第83話 女装男子、闘う

 いや、命じたのだ、と気づいたのは、ジェームズが男たちを見回して胸を張っていたからだ。


「殺せば、お前達の仕業だと知る者は誰もいない。そもそも、ユリウスはこの後、死ぬのだ」

 ジェームズは男たちに語りかける。


「呪いは成就した。お前たちの手で、三人の娘を屠ったろう? 呪いは必ず実行される。今から、ユリウスは死ぬのだ。この」

 ジェームズはアルを指さすが、瞳は男たちから離さない。


「この、坊やを殺せば我々の行為を知る者は誰もいない」

「いいのか? 今が決断の時だぞ」

 アルは声を張る。


「その男を信じるか、おれを信じるか。嫡男である、おれなら父上に進言が出来る」

 男達の瞳は忙しなく動いた。

 ジェームズと、それからアルの間を何度も行きかう。


 そして。

 男たちの視線がすべてアルの顔に移動した。私は安堵する。乗った。アルの言葉に、男たちは乗った。

 そう思った矢先だ。


「もう、引きかえせない! お前たちは人殺しなのだからな!」

 ジェームズの声が夜の空気を打つ。ゆらり、と唐紅色の松明が踊った。松明を持っていた男が、ジェームズの声に怯えたのだと、その表情を見て知った。


「今さら何を臆することがある! 三人も娘を殺しておいて!」

 ジェームズの言葉に、三人目の金髪碧眼の女性の命が奪われたことに気づいた。


「ユリウスとこの小僧を殺すか、お前達一族が殺されるか、そのどちらかだ!」

 ジェームズの怒声は男達を再び震わせた。その震えはどうやら心も揺らしたようだ。

 男達は、アルを見ない。

 互いを、見つめ合っている。


「オリビア、逃げろ」

 アルが一歩私の前に出た。小声でそう言う。


「アルは!?」

 思わず尋ねると、「先に逃げろ」と短く言われた。

「一緒に」

 アルの背中から手を伸ばし、腕を取ろうとしたら振り払われる。


「大広間に行って、人を呼んで来い」

「だって、アル、剣ないでしょ!」

「おれは、武器持つ格闘技は得意じゃないから、別に問題ない」

 言うなり、どん、と肩を押された。


「お前こそ、剣が無ければ役に立たないんだから、せめて大広間に行って、人を呼んで来い」

 アルの語尾は、いくつもの鞘から剣を払う音に消えた。視線だけ前に向けると、男達が抜刀してアルのほうに近づいてくるのが見える。


 人数が、多い。

 じわり、と額から汗が滲む。

 この前路地裏で戦ったときとは状況が違う。ここは四方から敵が来る。

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