第26話 ダイブ!

m(_ _)m



 エ、本日もお運びありがとうございます。



 いやぁもう寒いねぇ!

 朝起きたら、気温2度だってよ。いやぁ、外に出たくねぇ出たくねぇ。

 


 ア、それでも頑張って、今日ここに来ようとサ? 電車に乗って、東京駅で乗り換えようとしたら……同じ東京駅なのにすっごく遠いのな! 地下鉄丸の内線で来たんだけど、京葉線のホームまでが遠い遠い。動く歩道も何回か乗り継いで、エスカレーター何本も下りて、ようやく京葉線ホームだ。

 


 あまりに乗換が面倒だから、京葉線の車掌さんとっ捕まえて、「丸ノ内線の列車ごと、京葉線へと同世界転生してくんねぇか?」って頼んだらヨ? その車掌さん「ダイヤが乱れます……」って言った。



 イヤイヤ! 日本ぐらいなもんだって、そんなにダイヤを気にするのはサ? エ? そうでもない?



「京葉線だけじゃなくて、山手線とか地下鉄も運転出来たら、あんた、凄く楽しいでしょう?」って聞いたら、車掌さん、満更でもねえ表情で「それは、リアルな『電車でGONE!』ですね……」だってさ。



 こないだ復刻した、電車の運転シミュレーションゲーム『電車でGONE!』の、路線選択みたいだってな。しかし、なんで現在形の『GO』じゃなくて、完了形の『GONE』なのかねぇ?



 ま、ゲームのステージ選択毎にサ? いちいち転生してたら、残り転生回数が消費されてアタシ困っちゃうよ。 エ? そんな回数の概念無い? 無いの?



 ま、いいや。巷じゃ、異世界転移とか転生のラノベも大流行みたいですし、気軽になったもんだよなぁ。



 今日は、そんなワケのわからん、世界転移のお話でもしますかね。流行りだしな。






 さて……薄井存在うすい・そんざい先生に連れられて、宗谷未来と若気至の若い男女は、東京中野の、例の特許庁にやって来た。今日もビル背面のカタパルト斜面は、元気に宇宙船をバシュウバシュウと飛ばしてる。



 さすがにサ? 資格持ちじゃないと、おいそれとダイブはさせてもらえないみたいでヨ? 若い付き添い2人の申請で、ちょっと手間取った。有資格者の存在センセは、胸のバッジで顔パスなのにさ。



 専用エレベータで3階に行くと、まるで空港の、出国ゲートみたいになってるね。



 手荷物をコンベヤに乗せると、滑車の上を運ばれて、四角いトンネルの中に入ってく。中身をスキャンでもしてるんかねぇ? 手荷物はそのまま奥の方へと運ばれて、そのまま特許庁預かりになるらしい。



 3人もサ? 何かあったらブザーが鳴りそうなゲートをくぐって、さらに、磁気探知機みたいな、虫眼鏡のオバケみたいなのでチェックを受けてサ。まぁそんな具合で、ゲートの中へと入れてもらったわけだな。そこから、さっきのとは別のエレベーターで地下まで潜る。



「このエレベーター、かなり地下まで潜りますね、薄井先生」

「来客毎に別の部屋へと通されるからね。フロアが沢山必要なんですよ、若気君」



「あれ? さっき受付の人が、『個室はあいにく満室です』とか言ってませんでした? 存在先生」

「うん。だから今日は、大ホールで共用ダイブだよ。宗谷さん」



 ってなワケで、地下のフロアに降り立つってーと、地面はじゅうたんでフカフカ。一流ホテルみたいな、謎の高級感が漂ってる。奥に大きな、両開きの扉があってサ? まるでホテルの大ホールだ。



 興味津々の若気至が、我先にと入っていこうとすると――。

「申し訳ございません。その身なりでは入室出来ません」

 と、スーツ姿の女性に言われた。スリッパ履きでホテルの朝食バイキングに行こうとして断られた、アタシみたいな感じだねぇ。



 なんでも、ここではきものを替えないといけないらしく。未来先輩がスーツのボタンを外して、ブラウスの胸元のボタンに手をかけたとこでな?

「宗谷さん。ちがうちがう。着物じゃなくて履物。靴。シューズ」

 と存在センセから注意が入る。未来先輩は赤面した。



 ここで、ダイブ専用の靴に履き替えなきゃいかんらしい。



 そんでよ? 手渡されたのが、靴と、水泳で使うようなゴーグルとの2つでナ? ゴーグルは、水中メガネって言った方がわかりやすいかねぇ?



「昔はほんとに、スキューバみたいに全身を包まないとダイブ出来なかったんだけどね。技術革新で、今はこの2つだけでオッケーなんです」

 説明おじさんと化した存在センセに、2人は教えてもらう。



 でさ? 



 いよいよ、ホールの中へと入るぇてーと、やっぱり先客がいたんだな。

 スーツに白い靴、水中メガネっていう、妙ちくりんな格好をしたいい大人達が、円形テーブルを取り囲むように、その場足踏みとか、その場ジャンプとかしてんだよ。



 天井の高い、大ホールみたいなとこの、あちこちでな?



