第2話 夢か現か、異世界か
僕は電気スタンドに照らされた参考書に向かってシャーペンを走らせる。
カリカリという小気味のいい音が、電気スタンドしか照明のない薄暗い部屋に響く。
こうして自室で勉強している時が落ち着く。学校の教室みたいに、リア充やら汗臭い熱血男子やらの耳障りな声が聞こえてこないから。
勉強の内容は嫌いだけど、勉強している環境は嫌いじゃない。
「しかしつまんないな……」
僕は改めて、今勉強している数学や科学、現代文の教科書を見つめた。
数字と意味不明の式だけが羅列されている数学。
変なアルファベットと数百年前の法則を丸暗記する科学。
作者の気持ちなんて作者にしか分からないだろうに、それを推測しろと強制する現代文。
現代の拷問だね、これは。
飯島先生にあんなことを言われたから一般入試の方にも手をつけてみたけれど、推薦の方が一般入試より良いところを狙えそうなので、まだ推薦の夢は捨てられない。安定した生活に一歩でも近づきたい。
でも古文とか英語とかは多少面白い。言葉の響きが好きだ。文法はつまらないけれど、独特の言葉のリズムはまるで音楽を聴いている気分になる。
魔法の呪文とかあったら、こんな感じなのだろうか。まあそんなものはありはしないから、考えたって仕方がない。
勉強のしすぎか、眠くなってきた。眠気覚ましのコーヒーを口に含んでも眠気が取れない。
僕は少し仮眠をとるために、光沢のあるけれど香りのない机に突っ伏した。
「……ウジ」
「……エンジョウジ!」
僕の名前が呼ばれたので、目を開けて顔を上げる。
さっきまで自室にいたはずなのに、顔をあげると見たこともない教師が目の前に立っていた。飯島先生とは明らかに違う顔だし、そもそもこんなブロンドの髪に鷲鼻という外人教師の知り合いはいない。
僕が寝ぼけ眼で周囲を見渡す。高校の教室ともまるで違う。大学にあるような、教卓が低い位置にあり、一列ごとに高くなった生徒の机がそれを囲む形の教室。
周囲には白のカッターシャツの上から黒いマントをはおった、見たこともない制服の男女が物珍しそうな目でこっちを見ていた。
「夢か?」
あまりにもあり得ない情景に、僕はそう結論付けることにした。
面接がうまくいかなくて疲労がたまっているんだろう。夢でまで疲労するのはあほらしい。
僕は木の香りがする机に突っ伏して再び眠ることにした。
「エンジョウジ!」
教師が手に持った教鞭で僕の頭を叩く。教鞭と言っても日本にある先端がプラスチックで保護された銀色のものではなく、乗馬用の鞭みたいな形をしている。。
お陰ですごく痛い。頭蓋骨に響くような痛みがジンジンと伝わってくる。経験したことのない痛みだぞ、これ。
え、痛い?
っていうことは、夢じゃない? だけどそう決めつけるのは早計だ。痛みを感じる夢っていうのもあるかもしれない。
夢にしろ現実にしろ、これ以上鞭でぶったたかれるのも割に合わない。
それに周りからも注目されている。悪い意味で注目されるのは内申点に響きそうだ。夢でも内申点をひかれるのはまっぴらごめんだ。
僕は机に置かれていたハードカバー、いや絹表紙か? の教科書を開き、おとなしく授業を聞くことにした。
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