第9話

 夜になった。夜行性体質の俺たちは、特に眠いことはないのだが、これからのことを考えると、今すぐに家に帰って寝たい。

「ほら、お兄ちゃん。行くよ」

「なぁ妹よ、今からでも止めないか?」

「何言ってんの?『さぁ、ヒーローになるぞ!』と言ったのはお兄ちゃんでしょ」

「いや、そうだけど」

「もう門の目の前なんだから、いい加減に覚悟を決めて」

しかし、よく考えたら、俺みたいな引きこもりに何ができるか。

「あれ、もしかして天才君?」

天才君?まさか?

「あれ、今朝会ったのに忘れちゃった?我が校一の天才君の彼女候補、奈祖乃比都です!」

「お兄ちゃん、どういうこと⁉」

「ちょっと、大学でな。というか、なんだよ、天才君て」

「だって、君がデートのときまで名前を教えてくれないって言うから」

「デート⁉お兄ちゃん‼」

「いろいろと勘違いだよ。お前も、紛らわしい言い方ばっかするな」

「ところで、二人で何しているのかな?」

「兄と妹の秘密のお仕事です」

「あらま、天才君ってやっぱりシスコンだったんだ。でもまさか、こんな公園で、そんなことを⁉」

「ヒメ、お前まで紛らわしい言い方するな!俺が変態みたいになるだろ!」

「ま、人の趣味には口出ししないよ。またね、天才君」

奈祖乃は逃げるようにその場を去っていった。

「お前のせいで変な誤解されたじゃないか。どうするんだよ、大学で言いふらされたら」

「別にいいじゃん、お兄ちゃん大学行かないし」

「誤解されたままなのが問題なんだよ」

「デートのときに説明すれば」

「お前、結構嫉妬深いんだな」

「さ、行くよ」

妹は門をノックして開くと、歩き出す。俺は、慌てて付いていく。

「なぁ、ヒメはまだお兄ちゃんのこと好きだよな?」

「さあね~」

「お兄ちゃんが好きなのはヒメだけだから」

「シスコンなの?」

「いや、違うけど」

そんな会話と共に、門をくぐり抜けると、その先はやはり、あの森のような場所だった。ただ、あの時と違うのは、木が全て、なぎ倒されていたことだ。

「まじか」

「ひどい」

立ち尽くしていた俺たちに、聞き覚えのある声がかけられた。

「ヒロ?ヒメ?」

メアリールだ。怪我は無さそうだが、服がボロボロなことから、何かあったことは間違いない。

「2人とも、来てくれたんですね‼」

そう言って駆け寄ってきたメアリールは、まさかの俺に飛び付いた。今日は女性たちのせいで、メンタルがもたない。あと、妹の目が怖い。

「落ち着けって、メアリール、何があったんだ?」

「突然、ブヒモスたちが大量に現れて、ここで暴れたあと、街へ」

「街へ⁉街の住人は大丈夫か?」

「はい、みんなすぐに、砦へ避難したので、幸い怪我人はいません。しかし、街自体は、もう」

「メアリール、砦へ案内してくれ。ブヒモスたちを止めよう」

「止める⁉いくらヒロでも無理です!ブヒモスは何十匹もいるんですよ?」

「別に、俺1人で止めようなんて思っちゃいないさ。メアリール、この街に、警備隊のようなのはいるか?」

「確かにいますが、彼らでも、突進を繰り返す巨大なブヒモスの眉間を狙うことは難しくて」

「大丈夫、そいつらがブヒモスを止めるための、作戦があるんだ」

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