第42話 科学部、語呂合わせをする!

 今日もいい天気である。外の物干し竿では教授のパンツと姐御のブラジャー&紐パンが風に揺れている。

 姐御がすっぽんぽんに白衣という超絶エロい恰好をしていても風景の一部と認識されるほど、既に彼らの中では見慣れた光景となっている。慣れとは恐ろしいものである。


「二号先輩、僕のスマホの電池がそろそろ限界です」

「二号、あたしももうすぐ生理来ちゃうわよ、いい加減なんとかして帰らないとマジでヤバい気がする」

「オイラだって桜子が暴れないうちに帰らないとヤバいんだよねー」


 出来ることなら、姐御がカイメンを使用したり、二号の許嫁いいなずけがエージェントを送り込んでくる前に帰してやりたいものである。


「でも雷が鳴るような嵐は当分来なさそうよ? もう教授に雨乞いの踊りを踊って貰うしかないわね、金盥の上で」

「勘弁してください。金太が魔法陣でも書いて、雷神を召喚すればいいんですよ」

「召喚した方がいいっすか?」

「頼んでないわよこのアホロートル」

「メキシコサラマンダーって言うとカッコいいのに、アホロートルって言うとなんかマヌケに聞こえるねー」


 つまり暇である。


「サラマンダーと言えば四大精霊のうち火を司る精霊の事っすよね」

「こう言う話になると俄然元気になるわね、金太」

「いやまあ、俺はサラマンドラって呼びますけど。でもサラマンドラって言えばトカゲっぽいっつーか、小型のドラゴンっつーか、どっちにしても爬虫類っすよね?」

「アホロートルは両生類よ」

「火蜥蜴とかげなのに両生類って変っすよね」


 如何にその辺りの名付けがいい加減かわかるというものである。


「シーちゃんは両生類と爬虫類のあいの子だよー。どっちの特徴も持ってるー」


 と言って二号が膝の上に抱っこした謎の生き物をナデナデする。その爬虫類にも両生類にも見える生き物はといえば、半目を開けてトロンとしている。ナデナデが気持ちいいのであろうか。

 こいつは数日前からここに住み着いている新しい入居者だ。森に入った金太に懐いてしまい、くっついてきてそのまま居付いてしまったシームリアである。今日は二号の膝の上でくつろいでいるようだが、ここ最近は毎晩金太の抱き枕になっている。


「ねーヒマ。何か面白い話ない?」

邪神クトゥルフでも召喚しますか?」

「イカとコウモリのバケモノなんぞ要らんわ!」

「一ツ目とか半魚人みたいなのもいるっすよ」


 シームリアがふっと顔を上げた。自分のことを言われたと思ったのであろうか。


「そう言えば、古生代とか中生代とかっつーのは、世界史で習わないっすね」

「そりゃそうよ、その頃ってまだ人間居ないんだから。地学の地質年代のところで習うのよ。だから二号の専門分野なんじゃないのよ」


 そう言って腕を組む姐御ではあるが、組んだ腕の上に小玉スイカが二つでーんと乗っていて実に重そうである。ノーブラに白衣はかなりエロい。いろいろエロい。


「俺、歴史の年表とか覚えんの苦手だったんすよ。全部語呂合わせでやっつけましたから」

「オイラは語呂合わせで覚えられなかったよー。だってあれってさー、『いい国(1192)作ろう』って覚えたらそれでアウトでしょー。『鳴くよ(794)うぐいす』って覚えてもアウトでしょー」


 それな。作者もそれがあって数値の羅列で覚えたんだよ、わかるよ二号。√もπも数値の羅列で覚えたさ。


「オイラ、√は語呂合わせで覚えたけどー」


 なんだとこの裏切り者。


「え、そんなものに語呂合わせあるんすか?」

「え、逆に聞くけど金太それ知らなかったのー?」


 キラリと光る眼鏡のフレームをクイっと上げて、教授が静かにプサロニウスの枝を手にする。


「仕方ありませんね、金太にそこまで必要とされて僕が黙っているわけにはいきません」


 いやいや、何も言ってないぞ、教授。という三人の全身アピールを華麗にスルーして、教授は砂浜に式を書き始めた。


√2≒1.141421356

√3≒1.7320508

√5≒2.2360679

√6≒2.44949

√7≒2.64575

√8≒2.828427


「√2の『一夜一夜にひと見ごろ』と、√3の『人並みにおごれや』、√5の『富士山麓オウム鳴く』辺りは有名ですが、√6の『二夜シクシク』と√7の『葉に虫いない』、√8の『ニヤニヤ呼ぶな』はあまり知られていませんね」


 金太が「おお、スゲエ」などと言いながら読んでいるのを尻目に、砂浜には教授の字がどんどん並んでいく。

「歴史年表などは書き始めるとキリがないですが……そうですねぇ、恒星の表面温度によるスペクトル分類にも似たような語呂合わせがあります」


O:29,000-60,000K(青)

B:10,000-29,000K(青白 )

A:7,500-10,000K(白)

F:6,000-7,500K(クリーム)

G:5,300-6,000K(黄)

K:3,900-5,300K(橙)

M:2,500-3,900K(赤)


「O型は表面温度29,000ケルビンのオリオン座アルニタクなどが代表格。B型はおとめ座のスピカやオリオン座のリゲル。A型になるとおおいぬ座シリウスやこと座のベガなどの白い星。F型はこいぬ座プロキオンやりゅうこつ座カノープス。G型になってやっと表面温度約5800Kの太陽ですね。K型でおうし座アルデバラン、M型で赤い星の代表さそり座アンタレスなどが顔を並べます」


 こうなってしまうと誰も教授を止めることはできない。彼は人に説明するのを至上の喜びとしているのである。まあ、そのズボンの中はパンツ穿いてないんだが。


「そしてこのO~Mの型の順番を覚えるのにぴったりの語呂合わせがあります。それがこちら」


Oh,Be A Fine Girl,Kiss Me!


「どうです、完璧でしょう!」

「なあ、教授」

「ん、なんだ?」

「ケルビンって何?」


 そこからか、おい、そこからなのか!

 解説しよう。ケルビンとは絶対零度を基準とした温度の単位である。以上!


「絶対零度ってなんすか」


 …………。

 解説しよう。絶対零度とは、物質の原子振動がゼロであり、熱振動エネルギーもゼロになった状態の事である。以上!


「絶対零度って結局何度なんすかね」


「−273.15 ℃が0ケルビンだと思えばいい」

「ところで、さっきなんで√4と√9飛ばしたんだよ?」


 ……はい?

 科学部は今日も平和である。



※物質の原子振動がゼロになるという事は電子による素粒子のつながりも崩壊するため、実際にゼロになるという事は現実世界ではありえません!(by解説君)

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