その1-2 鬼才の指揮者

 最後の一音を奏で終え、浪川となっちゃんは弓の動きを止める。

 部屋を包み込みようにして渦巻いていた氷の結晶は、やがて溶けるようにしてその姿を消していった。

 胸元に掲げていた指揮棒タクトをゆっくりと降ろし、ササキは満足そうに大きく一度頷く。


「ふむ、成功だコノヤロー。流石見事な演奏だ」


 心からの称賛を口にしてササキは銀色の球体――ZIMA=Ωに歩み寄り、下部にあった青いボタンを押した。

 やにわに作動音が高くなり、球体の中でなにやらカリカリと書き込むような音が聞こえだす。


「あの……これで終わり? 上手くいったんですか」


 と、様子を窺っていた日笠さんが尋ねると、ササキは顎を撫でながら振り返り不敵な笑いを浮かべてみせた。

 どうやら終わりのようだ。意外とあっさりだったなあ――失礼ながらそれが彼女の思い浮かべた正直な感想だった。


 でも不思議だ。魔曲は確かに発動したのに、その効果が思ったよりも現れなかった。

 古城で見たヴィヴァルディの『冬』の効果は、それこそ周囲を凍てつく吹雪と霜で覆い尽くし、一瞬にして骸骨兵スケルトンの群れを凍結させていた。

 だが今目の前で体現された『冬』はせいぜい肌寒い雪の結晶をこの部屋に生み出した程度。

 二人で演奏すれば効果は相乗となる――確か会長はそう言っていたはず。

 まあそうなっていたら、この部屋は一瞬にして業務用の冷凍倉庫よりも冷たく凍てついていただろうし、とてもじゃないがこんな悠長に眺めている場合ではなくなっているだろう。

 きっと彼の事だから、何かタネがあるに違いないのだが……この意地悪な生徒会長が素直に話してくれるわけないだろうな――と、即座に思い直し、日笠さんは一人結論に至ると不満そうにアヒルの如く口を尖らせていた。

 

「何だその不満そうな顔は? どうしたんだね日笠君」

「いえ、なんでもありません」

「まあいい、あとは今取り込んだ魔曲をペンダントに転送して完了だ」


 少女の反応を見て、不可解そうに片眉を吊り上げながらも、ササキはテーブルの上にあった彼女のペンダントを手に取り、コネクタ端子を使用してZIMA=Ωと接続する。

 青いボタンが点灯をし始めた。転送が始まったということだろうか。


「――いつもは私の携帯に一度取り込んでから転送しているがな。今回はその手間も省けて助かる」

「なるほど」

「でも、これで終わりなんて、案外簡単なのね」


 演奏を終え、楽器の片づけを始めていたなっちゃんが、弓の松脂を拭き落としながら正直な所感を口にする。

 だがササキは僅かに顔を顰めた後、すぐに表情を元に戻すと、ブレザーの裏ポケットに指揮棒タクトをしまいながら首を振ってみせた。


「魔曲の。だがここまでの準備が、中々骨が折れる作業なのだよコノヤロー」

「準備が?」

「電力の確保です」


 と、聞き返したなっちゃんに対し、同じくヴァイオリンの片づけをしていた浪川がササキの代わりに答える。

 聡明な少女はどうやらそれだけでぴんと来たらしい。

 なるほどそれで――彼女はそう言いたそうに眉を上げると、集会所の窓から見える広場を向き直っていた。

 少女の視線の先にあったもの――それは村の広場の中央に聳え立つ物見櫓に取り付けられた、風車だった。

 五日前、村に戻って来た彼女は到着して早々に、あんなものあったっけ?――と首を傾げていたが、今ようやくその疑問の答えがわかり、納得したようにクスリと口元に笑みを浮かべる。 

 未だ答えが分からない日笠さんは、一人すっきりしたように片づけを再開したなっちゃんを見て、答えを教えてもらおうと口を開きかけたが、やにわに奥の扉が開いたことに気づき、口を噤んだ。

