第3話

 はい?

「めありーるあぷりこっと?」

「はい、あなたたちはここでなにをしているのですか?」

「いや~、妹とこの森に入ったら、迷ってしまいまして」

「うそですね」

「何を言いますか。俺はうそなんかついてませんよ」

そう、うそはついていない。ただ、俺たちが別の世界から来たとか、門が消えて帰れないとか、大事なことを言ってないだけだ。

「理由は2つです。1つ目は、あなたたちは森に入ったと言いましたが、ここは森ではなく、わたくしの叔父が所有する屋敷の敷地内です」

「え、そうなのか⁉」

てっきり森だと思っていた。というか、お前の叔父さんどんだけ金持ちだよ。

「2つ目は、その子は妹と言っていましたが、なら何故、その子はあなたの腕にしがみついているんです?

妹がそんなことしますか?」

これは痛いところを突かれた。俺だって、普通の妹がこんなことをするとは思っていない。だが、ブラコンだと言って、納得してくれるわけがない。このままだと俺たちは、金持ちの屋敷に侵入しようとした、泥棒カップルかなんかだと思われる。

「俺たち兄妹は、仲が良いんですよ」

「あなたがシスコンなんですね」

「妹がブラコンなんだ‼」

いきなりの汚名に、言い返してしまう。情けないな、俺。その時、何か大きなモノの気配がした。いや、本当。なぜなら、木々をへし折り出てきたそいつは、大型バスぐらいデカかった。デカい猪だ。

「これはブヒモス⁉」

「なんだよアプリコットさん、ブヒモスって」

「この近くのモリア森に住む主です。たまに子豚の何匹かが、市街地に迷い混むことはありますが」

「え、この大きさで子豚なのか⁉」

「いえ、この大きさは明らかに成獣です。でもそんなはずは」

「お兄ちゃんどうしよう⁉」

「お兄ちゃんも、分からないや。全力ダッシュしたら、逃げ切れないかな?」

「いえ、走ったら、すぐに追い付かれて、踏み潰されるか喰われます」

「そうですか」

やばいな、死んだな。

「ブヒモスは眉間が弱点らしいですが、こんなに相手が大きいと、私の弓でもさすがに」

確かに。今、俺たちはブヒモスを見上げるように立っている。そもそも、眉間が見えない。いや、待てよ。

「ちょっとその弓矢貸してくれ」

「え、なにする気ですか⁉」

「お兄ちゃん、まさか」

矢の形状と質量を大体見積もって、弓の弦の伸縮がこれくらいだとして、空気抵抗と俺の筋力を考慮して、角度は、よし。

「いくぞ」

俺は矢を放った。矢は上昇し、やがて弧を描いて降下。俺の計算があっていればこのあと。

「ピギャ~‼」

俺の矢は、しっかりと眉間に刺さった。ここからは見えないけど。ブヒモスは目が虚ろになり、ぐらついて。

「まずい、倒れる!」

俺たちは慌てて後ろに引く。ブヒモスは大きな音と砂ぼこりと共に倒れた。

「お兄ちゃん。この豚さん死んじゃったの?」

「いえ、ブヒモスの皮膚は分厚いですから、簡単に死ぬことはないと思います。おそらく、気絶しただけかと」

「じゃあ、起きる前にここを出よう」

「出口まで案内します」

俺たちはアプリコットさんの案内のもと、この森(じゃないんだっけ?)を出た。

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