第4話飛翔艇破壊者

 外からは見えなかったが、内側はかなり老朽化しており、その石造りの建物のほとんどが朽ちて崩れかけていた。

 地上に近くなるにつれ靄がかかり、朧げな太陽の光を反射してひかる胞子が舞っているせいもあり、視界が酷く悪かった。ナビがなければ、うまく飛ぶことができない程だ。追尾してくる敵機もスピードを出せないのか、その姿をレーダーでも捉えることができない程、遠くにいるようだった。


 静寂。


 まるで、時間が止まっているかの様に感じられるぐらい、幻想的で、どこかの廃墟に迷い込んでいる気分だった。そもそも建物事態、刑務所という感じのものではなく、中世ヨーロッパ建設風の市街地といった雰囲気に近いものだったから、尚更そう感じるのかもしれない。


「追尾を撒けた、のでしょうか??」


「かずちゃん、エンジンをいったん止めて、建物の影に隠れることはできる?」


 目的地を示す赤いマーカーが、距離にして300mほど先に点滅している。

 この速度で飛べばすぐに到着するはずなのだが、珍しく逼迫した様子であたりを見回す様子のアレクシスの様子に、手近にあったすこし大きめの建物の影に飛翔艇を横付けし、エンジンを一時的に停めた。

 飛翔艇という乗り物は基本どれも地面に直接降りることはなく、エンジンを切ったとしても飛翔石を使用しているせいで、どうしても浮遊してしまうのだ。当然、飛翔艇への乗り降りも専用のターミナルを経由しないといけない為若干不便さは否めない。


「このあたりで大丈夫でしょうか??」


 問いかけにも応じず、アレクシスは静かに瞼を閉じて微動だにしない。

 一樹も周囲を見渡しすが異常を全く感じない。幻想世界メーレスボーデンの出生ではないとなにか感じられないものがあるのか。たが、現在任務中であり、現実世界に帰るタイムリミットもある為、目的地付近で時間を無為に過ごす訳にもいかず、焦りはあった。


「アレクシス・ブライトナー??」


「くるっ」


 アレクシスは前のめりになって、前方を指さした。

 それは、一瞬蜃気楼であるかと間違えるほど、存在が希薄で、ゆうに10m以上はあるであろう海坊主がゆっくともっさりとあるいていた。


「なんですか??----あ、あれ…」


現実世界そっちでは、珍しいんだっけ??別名、飛翔艇破壊者フィーゲンブレジャーって呼ばれてるよ」


「ふぃーげん…」


「飛翔艇に使われる飛翔石が好物でね、やつの近くにいるとすぐに喰われちゃうってわけだ。あいつら、影みたいに存在が薄いからセンサーやレーダーにも反応しないからね、事前に発見するのは至難の業だから気をつけようが、ないんだけどね」


 アレクシスは、席に座り直し、苦笑した表情で肩をすくめた。


「センサーやレーダーも反応しないのに、アレクシスはよく気づきましたね」


「いや、敵さんきてないでしょう??その理由を考えて、ぴんと来たってわけだ。幻想世界に通じるものであれば、だれでも気づく筈の事だからね。あれは、決してしなない、攻撃してはならない……」


 あごひげをしごきながら、アレクシスは少し天井を見ながら考えた。


「いや、違うな。攻撃すら奴らには利かない。というのが正しいな」

 

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