epilogue 2

『もう、さっさと結婚させたらどうだ』

 この二年間、ユリウス様とアレクシア様はお父様に何度もそう言ったそうだけど、『娘が十七になるまでは嫁にやれません』と珍しく反抗したのだそうだ。『子ども過ぎてダメ』と。


 まぁ。

 私の嫁入り道具の準備だとか、新居の建築だとかもあって、結果的にはお父様の言うとおり、二年は必要になった。


 おまけに。

 私も忙しかったが、アルの方はアルの方で、王都に婚約の報告に出かけたり、教会に挨拶に行ったりしていたらルクトニアを不在にすることの方が多かった。

 結局、私が十七になり、アルが二〇になって、ようやく落ち着いたようなものだ。


 私は目の前のアルを眺める。

 なんだか、こんなにのんびり二人で話をするのも、久しぶりのような気がする。


「腹は満足か?」

 すぐ側に立つアルに尋ねられ、私は頷く。目が合い、くすりと笑われた。

「サンドイッチのソース、ついてる」

 口元だろうか。慌てて指で拭おうとしたら、アルが腰を屈めて舐め取った。


「ちょ………っ」

 どん、とアルの胸を押して突き放すと、拍子に背もたれに上半身が仰け反る。

「なにを」

 するのか、と真っ赤になって言い掛けて、「いやもう。夫婦だし」と平然と言われる。


「……よっ」

 アルは腰を屈めた姿勢のまま、私の背中と膝裏に腕を回し、私を一気に持ち上げる。


「ま、待って、待って!」

 そのまま、寝台の上に投げ出された。ばうん、とマットの上に跳ね、「私は荷物かっ」と怒鳴ると同時に、押し倒された。

「待った!」

 両手首を上から押さえ込まれ、じたばたと足を動かしてみても、アルはびくともしない。顔を近づけてキスをしようとするから、「待って!」と再度怒鳴った。


「何を?」

 面倒くさそうにアルが言う。

「まだ、言ってもらってないんだけど」

 私はアルの目を見てそう言う。的確に関節を押さえやがって、こいつ。手を引き抜こうにも動けない。私はにらみつけた。


「言う、って何を」

 アルは不思議そうに瞬きをしたあと、首を傾げる。束ねた金髪が揺れ、ふわりとやっぱり石鹸の香りがした。


「求婚ならしただろ。二年前」

 あれは酷いものだった。そう思いながら、私は苦みばしった顔で「それじゃない」と答える。

 じゃあ、と口にしてから、アルは私を見降ろしてつまらなそうに言った。


「ウエディングドレス姿ハ、綺麗デシタ」

 呪文か何かのように平坦な声で私に言うから、睨みつけてやる。


「それじゃない。ちゃんと言わないんなら、夫婦でも、『しない』」

「何を言うんだよ」


「考えて」

「はぁ?」


「しっかり、考えて」

 面倒くせぇ、アルは顔をしかめたものの、小さく呻る。考えてはいるようだ。瞳を私から反らし、しばらくシーツの上を眺めている。


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