぬ気で頑張ってもらいます、こちらも殺す気で行きますのでよろしくお願いしますね」


 クロトの自己紹介を聞いた生徒達は大概は顔を青くしてこれからの学園生活を憂いていた。


「ふざけんなクロト」


 ヤマトが声を上げてクロトに掴みかかる。

代表者の一人であるヤマトの心境は、訳も分からない転校生が教官であり、転校初日の相手にボコられしかも弱いと告げられた事で、切れやすい性格も災いして遂に手を出してしまった。


「午前中は自分も一生徒なので気にしませんが、担当教官の時間では・・・」


 と言い切る前に、襟を掴みかかっていたヤマトが気が付けば投げ飛ばされている。


「かっは、ごほ、ごほ」


「武力を持って鎮圧します」


 クロトがヤマトをどうやって、ねじ伏せたのか分からない生徒達は、黙って首肯くしかなかった、それと同時終了を報せるチャイムが鳴った。


「今日はここまでですね、それでは皆さん解散」


 生徒達は解散していき、クロトはその足で整備科に顔を出す、戦闘科と違い授業終了後でも生徒達は残っている、放課後は部活動の認識で他の科や自分の科の活動をすることが出来る。

 戦闘科は現在、監督出来る人材が不足している為に、活動を停止している。


「すみません」


 近くの男子生徒に声を掛けるクロト、忙しく手を動かしていた生徒は嫌そうに顔を向けるが、そこには軍用のパイロットスーツに身を包んだクロトを見て、慌てて姿勢を正して応対する。


「は、はい、何か御用でしょうか!?」


「このクラスにアビリット・テノンって生徒がいると思うのですが」


「あ、えーと、ちょっとお待ちくださいね」


 男子生徒は近くにいる生徒達にアビリットの所在を確認していき、そして戻ってきた。


「分かりました、3番ハンガーに居るそうです」


「すまない、手間を掛けさせたねありがと、3番だね」


 お礼言って手を上げて去り、3番ハンガーに移動すると、新入生達が今日の授業でクロトが壊した二機のADに群がっている、その中にアビリットの姿も発見したので、邪魔にならない場所から眺める。


「今日ドック入りした機体だが、この二機はいつもと違うが、何が違うか解る者はいるか?」


 教官に質問されて何人かが手を上げる。


「では答えろリスミー・レンドルミン」


「はい、この二機の損傷はいつもドック整備に来る機体に比べて、綺麗に機体の重要箇所に損傷を受けています」


「そうだな、それでそこから何が解るか?そーだな、アセト・アミノフェン」


「は、はい、えーと、り、敵との力量ですか?」


 自信無さげに答えるアセト。


「まあ、正解だ、つまり敵の中にヤバい奴がいるのか、もしくはこのADの乗り手がヘボだったかだ、どう思いますクロト教官?」


 整備科の教官が急にクロトに話題を振った、生徒達の視線がクロトに集まる。


「いや、ははは、ちょっと撫でただけなんですよ、ほら、整備科の皆さんに教材の提供も出来ましたし、良かったですよね、ははは」


 クロトの乾いた笑いがハンガーに木霊する、明らかな挑発行為に生徒達は震撼する。


「全員、この二機の整備プランを作成開始出来た者は教官室に提出以上、かかれ」


 教官の言葉で生徒達は一斉に散っていく、残された教官二人。


「ふーっ、クロト、とりあえず教官室に行くぞ」


「あい」


***


「コーヒーでいいか?」


「コーヒーしか無いですよねランソプ教官?」


「当たり前だ、飲まないのか」


「頂きます」


「ふん、待ってろ」


 手馴れた手付きでサイフォンに煎れて有ったコーヒーをカップに移していく。


「しかし、お前が教官とはなswallow、ミルタがまた怒ってたぞ足回りに相当負荷を掛けた操縦をしたってな」


「うへ~、姉さんに謝る前にこの任務ですからね、ランソプ教官、お願いします妹さんをなだめてくださいよ」


 クロト達がミルタと呼んでいる人物は、swallowの部隊で整備を担当している女性で、前回の出撃前にスパナを振りましていた人の事で、ランソプとミルタは兄妹であり、ランソプはそれゆえswallowとは面識が有った。


「ふん、こってり絞られろ、今回の二機分もあるんだ、精々ご機嫌取りをするんだな」


「いやいや、どっちも不可抗力ですよね」


「ミルタの方不可抗力でも、生徒との模擬戦であんな損傷を与えるな、安全センサーギリギリを狙いやがって」


「イヤー、なんの事でしょう?、あ、自分これから用事が有るんでした、コーヒーごちそうさまでした」


 クロトはコーヒーを飲み干してから、慌てて教官室から退散して行く。


「そういえば、屋上ってどう行くんだ?」

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