第94話 男装女子は、返事をする

 両手に腰をあて、アルは焦れたように私に言う。

「自分で決められないんなら、おれが決めてやるよ。お前の運命の相手はおれだ。な?」


「なにが、「な?」よっ。なんでアルが決め付けるのよ!」

「おれの運命の女がお前だからだよ。黙って、おれと結婚しろ」


「そんな求婚の仕方ないっ!」

「さっき、ちゃんとやってやったろうが!」

 アルはそう怒鳴ると、じろりと私を睥睨する。


「いいか。おれが今からお前の運命を告げる。お前はおれと結婚するんだ。で。5人の子を生む。男三人、女二人」

「簡単に産む、産むっていうけど、出来なかったらどうするの」


「できるまで、するんだよ」

 茫然と黙り込むと、お父様が隣で「さすが殿下のお子さんだ」とお腹を抱えて笑っていた。アルは少しぶっきらぼうに、そして早口で私に言う。


「で。二人で末永く暮らすんだ。それでどうだ」

「それでどうだ、って……」

 私はアルを見上げる。アルは私を真っ直ぐに見ていた。


「返事は?」

 アルが顎を上げるようにして私に尋ねる。全く、『結婚してください』とお願いに来た男の態度とは思えない。


「……いいの?」

 私はお父様を見た。「どうぞ」。お父様は目を細めて私に言う。

 私は振り返ってお母様を見た。


「いいの?」

 お母様は満面の笑みで、「もちろん」と頷く。

 私はアルに向き直り、彼を見上げた。


「いいの?」

「それが運命だからな」

 胸をそびやかせてそう言うアルに、私は抱きついた。


「じゃあ、結婚する」

「最初から、そう言えよ」

 アルは私の背中に腕を回し、首に顔を埋めてそう言った。


 階下から。

「おめでとうございます、殿下!」

 という侍従たちの声と拍手に混じり、いくつか「ありがとうございます! オリビア嬢」という声が混じっていたのを私は確かに聞いた。

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