第5話 でないでちゅ!

 (・・・あうあう)


 俺なんて一飲みにしてしまいそうな巨大な口をもつオオカミが赤い毛並みを揺らしながら、のしりのしりと俺に向かって歩いてくる。


 (・・あうあう)


 思考がまったく回らない。


 のしりのしり


 (・あうあう)


 ばくり


 オオカミは俺の首根っこを加えて、牢屋の奥へ連れていき、俺を抱きかかえるように丸くなった。

 顔を上げてオオカミの顔をみると瞳の奥に優し気なひかりをたたえていた。

 俺は砕け散った母を思い出して、狼の乳房にすがりつき、眠りに落ちていった。


 ガン!ガン!ガン!


 鉄格子を思い切り叩く音で目が覚めた。


 「■■■■■■! ■■!」


 昨日の奴隷商人が、棒で檻をたたき、怒鳴っている。


 「グルルルルっぅ!!!」


 赤いオオカミは俺を護るように奴隷商人を威嚇していた。


 棒で叩かれ、石を投げられ、それでも俺をかばっている。

 しばらくすると、奴隷商人は怒鳴り声あげながら部屋から出ていった。


 傷だらけのオオカミに感謝が伝わるように全身でハグしていた。 

 俺は生まれて初めて、愛を行動でせられた。

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