 はたして、扉を潜って部屋に入って来たやる気のなさそうな雰囲気に包まれた、立派な白髭の老人を見て、彼女はぺこりと一礼する。

 その後ろには木のプレートにティーポットとカップを乗せて入って来た、女性も一緒だった。

 

「おお、終わったようじゃの」

「ええ、今さっき完了したところです」

「お邪魔してますペペ爺さん」

「丁度お茶を入れたの、良ければどうぞ」


 そう言って白髭の老人の妻であるマキコがテーブルの上にカップを並べていくのを見て、一同は口々に礼を述べて顔を綻ばせた。

 時刻は丁度午後三時過ぎ。頃合いもよく休憩が始まる。


「マユミちゃん、調子はどうじゃい?」

「おかげさまでのんびりさせてもらってます」


 近くの椅子に腰を降ろし、開口一番そう尋ねると白髪の老人――ペペ爺は、筆のような白眉をあげてつぶらな瞳を日笠さんへと向けた。

 マキコの配膳を手伝っていた少女はにこりと笑って、その問いに頷いてみせる。

 チェロ村に戻って来てはや五日。その間六人の少年少女は思い思いに羽を伸ばしていた。

 ペペ爺を筆頭として村の皆も、久々に帰って来た彼等を喜んで歓迎してくれたし、これまでの怒涛の二か月がまるで嘘だったかのように彼等は穏やかな日々を過ごしていたのである。


「本当にみんな無事でよかったわ。なかなか帰ってこないし、村の皆も心配してたのよ」

「そうだったんですか。ごめんなさい、ご心配をおかけして――」

「いいんじゃよ。せっかく帰って来たんじゃし、気が済むまでゆっくり休むといい」


 と、マキコに続いてペペ爺も満足そうにその顔にシワを作り笑ってみせた。


「ありがとうございます。凄い助かります」 


 やっぱり無償の善意って本当にありがたい。この村を初めて訪れた時もそうだったが、この世界で身寄りのない自分達を信じて、そして匿ってくれる村のみんなへの感謝の気持ちは、絶対忘れてはいけないな――日笠さんは改めてペペ爺達の善意を噛み締めながら、深々と頭を下げていた。


「しかし親しき仲にも礼儀ありだ。お世話になってる村の皆にお土産くらいは買ってくるべきだったのでないか?」

「す、すいません……あの、中々暇がなくて」

「私はパーカスで売ってるという、洋物の無修正本が欲しかったのだが」

「そんなもの買いません。絶対に」


 大体、ペペ爺やマキコさんに買うならともかく、なんで仲間のあなたにお土産買ってこなきゃいけないんだ。

 しかもさらりとスケベなこと言わないで欲しい――

 厚かましくも大真面目に自分の煩悩を全開させたササキに冷ややかな視線を送りつつ、日笠さんは即答する。


「むう、残念だ」

「もう、遊びに行ってたんじゃないんですから……あ、そういえば会長。さっきの電力ってどういう意味ですか?」


 閑話休題。

 ペペ爺が入って来て途切れてしまっていたが、さっき浪川が言っていた言葉が気になっていた日笠さんは、抱いていた疑問をササキへと投げかけた。

 はたして、ササキは、さて、どこから話そうか――と、少し考えた後説明を始める。


「何の事はない。そのままの意味だ、Ωを動かすには電力が必要なのだ」

「ああ……なるほど」


 言われてみれば確かにそうだ。機械を動かすには電力が必要。

 納得したように頷いて、日笠さんは目をぱちくりとさせた。

 

「内蔵しているバッテリーで動くのだが、流石にもう尽きてしまってな。なので、新しく魔曲を作成する際には都度バッテリーを充電する必要があるのだよ」

「それじゃ、どうやってその電力を集めているんです?」

「広場の風車を使って――でしょ?」


 と、マキコが入れてくれた紅茶を美味しそうに口に運んでいたなっちゃんは、クスリと微笑みながら少女の疑問に答える。


「なるほど……風力発電?」

「そういうこと^^」


 先刻の微笑みの少女と同様に、窓の外で回る広場の風車を眺めながら、途端、日笠さんは顔色を明るくした。

 同時に、ササキは微笑みの少女を向き直りニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「相変わらず君は頭の回転が速いな茅原君、その通りだコノヤロー」

