第8話

 戻れなかった。さっきと言ってることが違って申し訳ない。

「なんで」

門の向こうは、公園。門は枠だけでしか無かった。いや、本来門とは、枠だけだが、この門は違うはずだ。

違うはずだ。

「お兄ちゃん、どういうこと?」

「分からない」

門が、あの世界に繋がっていなかった。この門は、あの世界とこの世界を繋ぐものなのだから、門だけはありえないはずだ。

「キャー‼」

どうやら野次馬の誰かがブヒモスを怒らせたようで、パニックが起こっている。そこへ、警察と、えっと、名前は忘れたけど、野性動物を捕まえる人たちが来た。1人が麻酔銃の様なものを構え、撃った。が、ブヒモスの体で跳ね返る。

(ブヒモスの皮膚は分厚いですから)

そうだ、いくら子供でも、麻酔弾ぐらいなら、弾かれて当然だ。眉間を狙わないと。だが、黙って見ていても、眉間には当ててもらえず、次々と外していく。まずい、確か、あのタイプの麻酔銃は。あと2発で終わる。再装填の時間はない。完全に怒ったブヒモスが、銃を持った男に突進していく。

「あー、ったく‼」

「ちょっとお兄ちゃん⁉」

俺は、走り出した。そんなに距離がないことと、俺の低い体力の両方を踏まえると、確率は五分五分。間に合え!麻酔銃を1発外す。俺の手が届く。銃を奪う。これだけ相手が近くて標的が丸見えなら、細かい計算をは必要ない。

「くらえ、豚‼」

俺はギリギリで眉間を撃ち抜く。気絶しても勢いのまま、俺の右横をかすめて、その先の鉄棒に激突した。

「ギリギリセーフ」

「何がギリギリセーフよ!お兄ちゃんは馬鹿なの?下手したらお兄ちゃんがあの鉄棒みたいになってたのよ!」

鉄棒は激突の衝撃でひしゃげている。鉄棒とは、その名の通り、鉄で出来ているわけで、それがああなるってことは俺の身体なんか余裕でへし折れるわけで。

「怖‼」

「今さら?」

そうこうしている内に、ブヒモスが回収されている。それ、異世界の生物だけど、大丈夫かな。

「お兄ちゃん、これからどうする?」

「帰るしか、ないだろ」

勢いよく飛び出した家に戻って来た。なぜ、こうなったかを考えないと。

「いくぞ、マイコンピュータ」

そして夜。

「お兄ちゃん、何か分かった?」

「あぁ、どうやら、世界間の歪みがずれてきているらしい。まさか、シュミレーションシステムがここまで使えるとはな」

「つまりは?」

「世界と世界がまた繋がるのは、この前と同じ夜だ。だけど歪みの影響で門だけが先に現れた。ブヒモスが現れたのは、歪みに弾かれたんだと思う。おそらく門の発現地点に重なっていたんだろう」

「え、それって」

「あぁ、またあの屋敷に、ブヒモスが入り込んでいたってことだ。短期間で2度も起こるってことは」

「やっぱり」

「あの屋敷の警備体制が弱すぎる」

「違うでしょ」

「分かってる。誰かが意図的に連れ込んだんだ」

「一体誰が?」

「それは、向こうに行ってからだろうな」

「じれったいなー」

「それは俺もだよ。でもそれまでに完成させておきたいものがある」

「何?」

「こっちじゃ規制に引っ掛かる、男の夢だよ」

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