第93話 男装女子は、言い争う
私は視線を揺らしながら、結局アルを見下ろした。
「だって……」
気付けば口から言葉が漏れていた。
「だって。この家、どうなるの」
そう言う私の前に、アルは片膝ついたまま、右手を開いて私に見せた。
「……なに」
訝しげにそう尋ねると、「五人だ」と答えられた。
「なにが」
「おれとお前の子どもの数」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声が喉から飛び出した。だが、アルは大真面目な顔で私に開いた掌を見せ、順に親指から折って行った。
「長男はルクトニア領主を継がせる。次男はスターライン家を持領ごと継がせる。三男はヴォルフヤークト家を再興させる。長女と次女は好きな男の下に嫁がせる。これでどうだ」
唖然とする私の隣で、お父様が、「ははぁ、なるほど」と馬鹿みたいに感心していた。
「なら、君たちの産んだ次男が成人するまでは、僕は頑張ってスターライン家を守るとするよ」
「その間、よろしく頼みます。ウィリアム卿」
男二人で頷きあう姿に私は慌てる。
「待って! なにそれ、私が5人産むの前提みたいなその話やめて! それはそれで、圧力がある!」
「圧力なんてない」
アルは私を見て断言した。
「これは決定事項だから。もう、そういう運命だから」
「はぁ!? 別に私、こどもを産む道具とかじゃないしっ」
「でも、おれは子どもが欲しい。お前との子が」
はっきり言いきられて、一気に顔が真っ赤になった。
「ば、馬鹿じゃないのっ。そんな、そんな簡単に……」
火照った顔を両手で押さえていたら、じろりと睨まれる。
「おれが産めないんだから、お前が産むしかないだろ」
「いや、そういう問題じゃなくってさ!」
だんだん、言い争いになりかけていたら、お父様が隣で急かした。
「どうする? 侍従団殺す?」
「いや、お父様もおかしい! 私がこの話を断ったら侍従団殺す、とかそれ脅迫だからっ」
私の言葉に、侍従団は徐々に身を寄せて一塊になりつつある。彼らの頭には、先日の暴漢を数秒で倒したお父様の姿が蘇っているらしい。だれもがすがるように私を見ている。
「お前さぁ」
不意にアルが立ち上がった。今度はアルが私を見下ろす。
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