第69話 女装男子は、男装女子を誘う

「この後、狩りに参加しなかった貴族達が三〇分後に会場に入ってきます。結構人がごった返すと予想されるので、殿下はその機に乗じて部屋を出られるそうです」

 カラムは小さく片目を瞑って見せた。どうやら彼は私宛の、アルの伝言を持って来たらしい。


「わたしにはどこにあるのか知りませんが。第二書庫のいつもの場所で、と殿下が」

 私は目を瞬かせ、それからアルを見た。

 アルは、伯爵令嬢A、Bに微笑みかけ、侍従団の青年達と朗らかに語り合っている。


 まぁ。

 無理はしているんだろうなぁ、とは思った。


 本来、そんなに表情を動かすやつじゃない。思ったことはすぐ口にするし、考えたことは即行動だ。


 そんなアルが。

 世間体を気にし、『期待される領主の息子像』を演じ続けているのだ。

 無理が出来ても仕方ないだろうとは思う。

 何か私に愚痴りたいことでもあるのかもしれない。


「お一人で来られますか?」

 カラムがちらりと背後のエミリーを一瞥して尋ねる。


「お供がお邪魔であれば、撒きますが」

「大丈夫。ちょっとの時間でしょう?」

 私は苦笑した。


「トレイに行く、とか言って抜け出すから。アルにはよろしく伝えてください」

 そう言うと、カラムは恭しく一礼をした。

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