第44話 科学部、味噌汁を渇望する!
「あー、味噌汁食いてー」
金太の言葉に、一瞬にして場の空気が凍り付いた。
「グフッ……パワーワード来たー」
「お前というやつは」
「禁句を口にしたわね、このカネハライア・カネハライは」
「姐御先輩、最近の罵倒は罵倒になってません」
「俺、馬頭暗黒星雲なら知ってる」
「やかましい黙れ、このリュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ」
「教授も全然罵倒になってないわよ」
「解説くーん」
解説しよう。
カネハライア・カネハライとは、軟体動物門二枚貝綱マルスダレガイ科に属する二枚貝の一種である。発見者の
リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシとは、被子植物門単子葉植物綱イバラモ目アマモ科の植物であり……ぶっちゃけアマモの事である。漢字で書くと『龍宮の乙姫の元結の切り外し』である。恐らく一番長い名前の植物であろうと思われる。以上!
「アマモってなんすか?」
「海の中に生えてる水草みたいなものよ。単子葉類だから、アバウトにイネとかトウモロコシとかの仲間ね」
アバウトすぎである。
「なんだ海藻じゃないすか。ああ、ワカメの味噌汁食いてー」
コイツ学習能力なさ過ぎる。二度も地雷踏むか。
「種子植物だって言ってんじゃないのよ! 海藻は藻類でしょうが、このサントメジャイアントオレンジブラウンバブーンは!」
解説しよう。
サントメジャイアントオレンジブラウンバブーンとは、節足動物門クモ綱クモ目オオツチグモ科の仲間であり、一般的にはタランチュラの名で知られている大型のクモの一種である。以上!
「姐御先輩……罵倒になってません。もういいから金太はジャイアントケルプでも採って来い。腹いっぱい食えるぞ」
「いやー、あれは不味そうだよねー」
「ジャイアントケルプってなんすか?」
姐御の顔に縦筋がたくさん入り始めたところで、シダの繊維で編み物をしていた二号が代わりに解説を始めた。
「コンブの仲間でねー、長い奴になると60mくらいになるんだよねー。まあ、それだけ潜らないと採れないわけだけどねー」
「コンブっすか。昆布出汁でカニの味噌汁とかいいっすね。ワタリガニとかいませんかね。もうタカアシガニでも何でもいいっす」
「なんか言ったかしら、このサントメジャイアントオリーヴブラウンバブーンは」
地味に色合いが変わったらしい。まあ、微々たるものではあるが。
「ぜんっぜん色違うわよ! 赤と緑くらい違うわよ! ミドリフサアンコウなんて緑でもなければフサフサでもないのよ!」
それとどういう関係が……。
「スベスベケブカガニっていたねー。スベスベなのか毛深いのかはっきりしない名前だけど、結局スベスベのやつー」
「シロクロサギだっているわよ。クロサギの中の白色種」
「ややこしいねー」
そういう二号は随分とややこしいものを編んでいるようだが。っていうかその編針、随分デカくないか?
「そもそもシラサギっていないのよ。ダイサギ、チュウサギ、コサギの白い奴をまとめてシラサギっていうの。元々シラサギって呼んでた鳥を、後から分けちゃったからこうなったんだけど。だからシロクロサギもシラサギって呼ばれるわ」
「俺、戦線離脱していいすか?」
黙って離脱しろ。
「更に難解なこと言っちゃうと、チュウダイサギなんてのもいるのよね。サイズで行くとコサギ、チュウサギ、チュウダイサギ、ダイサギの順かな」
「ほぼほぼ詐欺っすね!」
二号の手が止まる。教授の眉間に縦筋が入る。
燦燦と太陽の光が降り注ぐ中、爽やかな海風が彼らの殺気を奪って行く。
「気を取り直して。ハチクマっていう生き物がいるの。どんなのだと思う?」
「クマバチではなくて、ですか?」
「クマバチならどこにでもいる普通のハチでしょ。猛禽類なのよハチクマ」
「哺乳類+昆虫=猛菌類? さすがクマとハチを足しただけあって、強そうな菌類っすね!」
燦燦と太陽の光が降り注ぐ中、爽やかな海風が以下略。
「ハチクマって、ハチの巣を狙って幼虫を食べるの。クマタカっているじゃない? あのクマタカの小っちゃい奴でハチを襲うからハチクマタカっていう名前になったの。それが更に縮められてハチクマになったんだって」
「へーーーー!」
「では、金太も天野さんなので、縮めたら
金太はニックネームであって本名ではない。
「そう言えば金太って名前なんて言うのー?」
「
「名前だけはなんだか壮大ね」
「略したら
「略すなよ」
「オイラ大地だよー。
小さいのにな。名前だけは立派だな。
「
「この前聞いたわよ、このリア充め」
「小学生の分際で、このリア充め」
「143cmのくせに、このリア充め」
三人の嫉妬がドス黒い。
「桜子さんとどこまで行ったんすか?」
「最初のデートで寄生虫博物館に行ってー、二回目のデートで食虫植物園に行ってー、三回目のデートで……」
そういう話を聞いているわけではないと思われる。
「もういいから、早くワタリガニの味噌汁が食える現代に戻りましょうよ~」
教授がそっと目を閉じ、姐御が黙って振り返り、二号が編針代わりにしていた銛を静かに逆手に持ち替えた。
「貴様」
「あんたねぇ」
「リカエノプスの最期を忘れたかなー?」
二号の脅しが金太以外の二人をも震え上がらせたのは言うまでもない。
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