「異様な光景ですね……」

 至の感想はストレートだったね。



「ああやってみんな、地球シミュレータにダイブしてるんですよ」

 って言う存在センセに連れられて、36番テーブルの前まで歩を進める3人組。部屋の真ん中の、入って左寄りの辺りだね。円卓に、綺麗な白のテーブルクロスが引いてあって。 



 そこまで行って、至は気づいた。

「うわ! この絨毯、フカフカなのに、なんか、動きそうだ……」



「そう。そこが、ルームランナーみたいになってるんですよ。一方向じゃなくて、360度自在に動く。その場足踏みたいにして、『ここでは無い世界』へとダイブする仕様」



「ここではない世界?」

 まぁそりゃ、至には何もわからんわなぁ。



 ここで、未来先輩が名乗りをあげたね。説明ねぇさんの名乗りだね。



「あたしがしゃべるよぉ? パラレルワールドとか、世界線と言ってもいいかも知れないね。バーチャルに生成されたやつだけど」

「世界……線? 世界が、線なんですか? 3次元空間じゃなくて?」


「あれ? 至くん、もしかして、世界線を知らない?」

「はい……よくわかりません」


「この世界以外の、可能性の世界のことよ? 沢山の、枝分かれした」 

「え、ええ……はぁ……」


「もう。勉強不足だよ至くん」



 至はどんどん困惑してくねぇ。一方の未来さんは、うまく伝わらなくってプンスカ! 見かねた存在センセが、助け舟を出したね。



「宗谷さん? その説明じゃ伝わらないですよ? 相手が世界線って用語を知らないんだから。若気君。もしもボックスは知ってますか?」

「はい! それなら知ってます、先生。『もしも、なになにだったら!』って電話ボックスの中で話すと、そんな世界にほんとに行けちゃうっていう、SFすこしふしぎ的なやつですね」



「そうそう。それです。この地球シミュレータは、要は、もしもボックスみたいなものです。そんな『もしも』な世界に、このVRゴーグルでダイブするってわけ」



「えっと……いわゆる、フルダイブのネトゲみたいなもんですか? ソードSテクTオンラインOみたいな」

「……若気君には、ゲームで例えた方が分かりやすかったか」



 ため息をついた存在センセは、水中メガネっぽいVRゴーグルを頭に装着して、ボタンを押したね。



 あそこだよ? あそこ。

 水中メガネの右のカップと、左のカップとを繋ぐ、ゴムゴムのアーチみたいな、プニプニのアレな? アレをサ? ぷにっぷにっと2回押した。



「はい、宗谷さんと若気くんも」


「はい」

「は、はい」

 未来と至もサ。それにならって、ゴーグルを装着して、ぷにっぷにっ。ダブルタップ。



 するってーと、ゴーグル越しに、「WifiWifi」っても文字が点滅してな? 存在センセがすかさず教えてくれた。

「これ、ワイファイって読みます」



「○|○|をマルイと読むみたいな感じですね」

「えっ! オイオイじゃなかったの?」

「違いますよ、未来先輩」 



 ゴーグルには「薄井存在からリンク要請が来ています。受諾しますか? 受諾/拒否」と出た。



「ゴーグルの左目を、手でタップして」

 存在センセの指示に従い、ゴーグルを手でぷいっとタップすると、よくありがちな大量の文字列が、下から上にぶわーっとせり上がった。



「リンク確認。ありがとう、宗谷さん、若気君。じゃあ今から、世界線を設定するから、ちょっと待ってて下さい」

 存在センセはそう言って、ゴーグルの、耳あたり聞こえるシステムメッセージと、問答を始めたね。



 とんちみたいに「そもさん、せっぱ」とは言わずに、淡々と。



『いつ時点の、どこにダイブしますか?』

「そうだね。特許出願人 ヨジゲン株式会社。発明の名称、家庭用マイクロダイソン球の、出願時点の地球に」



『必須リアリティレベルは?』

「そうだね。とりあえず、85%以上で」



『リアリティレベル85%以上の、ダイブ可能な仮想地球アースは、25202世界ございます。どこにしますか?』

「えっと……ちょっと待って下さいね?」



「宗谷さん。藪先生のとこから来た鑑定書って、持ってきてますよね?」

「あっ! 存在先生すみません。さっき、ゲートのとこで、バックごと預けちゃいましたけど……」

「そう? じゃあ、そのバッグごと、ちょっと借りますね? バッグの所有権移転申請……と」

「先生。この、また出てきたメッセージ。受諾をタップすればいいですか?」

「そうそう。バッグは後で返しますので」

「はい」



 ってんでな。存在センセは、未来先輩の持ち物の、「仮想の」バッグを預かって、そこから「仮想の」鑑定書を取り出し、眼前にかざした。ま、そんな仕草をしたんだな。傍から見ると、まるでパントマイムだ。



「いったい何が起こってるんですか……?」

「シュミレータの中に、仮想のバッグを持ち込むのよ。至くん。さっき持ち物をスキャンされてたのは、そのためでもあるの。セキュリティ確保ってだけじゃなくてね?」

「先輩。レータじゃなくて、レータですよ」

「そうだった。てへぺろー」



 若い二人がそんな感じで楽しくやってるのをスルーして、存在センセは処理を先に進めたね。

「この鑑定書で用いられた仮想アースに、ダイブできますか?」

『はい。第2408アースです』

「うん。じゃあ、そこにダイブします。この3人で」



『承知しました。それでは、薄井存在先生、宗谷未来様、若気至様。ゴーグルの左右に表示中の、OKを、両方タップして下さい』



「はい。ポチッとな」

「ぷにっ」

「これですか……押します。はいやぁ!」

 3人は、まるで自分自身に「目潰し」をするような仕草で、第2408アースにダイブして行った。



 リアリティレベル92.195パーセントの、仮想の「過去の地球」にな?



 それをはたして、異世界転移と呼べばいいのか、同世界転移と呼べばいいのか。



 マ、、わからんわなぁ。 



m(_ _)m

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