第31話 科学部、帰還後を考える!
今日は雨。こんな日は外には出られないので、ひたすらアジトでお喋りに花を咲かせる彼らである。
もともとこのメンバーはお喋りが好きだ。というより議論が好きと言った方がいいのかもしれない。科学部とはそういう生き物集団なのである。
そしてこれも当然のことながら、二号の手は休むことを知らない。壊れかけの籠を直すのはもとより、網のようなものまで作り始める始末である。
冬場に彼が制服の下に着ているベストも自分で編んだという話は有名だし、バレンシアのお婆ちゃんにはストローハットを編んであげたというのだから、彼の手芸好きは筋金入りと言っても過言ではないだろう。
教授は教授で、樹木シダの枝の先をナイフで削り、何やら物騒な武器っぽいものを何本も作っている。こいつやっぱり裏稼業――。
「違いますから。
「誰が使うのー?」
「僕ですよ」
教授の目が眼鏡の奥でキラリと怪しく光る。それはあたかも
「ですから、僕を裏社会の人間にしようとするのやめてください。単なるブッシュクラフターですから。ほっといたら
続編でそれに近い事しようかと思います。
「やるなよ!」
「楽しそうだねー。オイラもSAT緊急出動させたーい」
「小学生相手に特殊部隊なんか出ませんよ」
「コロスよー」
そういう問題ではない。
「でもさー、オイラたちが現代に戻れないのにどーやって続編書くんだろーねー?」
「二号先輩、こんなところで作者の言いなりになってはいけません。僕たち科学部の頭脳を結集して、何が何でも現代に戻りましょう!」
「だからそれ、お前の仕事だろ」
「いえ、IQ160の仕事です」
「物理分野だと思うよー」
「でもマジな話で、現代に戻ったらあたしたち、ここでの生活の事黙ってた方がいいのかな? それとも公表すべきなのかな? っていうか、あたしたちが古生代に行ってきたなんて言って、誰か一人でも信じてくれると思う?」
体育座りをした姐御が、揃えた膝の上で頬杖をつく。こうして見るとなかなかに可愛いではないか。巨大な胸が邪魔そうではあるが。
「オカルトマニアの俺でも信じないっすね」
「でもスマホ画像があるよー」
「ネッシーみたいに捏造疑惑がかけられるんじゃないの?」
「現在では加工すれば直ぐにバレますよ」
「逆に全く加工した形跡が無ければ、本物の画像として認定されるよー」
「どこで認定できるのよ」
「凄いのが知り合いにいるから頼めるよー」
「二号先輩んちって何屋さんなんすか?」
「いろいろー」
フツーの一般家庭でないことだけは確かだと思われる。寧ろこいつの方が裏稼業に近いのではなかろうか。設定ミスったかな……。
「逆に古生代に行ったことを公開しないというのも一つの手ではないでしょうか」
「だけど、あたしたちの証言とデータで、古代生物の研究が一気に進むのは容易に想像できるわよ? これを発表しないなんて、科学者として許しがたいわ!」
「しかもP-T境界前だからねー。かなり貴重な時代に居るからねー、オイラたちねー」
「諜報機関に命を狙われたりしちゃって、スパイアクション展開すか?」
「それは大丈夫よ。狙われてもこっちには切り札があるから」
「何処にあるんすかそれ」
「
「ですから、僕はそういう特殊な世界の人間ではありません」
もうそのキャラで行っちゃえよ。
「裏稼業は二号先輩に譲りますよ」
「てゆーかあたしたち、命を狙われることはないけど、世界的な重要人物に指定されちゃうんじゃない?」
「なんでっすか?」
「だって、古生代の情報持ってんのよ? しかもこの脳味噌に大量に。それを持ち帰ったら……」
「それ、実に危険だと思います。科学界、大激震ですよ」
「ヤバいねー」
「世界のパワーバランスに影響が出るかもしれませんね」
教授の持つ刃渡り23cmのナイフに、彼の黒い笑いが映る。怖い。マジ怖い。
……てか、そこ笑うとこなの、教授?
「やっぱこれ内緒にしてた方がいいんすかね」
「いやー、逆に公表した方が裏の世界の人間は動きにくくなるよー。世間の目が集まるからねー。秘密裏に動いて裏に知れ渡った時の方が危険だと思うねー」
なぜそんなに裏世界の事情に詳しいんだ、二号?
「教授のスマホ、あとどれくらい容量残ってるの?」
「メモリ残量はかなりありますが、電池が問題ですね」
「戻ったらこのデータ、どうする? 二号んちで預かれる?」
「んー、まあそだねー、うちが一番安全かなー」
「では僕たちの持つデータは一旦二号先輩の家で預かっていただいて、画像解析は……」
「大丈夫だよー、警察から依頼が来るほどの画像加工痕跡解析のプロが居るから、その人にチェックして貰えるよー」
「あたしたちは? うちに帰れなくなっちゃう?」
「多分マスコミが押し寄せるからねー、逆に変に手出しができないと思うよー」
既に二号は裏稼業の人たちの動きの事しか頭にないらしい。主語が完璧に省略されている。
「じゃあ、逆にマスコミに騒がれている方が俺たちは安全って事っすか?」
「そだねー。情報は小出しにして、ずーっとマスコミを騒がせておいた方が得策だねー」
「捏造だとか作り話だとか、そういう話も出て来るでしょうね」
「想定内だねー」
「言わせておいた方が安全ね。ずっとその話題で卒業まで引っ張らなきゃ」
「それまでに文部科学省と契約しとくよー。データを渡す代わりにオイラたちの身の安全を保障して貰わないと大学にも行けないからねー」
政府を動かす気か、小学生の分際で!
「大学どこ行くんすか?」
「それ考えてなかったー」
「二号んちなら奥沢小学校か田園調布小学校ね」
「コロスよー」
「ハーバードじゃないんすか?」
「僕が
「じゃああたしはバークリー音楽大学! ハーバードよりMITに近いわよ!」
そういう問題じゃないから……。こいつら賢いのかバカなのか、作者にもわからなくなってくる。
「それ以前に、現代に戻ることを考えるのが先じゃないんすかね?」
金太がまともに見えることも、偶にはある。
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