第91話 男装女子、求婚される

「すぐ分かるって」

 そう言って、廊下を歩き、階段で足を止めた。


 いや、正確には。

 足が止まった。


 我が家の階段は、まっすぐだ。

 十数段進み、そこから広めの踊り場があって、また十数段が続く。

 そして、短時間の訪問客なら接待できる玄関ホールが広がる。


 そこに。

 その、玄関ホールに。


 所狭しと立っているのは、アルの侍従団だ。侍従たちだ。


 すべて正装で、ヘルメットこそ被ってはいないものの、今すぐにでも閲兵式が出来そうな姿で規律正しく並んでいる。


 その。

 最前列の中央に立つのはアルだ。

 こちらも正装をし、きっちりと背筋を正してこちらを見上げている。


「……なに」

 思わず、その深い青の瞳に尋ねる。アルは一度目を瞬かせると、拍車を鳴らしながら階段を上ってくる。お父様は逆に私の腰を抱いて、階段を下りていった。お父様と並んで階段を下りながら、私はどぎまぎと、階段を上ってくるアルを見る。


 踊り場で互いに立ち止まると、アルが片膝を着いた。ぎょっとする私の前で、侍従団まで一斉に片膝を着く。


「ウィリアム卿」

 アルはお父様を見上げ、緊張の滲む声で言った。


「どうか、お嬢さんとの結婚をお許しください」

 硬い声でそう言った後、私に視線を移動させる。


「オリビア、おれと結婚してくれないか」

 真面目な顔でそう言われた瞬間、心臓が止まるかと思った。

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