第4話 みんみーは決して見落とさない(実践側)続
対象側 『サーバルメトロノーム』
このアトラクションは、サーバルの身体に合わせた器に人を閉じ込め固定した後、
器ごと左右の行き来をひたすら行うものである
この動きはかつての神話において、サーバルが崖から下に降りる時の前に行なわれていたものである。それがそのまま、天から下の世界にみんみーをもたらす為の準備として人に与えるべき修行であることは、幻視を用いるまでもなくわかることであった。
問題はその意味である。
こんなただ左右に動くだけのもので、果たしてみんみーは成しうるのかと疑うものも多く、この修行装置を作ることは長い間拒否されてきた。
みんみーは偉大である。みんみーは完璧なタイミングでもたらすものである。
そういうものであるから、この装置にはなにかが足りないということを、みんみー修行者達が感じている以上、無理強いすることもできなかった。
しかし、みんみーは堕落するものには与えぬものであるから、我々は我々の全力を尽くし、多くの幻視によりその答えに辿り着こうとした。
しかし、それでも辿り着けない中、こんなことはあり得ないと苦悩する我々の姿を目にした元科学者達の中へ、科学という病が再び顔をもたげ始め、我々を公然とまでは行かないが、非難する目を向けてきたのである。
そうした有様を知った最もみんみーに近い修行者がこう言った。
「彼らの科学を用いて、好きにやらせてみるが良い」
我々は耳を疑った。
科学というものが世界をあそこまで至らせてしまった以上、再びそれに手を染めさせるなど言語同断だと思ったからだ。
しかし、我々より深くみんみーの境地を知るものの言うことだからと、好きに資源とエネルギーを与え思考させることにした。
それで彼らが結局何をしたかというと、人海戦術のような強引な力技である
つまり、この世界の膨大にある動きの中から、このサーバルの動きに等しいものを、見つけるということだ。
そうして、この装置を走らせること2133日目
一つの動きが99.99999%のような極めて科学的に正しく、越えられない確率を越え、寸分違わず正しいものを選び出してきたのだ
そうして、選択されたものを見た結果、我々は誰もが「おお、みんみー」と偉大なる言葉を呟いたのである
装置が選び出してきたもの。
それは、聖地多摩動物公園のサーバルキャットが持つ、分子の動きである。
分子は常に振動している。
それは熱によって動き続け拡大し、命という音を生み出すリズムの最初にして最小となるもの
そのリズムを保てと命に強制され、しかしそれが故に人が自由なる音を出せるようになる機械と同じ
つまり、この動きはサーバルによるメトロノームだったのだ。
我々はこの大いなる答えを前に歓喜し涙し、或いはみんみーを最後まで疑っていた科学の徒を改心させ、或いは驚愕のあまり心臓を止め、或いは自らの愚かさを知り首を吊ることとなった。
そうした狂乱の中、我々は悟ったのである
つまり、我々は偉大なるみんみーと聖なるサーバルの掌の上だったのだと。
科学というものを本当は捨てられないでいた彼らの心を見抜き、あえて幻視で意味を見せず、彼らのやり方で答えに辿り着かせたのだと。
そうして、我々は今度こそ幻視で考えた。
幻視に幻視を誠実に繰り返し、この意味を正確に読み取ろうとした。
そうして辿り着いた我々の結論はこれである。
あの、サーバルの横運動は熱を持つ分子の動きを真似ることにより、世界一切の動きを知ろうとするものである
よって我々は、世界に存在する物質一切の、その熱の動きを監視し、その平均に合わせた分子がする運動と同じ左右の動きを、それが存在する物質の数だけ繰り返すのである
そうしてその数を機械が越えるか、物質側が下回ることによりこの修行は終わりを告げるのである。
その数を知る為にみんみー教は、物質の数と熱を監視することに決めた(なおこの作業は、物質の一切の動きを知る為に世界に莫大に辿り着いたレーダーや監視カメラをそのまま流用すれば良かっただけなので、その手間は限りなく低くて済み、すぐにみんみーの叡智を成す修行を作ることができた。こういう粋なはからいもまた、愚かな我々へのみんみーの慈悲である)
そこで含めた振動の激しさと回数のデータを使い修行が開始され、また多くの存在がみんみーの欠片を得ることになった。
ここで、修行に入りやすいように、よくある質問について回答を載せておく。
もしあなたがみんみーの叡智について少しでも知った後であるならば、揺さぶられている間、気絶したり、眠ったりして、みんみーの神が求める回数を刻めないのではと恐れるだろう。
しかし大丈夫である。
やる程に感覚器官はおかしくなり気絶を繰り返すが、揺さぶられることで少しずつぐにゃぐにゃにされる骨や肉が神経を突き刺すたび、確実に目覚めることができるから、みんみーを得る機会をあなたは逃すようなことはない。
また、仮に死んだとしてもその瞬間にサンドスターが供給され戻ることができる。しかも最新の記憶が引き継げるタイプのサンドスターであるから、そのままそこから続けることができるのである。(なお、機械にも使える最新のものであるから、アトラクションの摩耗や破壊による強制的な修行終了など、つまらないことは起きない)
見落とさぬということは、物質そのものの記憶を全て身体にインストールするということであり、それを果すことは世界の一切と私が等しくなり、器を越えて対象へと渡る自由を得たということになる
よって、このアトラクションにより揺さぶられる身体は、みんみーへと人を導くであろう
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