第4話

 しばらくして、息を落ち着かせたアプリコットさんが口を開く。

「先ほどはありがとうございました。怪しい者と疑ってしまい、すみませんでした。お許しください」

「いいよそんなかしこまらなくて。こっちも死にたくなくて必死だったし。でも、誤解が解けてよかったよ。ありがとなアプリコットさん」

「そんな。メアリールで結構です」

「だから、そんなかしこまるなって。メアリール、なら、俺のこともヒロでいいよ」

「わたしのこともヒメって呼ばせてあげる」

いやお前は何もしてないのに、なんで偉そうなんだ。

「ありがとう、ヒロ、ヒメ」

そういって微笑んだメアリールのことを、俺は不覚にも可愛いと思ってしまった。妹以外に美少女はいないという考えを、異世界にて改める必要がありそうだ。

「お詫びも兼ねて、助けていただいたお礼がしたいので、ぜひ、わたくしの屋敷に来てください」

「私、行ってみたい!」

「そうだな、せっかくだし、お邪魔させてもらうか」

「ありがとうございます。それでは」

メアリールは遠くを見て、口笛を吹いた。すると、向こうから、突風のように何かが走って来た。よく見ると、大きな犬だ。

「わたくしのペットのストリームです。敷地内は広いので、移動はこの子に乗ることにしているんです。さぁ、どうぞ」

恐る恐る、俺はストリームにまたがる、ヒメは普通に俺の前に乗った。こいつは昔から動物を恐がらないからな。メアリールは一番前に乗った。

「ストリーム、ゴー!」

3人乗っているというのに、ストリームはもの凄いスピードで走る。ヒメは、前にメアリールがいるが、一番後ろの俺は振り落とされそうだ。

しばらく走った後、ストリームは大きな建物の前で止まった。

「ここがわたくしと叔父の屋敷です。」

ストリームから降りたメアリールはそう言うと、屋敷の扉をノックした。扉が開き、俺たちが歓迎されるかと思いきや、いきなり現れた兵士に、俺とヒメは取り抑ええられた。

「メアリール、大丈夫か‼」

そう叫びながら、一人の男が屋敷から出てきた。高そうな服着ているし、多分このおっさんがメアリールの叔父さんだな。

「叔父様!何をしているのですか‼この方たちは客人ですよ!」

「何⁉」

その後、メアリールが事情を説明し、俺たちは解放された。

「姪の恩人と知らず、とんだご無礼を。お許しください」

「いや、もういいですって」

「てっきり、姪を人質に私の富を奪いに来た盗賊かと」

被害妄想が過ぎるだろ、このおっさん。

「ストリーム、銀狼が清い人間しか背に乗せないことは、叔父様も知っているでしょう」

俺たち清い人間なのか?兄妹揃って引きこもりだぞ?

「まぁ、俺たちは流れ者ですし、お礼は、しばらくここに泊らせてもらえればそれで」

「それはぜひとも、自分の家だと思ってくつろいでください。褒美を求めないとは、実に謙虚な男だ」

「えぇ、本当に、ヒロは素晴らしい人です」

「それはそうよ。私のお兄ちゃんなんだから」

「ヒロ、後でわたくしの部屋に来ていただけますか?」

「ん?べつにいいけど?」

「ありがとうございます」

「さぁ、ヒロ君、ヒメさん。2人の部屋に案内しよう。付いてきてくれ」

「ほら、行くよお兄ちゃん」

「あぁ」

部屋に、何の用だろうか。

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