「そっか……帰ってきた時、あんなものあったっけ?――って、思っていたんですが、このためだったんですね」

「そうだ。君達が出発してすぐだったか? 村の復旧ついでに無理を言って作ってもらった」

「言われた時は、なんで風車なんぞ――とか思ったんじゃがの。まさか人工的に雷を作り出すためとは……いやはやあんたらの世界の技術は凄いのう」


 と、顔は相変わらずやる気なさげなまま頻りに頷いて、ペペ爺は改めて感嘆の声をあげつつ、異世界の少年少女達を一瞥する。


 あーその、それはちょっと誤解がある。日笠さんは思わず苦笑した。

 確かに私達の世界の文明の利器は、この世界と比べてかなり進んでいると思う。けれど、でもあくまで私はそれをなのだ。

 何が言いたいかというと、技術をのと、それをのは大違いということだ。


 にも拘らず、その技術を、いともあっさりと実用できてしまっているこの生徒会長が特別なのである。

 まあ、考えてみれば異世界に飛ばされることになった原因である装置を作ってしまったり、挙句の果てに人間臭い挙動するアンドロイドまで作りあげてしまう彼にしてみれば、風力発電の装置を作ることなど、きっと朝飯前どころか夕べの晩御飯なみに容易い事なのかもしれない。


 なのに留年……しかも二留。いや今年も留年しようとしてたんだっけ。

 この人一体何を考えているんだろう――

 悶々とツッコミどころ満載な疑問が頭の中に浮かび上がって来て、日笠さんは心底呆れた冷ややかな視線をササキへと送っていた。

 

