第6話

 次の日の朝、普段と同じく、先に起きるのは妹だ。

「お兄ちゃん、門が出てるか見に行こう!」

「ごめん、今日は無理だ」

「まさか」

「メアリールに魔法を見せないと」

「お兄ちゃん、魔法使える?」

「無理だね」

「どうするの?」

「今考えてる」

屋敷の敷地内、庭園で、メアリールは待っていた。まずい、何をするかまだ思いついていない。

「ヒロ、どんな魔法を見せてくれるのですか?」

「あ、えっと」

「お兄ちゃん!お兄ちゃん‼」

突然駆けてきたヒメに救われた。あぁ、やっぱり困ったときは神より妹だ。

「お兄ちゃん、門あった!」

「何、本当か‼」

「あの、ヒロ?」

「悪いメアリール、魔法はまたいつかな。よし、行くぞヒメ!」

昨日門があった場所へ行くと、確かにそこには、あの門があった。俺は恐る恐るノックする。すると、大きな音を立てて、門が開いた。その向こうに見えるのは、あの古びたブランコだ。俺たちの世界だ。

「帰るぞ、妹よ!」

「でも、メアリールはいいの?」

「何言ってんだ!俺は早くマイコンピュータに会いたいんだ!」

「じゃあ、帰ろう!」

「おぅ!」

俺たちは門をくぐり、反対側に抜けた。振り返ると、門は消えていた。だが、そんなことはどうでもいい!もとの世界に帰って来たんだ。待ってろ、我が家!マイコンピュータ!

「ただまー‼」

「家に誰もいないの知ってるよね?」

「いいんだよ、こういうのは雰囲気で」

俺たちはそれぞれの部屋に戻り、俺は懐かしのマイコンピュータを起動した。向こうの世界でのことを記録するのだ。タイトルは、『俺たちの記録』こういうのはシンプルな方がいい。こっちの世界の方がいい。はずだ。そして、次の日。

「よし、学校ヘ行こう。我が妹」

「お断りします」

「俺はともかく、お前はまだ中学生、義務教育の範囲内なんだ。今からなら、まだ長い休みをとっていたで言い訳が利く。俺は、ヒメに学生生活をまっとうして欲しい」

「大学サボってるお兄ちゃんがよく言うよ」

「あぁ、だからこれから、大学に行ってみるつもりだ」

「え?」

「せっかく受かった大学なんだ。1回は行っておかないと、もったいないだろ?」

「お兄ちゃん、どうしたの?変だよ?」

それは自分でも分かっている。向こうの世界から帰って来てからというもの、俺の中の何かが変わった気がする。

「とにかく、俺は大学に行くんだから、お前も学校行けよ?」

「分かったよ。でも」

「ん?」

「今のお兄ちゃん、私が好きなお兄ちゃんと違う」

「そうか」

今の言葉は、心に刺さるな。そんな気持ちで、家を出た。大学の場所は完全に忘れていたので、携帯のマップを見ながら、なんとか到着した。とりあえず、数学の教室に入る。授業を聞く必要はないので、ノートにいたずら書きをしていると、少し離れた席の女性が、声をかけてきた。

「君、ずっと来てなかった人でしょ?このあと、食堂で話せる?」

他の授業に参加する気もないので、OKサインを出した。

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