第28話 『通り抜けスーパー!』

 m(_ _)m



 エ、今日もおはこび、ありがとうございます。



 雑誌でね? 立川談志師匠の特集が組まれていたんです。

 いや、いつも噺聴いてる師匠のサ? 裏話が載ってるかと思って、ペラリとめくったら、一言。飛び込んで来た。




「遊んでるか」




 の一言な?



 あー。

 


 全てが繋がった気がしたね。

 結局は遊びなんだよ。



 技術がなんだ、特許がなんだ、銀河がなんだって言ったって、遊びな?

 楽しいからしゃべってんだ。



 それでいいじゃねぇか。



 師匠、今後も勉強させてもらいますm(_ _)m


   


 さて……ヨジゲンさんの出願時点の、仮想の地球に潜ってみたら。



 どうも、やぶ先生んとこの鑑定の通りっぽいんだな。

 アウターアートを使わなくても、地球の技術で、なんとかなるみたいでサ?



 ヨジゲンさん、良かったねぇ。それなら、特許法第29i条の拒絶は回避できそうだ。藪先生んとこの手柄になっちまって、至んとこの瀬田所長は、風呂に入り浸るだろうけどな?



 マ、その辺の話をするってーと……。



 仮想世界のよ?

 『奥田発酵』ってとこの工場に。

 存在センセと、未来と至の3人は足を運んだ。



 実際には、ゴーグルつけてその場足踏みしてんだけどな?



 工場長に、だだっ広い敷地の中を案内されて、肝心の物質を見せてもらいに行ったらサ? 確かに、実現出来てんだな。



 物をスルッと透過するのに、酸素に当たってしばらくすると、固くなる物質が。 

 ヨジゲンさんが書類で『透過性可変物質』って書いてたソレに、該当しそうな物質が。



「『奥田スーパー』という物質名にしました」

 って説明してくれる、白衣にグラサンかけた、頭髪フサフサのおっさん工場長に。



「なにその個人商店みたいな名前!」

 とツッコミを入れる、未来先輩ね。



 存在センセは冷静でさ。

「商品商標じゃなくて、役務商標みたいですね……」

 と、薄っすい声でコメントしてた。



 白衣にグラサン姿の工場長は、どこからとも無く、キャスター付きのテーブルを運んで来たね。

「ご覧ください。このテーブルの上に置かれたのが、奥田スーパーです」



「あれ? 何もないですよ?」

 素直にそう言う至にサ? 頭フサフサの工場長は「バカには見えないんです」と、一発かました。



「……裸の王様キタ!」

 至はジョークだとすぐ気づいたようで、その反応は早かった。

 まるで、酵素使った化学反応みたいだねぇ。



「すみません。透明だから見えませんよね。このゴーグルを掛けてください。赤外線ゴーグルです」

 って、明らかに『グラサン』を3人は渡された。工場長がつけてるのと、同じやつだねぇ。だったら、赤外線グラサンと言うべきだろ。



 しかしヨ?


 

 至たち3人は、この仮想世界に来るのに、水中メガネみたいなVRゴーグルを掛けてるわけで。その上から、仮想の赤外線グラサンを重ね掛けするってのが、かなりカオスだわな。



「あっ! あたし見えた! 赤い!」

「サーモグラフィと同様に、温度が高いと赤く、低くなると青く見えます」



 塊だ。

 赤い塊が、テーブルの上に見えた。



 この塊が、ヨジゲンさんとこの『家庭用マイクロダイソン球』の材料として使えるってんなら、赤いコレを、サテ、どうやって膨らますんだろうかねぇ。



 



 おんなじことに、若気の至も気づいたようで、こう言った。

「赤いのはわかりましたけど……これ、手でつかめませんよね? ……透過性があるんなら」



「あっ……」

 その言葉で気づく、真面目に勉強は出来る、未来先輩な?