 人の機微を読むのに長けた青年は、その視線から彼女が何を言いたいのか察したのだろう。

 気まずそうに一度咳払いをすると、ササキは誤魔化すように話を続ける。


「まあともかくだ。あの風車のおかげで電力確保の目処はついたのだが、いかんせん一日で発電できる量は微々たるものでな」

「そうなんですか?」

「うむ、およそ一週間充電してやっと一曲作成できる程度だ。他にもいろいろと実験してみたいことがあるのだが、遅々として進まん。すまないな」

「いえ、今でも十分助かってますから――」


 もう少し効率の良い方法はないものか?――そういいたげに顎に手を当て唸り声をあげたササキに対し、日笠さんは遠慮がちに礼を述べていた。

 流石にこれ以上高望みするのは贅沢じゃない?――と。


「ならいいのだが。一応楽譜は起こしたのだがな」

「楽譜を? ササキさんが?」


 と、頬杖をつきながら、日笠さん同様に呆れた様子でササキの話を聞いていたなっちゃんは、途端狐につままれたような表情を浮かべて尋ねた。

 憮然とした表情でササキは頷くと、床に置いてあった木箱の中からやにわに分厚い楽譜の束を取り出し、証明するようにテーブルの上に置いてみせる。


 いやいや。いやいやいやいや……嘘でしょ?――

 思わず絶句しながら、日笠さんとなっちゃんは、ふらふらとその楽譜の束に近づくと、一つ一つに目を通していく。

 はたして、それは彼の言う通り、手書きの五線譜上にペンで綴られたクラシックの楽譜スコアだった。

 中身も交響曲シンフォニーから、組曲スイート練習曲エチュードまで様々だ。

 それも各楽器分漏れなく記してある。


「今のところこれだけだ。時間がある時にだが、思い出せる限り紙に起こしてみた」

「これ、全部……会長が書いたんですか?」

「そうだが何か?」

「……ねえもしかしてササキさんて、全部のスコア暗記してるわけ?」

「私は指揮者だぞ。その程度の曲は頭の中に入っている」


 にやりと笑い、ササキは自分のこめかみをトントンと指で叩いてみせた。

 もはや呆れを通り越して、背筋が冷たくなってくる。

 流石にここまでは私には無理だ――なっちゃんは引き攣った笑みを浮かべながら、そんな彼の顔を見つめていた。


「そのうち全部魔曲にするつもりだ。期待して待っていてくれ」

「ちょっと待って下さい。これ、全部僕が弾くんですか?」


 と、呆れる二人を余所目に自信満々でそう宣言したササキに反応し、優雅に紅茶を味わっていた浪川は思わず吹き出しそうになりながら、立派な睫毛を瞬かせる。

 だがササキはそんな浪川をむしろ心外であると言いたげに向き直ると、大きく一度頷いてみせた。


「当たり前だコノヤロー。日笠君達がまた旅に出たら、君しか弾ける者はいないんだぞ?」

「……これはきつい」


 これ全部、この量全部か……はたして身体がもつだろうか――

 顔に縦線を描いて浪川はがっくりと肩を落とす。


「ご、ごめんね浪川君」

「いえ大丈夫です。やるだけやってみますんで――」

「――ササキさん。この楽譜、何曲か貸してもらっていい?」


 と、会話に参加せず、何枚かの楽譜を手に取って目を通していたなっちゃんは、やがてうん、と頷きながらササキへ尋ねた。

 

「かまわんが、どうするつもりだ?」

「練習してみる。そうすれば私のレパートリーも増えるし」


 また旅に出れば馬車での移動中は時間を持て余すことが多い。

 その間の暇潰しにもなるし、戦力増強にもつながるはずだ――手の甲で軽く譜面を叩きながらなっちゃんはクスリと微笑む。

 なるほど、とササキは納得すると、すぐさま肯定するように首を縦に振っていた。


「いいだろう、もっていきたまえ。どうせ私には不要なものだしな。ただし練習の際は無闇に発動させないよう注意したまえ」

「ありがとう、助かる^^」


 嬉しそうに礼を述べて、微笑みの少女はいくつかの楽譜をまとめ、チェロケースの中にしまう。

 

「そういえば、他の連中はどうしているのだね?」

「かのーは子供達と遊んでるんじゃない? こーへいはどこ行ったか、わからないけど」

「東山君は?」

「今日夕飯の当番なんで、ヒロコさんのお手伝いです。カッシーは……特訓かなきっと」

「今日もか、またあの喋る刀とか?」

「ええ」


 コクンと頷いた日笠さんに対し、ササキは時任のことを思い出しながら思わず眉を顰めていた。

 流石に初めて時任と対面した時は驚いた。話には聞いていたが、ついには喋る刀まで出てきたか――と。

 だが魔法という非現実的な力が存在するのだ。大しておかしくもないか、と考えなおしはや五日。大分慣れてきてはいたが、やはり珍奇を見る眼を向けてしまうのはやむを得ない。

