第43話 科学部、ビジネスにつなげる!

「冥王星の赤道面での直径が2,370km、これを4cmのピンポン玉に例えると、2,370,000m÷0.04mで59,250,000が係数になるから――」


さっきから教授がブツブツと言いながら、砂浜で何かを計算している。そこへ何も知らない金太がやってきて、計算式の上を平然と横切る。

 それを見ながら二号と姐御は「あーあ」「やっちゃったねー」と溜息をつく。まあ、いつもの光景と言えばいつもの光景ではある。教授も既に慣れてしまって、怒ることもない。家族とはそんなものである。

 ん? 家族?

 確かに彼らは既に家族のようなものであろう。最初の頃はサバイバル合宿の様相を呈していた彼らも、最近ではサバイバルすら『普段の生活の営み』と化している。慣れとは恐ろしいものである。


「あ、ごめんごめん、何か計算してたか?」


 足元の計算式にようやく気付いた金太が慌てて謝るが、教授は特に気にする様子もない。


「ああ、つまらん計算だ。暇だったんでな」

「何を計算してたんだ?」

「冥王星がピンポン玉だったら、太陽系の惑星はどれくらいなんだろうなと。計算を始めたばかりだから、特に問題はない」

「へー。地球はどれくらい?」


 教授は嬉しそうな表情を一瞬だけ見せ、慌ててポーカーフェイスに切り替える。金太に質問されるのがそんなに嬉しいか、ツンデレ教授め。


「地球の直径は12,756,274mだから12,756,274÷59,250,000≒0.21、約21cm」

「ドッジボールくらいだな。金星は?」

「12,103,600÷59,250,000≒0.20、約20cm」

「バレーボールくらいか。金星と地球って大して変わんねーな」

「ボールにしたらな」


 などとお喋りしながら次々に計算していく。たまに「あれ? 火星ってどれくらいだったかな?」などと言っては、その度に横から二号が「6,794,400m」などと教えてやっている。

 暫くして、腕を組んだ教授が満足げに頷いた。


「金太、全部計算が終わったぞ」

「おー、見せて見せて」


水星:4,978,400m 8cm 野球硬式ボール

金星:12,103,600m 20cm バレーボール

地球:12,756,274m 21cm ドッジボール

火星:6,794,400m 11cm ソフトボールよりちょっと大きい

木星:142,984,000m 241cm アドバルーン(大型)

土星:120,536,000m 203cm アドバルーン(標準)

天王星:51,118,000m 86cm 大玉転がしの玉

海王星:49,528,000m 83cm バランスボールLサイズ

冥王星:2,370,000m 4cm ピンポン玉


「キンボールのサイズが無いねー」

「キンボール? 何それ、漢字で書いたらヤバいヤツ?」


 それは姐御の発想がヤバいだけである。


「違う違う、普通にキンボール。金の玉じゃなくて、ピンクとか黒の玉ー」

「ピンクとか黒? 初心者がピンクで上級者が黒とか?」


 黒帯か何かと勘違いしているようである。


「違う違う。玉も大きいんだよー」

「たっ、玉が大きいのっ?」

「そだねー。122cm。その玉をヒットするのー」


 金太と教授が何故か前を押さえる。だからキンボールの説明だって。


「全員が玉を触ってないとダメとかねー、ややこしいルールなんだよねー」


 教授が金太の前に手を伸ばして、手をぴしゃりと叩かれている。だから、キンボールの説明だって!


「キンボールサイズの惑星があったら、それぞれのボールに惑星プリントを施して『惑星ボール』とか作れそうなのにね。残念ね」

「冥王星で卓球するんすか」


 その瞬間、二号の頭の上に電球マークがピコンと光った。

「おー、それいいねー。友達に持ち掛けてみようかなー。きっと商品化してくれるに違いないよー」

「どんな友達っすか?」


 作者に相談無く友達増やすのヤメロ。


「彼はオイラが中学生の時の科学部の先輩だよー。今は大学生だけどー、自分の会社持ってるよー」

「ねえ、その人に持ち掛けたら、商品化もありえるの?」

「彼が気に入ればねー。二階堂研究所からオイラの名前で依頼すれば多分OK出るよー」


 恐るべし財閥パイプ!


「じゃあさ、古生物のぬいぐるみとかも打診してよ。古生物ってなんか気持ち悪がられて、なかなかぬいぐるみとかマスコットとか商品化されてないのよね。あたし、アノマロカリスのぬいぐるみ抱いて寝たいし、タリーモンスターのストラップとかあったら可愛いと思わない?」


 一般受けはしないと思うが、マニア受けはすると思われる。だが、タリーモンスターの目玉部分は簡単に取れてしまいそうな気もする。目のとれたタリーモンスターなんて、『いかめし』のようなものである。


「ゲロちゃんのマスコットなんか可愛くないすか? 姐御先輩、俺とお揃いでゲロちゃん鞄にぶら下げませんか?」

「なんであんたとお揃いにしなきゃならないのよ、このヘクソカズラ」

「ヘクソカズラって酷い名前っすね」

「そーゆーニオイがすんのよ」


 ヘクソカズラの名誉に掛けて特記しておくが、花はとても可愛いぞ。せめてヘクソカズラヒゲナガアブラムシくらいにしておいて欲しい。


「最近解説君も言うようになったわね」

「結構酷いっす」


 目の幅の涙を漫画のように流す金太のズボンを引っ張る何かがいた。シームリアのシーちゃんである。


「姐御先輩、シーちゃんが『アノマロカリスよりシームリアの方が抱き心地いいぞ』って抗議してますけど」


 遂に古生物と心を通わせるようになったらしい。人間の順応性に感謝。


「現代に帰らないと商品化もありませんけどね」

「だからそれ、お前の仕事だろっ!」


 そして教授は今日も墓穴を掘る。

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