 存在センセは冷静だ。

「だとしたら、どうしてこのテーブルの上に置かれてるんですか? 若気君」



「あっ!」

「あれっ?」



「おそらく、通り抜けが出来ない物質も、別に存在するってことじゃないんですか? 工場長さん」



「薄井先生……さすがは地球外鑑定士さんですね。ご理解が速くて助かります。まさにその通りです」

 って、工場長は、今度は白い手袋を出してきた。

 ……ドラえもんみたいに、次々と出してくるよなァ。赤外線グラサン姿の、この工場長。



「軍手?」

「高速道路によく落ちてる、アレですか?」

 と聞く未来と至に、工場長は「手にはめてみてください」と促した。



 でもってサ?



「おおおおお!」

「持てる持てる!」

「モテモテだ! あたし! モテモテ!」

「先輩、色恋は、しばらく無しって言ってませんでした?」

「はははっ」



「弊社自慢の『奥田スーパー』でも通り抜けが出来ない物質で、出来てるんですよ。その軍手も、テーブルも」



「すっごい! すっごい! 熱くて赤い雪玉みたいだ! 血染めの!」

 未来が謎のはしゃぎっぷり。どこか壊れたか?



 血染めと称する赤い塊を、手袋越しに掴んで、至に向かっておりゃあと投げつける。下手投げでな。



 咄嗟とっさのことに、至は反応出来なかった。

 血の色した熱い塊は、「おわっ!」って後ずさりした至の、臓物あたりをスルッと通り抜けた! 放物線を描くように落下……。



「うわわわわわわわ!!!!!」

 いつもは冷静な存在センセが、大声出して慌てる慌てる。



 だがヨ?



 ……ぽいん。



 赤い臓物みたいな塊は、床に落下して静止した。



「薄井先生、びっくりしましたよ! 大声」

「いや、、果たしてどこまで行ってしまうか……」



 地球の中の、マントルか、核か、はたまた、地球の裏側の、ブラジルあたり? まで出ちまうのか。



「あっ!」

「しまった!」

 未来さんはここでようやく、勢いに任せて自分がやった、とんでもない行為に気付いたね。投げるとか。ヘタしたらポリス沙汰だよ、ポリス沙汰。



 いや、ポリスじゃ済まないかもしれんわな……。



「「「申し訳ありません!!!」」」と平身低頭、あやまる3人に。

「ははは。大丈夫ですよ。この工場の床も、透過出来ない物質を塗布してますから。第3層あたりに」




「本当だ……」

「この塊、ビミョーに、地面にめり込んでる……」

「未来先輩。その角度でしゃがむと、スカートの中、見えそうですよ?」

「てめぇこのヤロ! 奥田スーパー喰らって西へ飛べ!」

「だから、口もすり抜けるんですってば! 奥田スーパーは」



 存在センセは冷静に「第三層で、透過をブロックしてるわけですね」とコメントした。



「そのとおりです」

 って言う工場長の、赤外線グラサンが、照明の反射でキラリと光るね。

 髪はフサフサで、頭頂部は光らない。




「至くん。まずは手袋を飲み込もうか。その後、奥田スーパーね?」

「ぐえええ! 軍手はタベモノジャナイ! タベモノジャナイ!」

「ほっぺが落ちるほど美味しいかもしれないじゃない。ほれほれ」

「落ちてるのはホッペタジャナイ! グンテ! グンテ!」



 相変わらず、痴話喧嘩みたいにして遊んでる若い二人を見ながら、存在センセにゃ、とある質問が頭に降ってきた。



「ところで、工場長さん。質問があるのですが」

「はい。薄井先生。なんでしょうか?」



「どうして、物質を透過する性質を持つあの『奥田スーパー』は、手袋とか、床とかは透過しないんですか?」







「それはですね……量子トンネルみたいなものです」







「「量子トンネル?」」

「……なるほど」

 驚いて聞き返すだけの若い2人と、合点が行った存在センセとの、キャリアの違いが見えたねぇ。



 そしてやっぱり、遊びがあると、進展があるもんでサ?



 ……ただな? 未来さん至くん。

 軍手食べ物で遊んじゃいけません。


 

m(_ _)m

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