 そんなササキを余所目に、日笠さんは双眸を細め部屋の窓から見える広場へと向き直る。

 広場の周りを円を描くように動く人影が遠目にだが見えて彼女は口元に笑みを湛えた。


「帰ってきて早々、毎日特訓とはな……そんな殊勝な心掛けの持ち主だったか?」

「きっと彼なりに色々考えているんだと思います」

「ほう」

「まあ、いろいろあったしね――」


 と、なっちゃんも同意するように相槌を打つ。

 そう。本当にいろいろあった。

 そのせいで、彼女も自慢の髪を断ち切る事になっていたのだ。もちろん、後悔はしていないが。


 ふむ……トラブルばかりかと思ったが、得るものもあったということか――

 日笠さんの視線を追うようにして広場を眺め、ササキもほほう、と溜息を漏らす。


 と――


 やにわに、部屋に無機質な機械音が鳴り響いた。一同は何事かと、音を鳴らすΩの球体を向き直る。

 だがササキが慌てることなく一同に向けて手を翳すと、椅子から立ちあがってΩへと歩き出した。


「どうやら、ペンダントへの転送が完了したようだ」


 そう言ってΩの下部にあったボタンの点滅が停止していることを確認すると、彼は満足げにほくそ笑みペンダントからコネクタを抜き取る。


「うむ、新曲無事完成だ。受取りたまえ」


 と、彼は手にしたペンダントを徐に日笠さんへと投げた。

 まとめ役の少女は弧を描いて宙を舞う銀色のペンダントを目で追い手で伸ばす。

 だがしかし。

 途中で視界が霞みがかかったようにぼんやりと滲み出すのを感じ、彼女は思わずよろめいた。

 少女が伸ばした手は見当違いの虚空を掴み、ペンダントは小さな音を立てて床へと落ちる。


「あ、あれ……?」

「どうした? これくらいしっかり取りたまえコノヤロー」

「ごめんなさい」


 まだ疲れが残ってるのだろうか。今日は早めに寝る事にしよう――

 フルフルとぼやけた視界を払うようにして首を振ると、日笠さんは椅子から離れ、ペンダントを拾った。


「大丈夫まゆみ?」

「うん、ちょっと目が霞んだだけ」


 心配ないから――と、なっちゃんへ返事をして、日笠さんは拾ったペンダントを首にかける。

 そして、一度背伸びをすると一同を振り返った。

 

「じゃあ私、そろそろ宿に戻るね。女王様から届いた手紙の続きを読まなきゃ」


 ここに来たのは気分転換がてら。

 元々は留守の間にマーヤから届いていた、神器の使い手達の目撃情報に関する手紙を読んでいる途中だった。

 そう。約束通り、かの蒼き国の女王は、国中から集めた情報を送って来てくれていたのである。

 それをペペ爺から預かったのは四日前。流石に二か月分だけあって、玉石混合かなりの情報が集まっていた。

 もっとも、半分近くはササキが既に中身に目を通し、情報の真偽を精査してくれていたが。

 ともあれ、日笠さんは休息を取りながら、その残りの半分に目を通し、次なる目的地の検討案をまとめていたのである。


 さて、続きを頑張ろう――と気合も新たに少女は踵を返し、集会所を後にしようとした。



「待て、日笠君――」



 しかし、そんな彼女を止める人物が一人。

 何だろう?――と、自分を呼び止めた生徒会の上役である青年を振り返った日笠さんは、そこでやけに神妙な顔つきで佇んでいたササキに気づき首を傾げる。

 

「なんです会長?」

「……いや、やはりなんでもない。あまり根を詰め過ぎないようにな?」


 しばしの間、少女の様子を窺うようにして彼女を見つめていたササキは、やにわに表情を緩めると、釘を差すように諫めた。



「わかってますよ。それじゃ――」


 そう言って、日笠さんは苦笑した後、軽い会釈をして集会所を出て行った。



 しばしの静寂。


「ふむ――」


 日笠さんが出て行った扉をじっと見つめ、ササキは小さく喉奥で唸り声をあげる。

 と、聡い微笑みの少女は彼のその表情を見て妙な胸騒ぎを覚え、形の良い眉を顰めながら、首を傾げてみせた。


「どうしたのササキさん?」

「……茅原君、少し手伝ってもらえないか?」

「構わないけれど、何を?」

「調べものだ。ペペ爺さん、書斎の本を読みたいのですが――」

「もちろん、好きに読んでもらって構わんぞい」

「ありがとうございます。よし、いこう茅原君」


 言うが早いが足早に書斎へと続く扉へと歩み寄り、ササキは部屋の奥へと消えていく。

 ややもって立ち上がったなっちゃんは、ペペ爺とマキコへ軽く会釈をすると、ササキを追って書斎へと向かっていった。

 

「……なんじゃろうの?」

「さあ……あ、マキコさんすいません。紅茶のお代わりをもらえますか?」


 と、呑気に立派な睫毛を瞬かせた浪川がティーカップをマキコへと差し出す中。

 ペペ爺は相変わらずのやる気ない表情のまま、心配そうに溜息をもらしていた。

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