第30話 酵素パワーが凄すぎて忘れた
m(_ _)m
エ、今日もおはこび、ありがとうございます。
世間にゃ、忘年会ってのがありますな。
うまいもん食って、酒飲んで、騒いで。
そんで、一年の疲れをねぎらって。とってもいい習慣だねぇ。
っても、程度問題もあるだろうけどな?
営業やってる人たちなんか、毎日のように飲み、飲み。体が持ちやしねぇ。すごいもんですよ本当に。
場合によっちゃ、忘年会のハシゴね。
あっちの飲みに顔を出しゃ、ドモドモ、今年もありがと、来年もよろしくって。
オイ、二次会行かねぇのかい? って声にゃ、「あいやすまねぇ別件が」って、返してな?
微妙に膨らんだお腹に、胃薬の粉末をサーッって流し込んでな? 電車乗って、トンネルくぐって、次の酒の席に行くわけだ。えらい、えらいねぇ日本のサラリーマンは。
しかしヨ? 粉末で酔いに効くっのてのは、すごいですな。
白い粉末なんかだと、目が覚めて目が覚めてしょうがねぇって……おっと、誰かきたようだ。
バカ言っちゃいけねぇ。小麦粉か何かだよ?
さて……。
アタシがそんな怪しいコト言ってる間に、存在センセの「量子トンネル講義」があらかた終わった。
そしたら至がサ? こんなこと言い出したんだよ……。
「なるほど……小さな量子については、通り抜けの原理がわかりました。……では、大きな物はどうなんでしょうか? 『奥田スーパー』っていう物質は、あの塊で一つの量子、ってことはないですよね?」
そしたら、それまで黙って聞いてた、奥田発酵の工場長さんのグラサンが、キラーンと光ってな?
「それはですね? ウチの主力製品、『奥田酵素』の力なんですよ」
「「な、なんだってー!!!」」
「酵素パワーですか……」
至と未来は分かりやすく、存在センセは静かに、それぞれ驚いた。
ってな?
今度は、工場長さんのご講義が始まったわけだ。授業で言うと二時間目。宴会に例えると……こりゃ、二次会だね。
;;;;;;;;
;;;;;;;;
「これです。このエメラルド色の粉末が、奥田酵素です」
って、茶色いビンのフタをパカッと開けて、工場長は見せてきた。
頭にふりかけたら、髪のカラーリングになりそうな、粉末な。いや、髪色がアニメキャラになっちまうなぁ、それだと。
「どうです綺麗でしょ? たくさんの野菜を発酵させて、粉末にしたんですよ? そして……」
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「一方こちらが、岩石を粉末にしたものです。これらをシェイカーで混ぜ合わせて……」
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「このように混ぜ混ぜにしてから、炉に入れて、高温にしてドロドロに溶かします。そこから先の工程は、まぁ企業秘密なんですが……やはり発酵させて、ウイスキーのように樽で寝かせると、最終的には……」
「物を通り抜けちゃう物質、『奥田スーパー』になるという流れです」
と言って工場長は、この会議室まで律儀に運んできてある、テーブルの上を見やった。
凸
凸凸凸
______
「あっ! 」
「冷えたんですか?」
「色が赤じゃなくなってますね……」
「はい。薄井先生のご講義の間に酸素に触れて、大分時間が経ちましたから。もう固まってまして。ちょっと触ってみて頂けますか?」
「うわっ!」
「すごい……さわれる……」
「宗谷さん? 手袋したままなら、さわれて当然ですよね?」
「あっそうでした。……うわわ!! すべすべしてる! 脱いでも凄いんです!」
「未来先輩。脱いだのは、手袋ですよね? 凄いのは、奥田スーパーですよね?」
「もちろん!」
「怪しい言い回ししないでくださいよ先輩」
「へへへっ」
「ざっくり説明しますと、奥田酵素の酵素パワーでですね、量子トンネル現象の通り抜け確率を、凄まじく底上げしてるんですよ。だから、これほど大きな塊でも、通り抜けが可能になるわけでして」
「そうか。酵素って、化学反応を促進するから……」
「酵素パワー、すごっ! あたしびっくりして、耳年増になっちゃった!」
「どうやって耳年増を自覚したんですか? 先輩」
「女性に年増はダメよ! 至くん! ビシイ!」
相変わらずな若い2人は置いといて、存在センセが聞いたねぇ。
「なるほど。酸素が周りにあると、奥田酵素が働かなくなって、通り抜けが出来なくなる、ということですか?」
白衣にグラサンの工場長は、「そのとおりです。さすが鑑定士の先生ですね」と、口元ニヤリ。髪フサフサ。
「ふむふむ……そして、酵素パワーが発揮されている奥田スーパーが、壁に吸収され、壁の反対側から、似て非なる奥田スーパーが出てくる、ということですね?」
「まさに! そうです。壁の中に元々から在る原子や電子たちが寄せ集まって、元の物性を保って、放出されるわけです」
「とすると、この手袋は……物質透過の影響を受けない壁に相当するわけだから……」
「……薄井先生のお察しの通りです。その手袋、酸素の含有量が、凄まじいモノでして。弊社の奥田酵素の効果を、発生させないほどに」
「なるほど……これは面白い……」
存在センセはアゴをつまんで、考えモードに入ったねぇ。
その一方でサ?
センセの思考の展開について行けず、至と未来は、「「???」」と、頭の上にたくさんのハテナを出した状態で、フリーズしてた。
「いや、しかし薄井先生。先生の洞察力には恐れ入りました……。奥田スーパーの方だけでなく、手袋の秘密まで見抜かれてしまうなんて……」
「いえ、それほどでも」
と
しかし、そうやって思考の回る存在センセも、営業的なトコが、ヘタだったんだな。
工場長に素直におだてられた存在センセ。量子トンネルを拡張したと思われる、奥田さんとこの製法自体に興味を持ってかれてサ?
肝心の事を聞かずに、未来と至を連れて、帰途についちまった。つまりな……?
『奥田スーパーの原料となる奥田酵素の製法は、地球技術だけで出来てるんですよね? アウターアートは入ってないんですよね?』
って、質問をな?
アウターアートが混入してると示せなきゃ、ライバル事務所の
アラマ……忘年会っちゅうか、失念会になっちまったねぇ。
m(_ _)m
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