第23話 じゃじゃ馬だらけ
m(_ _)m
エ、おはこび、ありがとうございます。今日は少なめで。
席が
電車ってサ。凄く便利な乗りモンで、物でも人でも、大量に運んでくれる。決められたレールを時刻通りにな。……っても、日本ほど時刻に正確な国はないようで。国によっちゃ、1時間単位で遅れたり早かったり、なんてな。
人口が密集してるとこで、みんなと同じ列車に乗ろうとすりゃ、ギュウギュウの地獄を味わうわけだが、ちょっと時間をズラしゃ、ア、こりゃ快適だね。
ところがそうは問屋が許さない。会社っていう問屋に遅れるわけにゃいかんから。
じゃあ車で行こうとすると、都心は大渋滞。別手段なら、バイクが良いかも知れんなぁ。車の間をスイスイ抜けれる。
って、……エ? 馬? 馬出勤? 変わった事言い出したねぇ。
ダメなんだって。馬星人が怒るから。
賃金出して雇うなら、別だけどナ?
ま、そもそも、乗らずに済みゃあ、もっと良い。なかなかそんな、欲望通りにはいかないけどナ?
さて。
未来さんがどっかに居なくなっちまった件も片付いて、瀬田OA鑑定事務所は、通常業務に戻ってた。
そしたらサ? プルルル、プルルルって、電話がかかってきたんだな。
『おい! 所長を出せ!』
でかい声が、受話器越しにも聞こえた。
「申し訳ございません……しょ、少々お待ちください……」
総務の女性社員は、慌てふためいて所長につなぐ。
今日も今日とて朝風呂から帰ってきたばかりの瀬田所長がサ、電話を受けて。丁寧な口調で説明してる。あれ、不思議だよねぇ。相手にゃ見えないのに何度もペコペコとお辞儀してるよ。
「ええ、ええ。……はい。……ええ。ウチは、普通に鑑定しているだけでして。最終判断は、ウチじゃなくて、特許庁がすることなんですよ」
「誠に申し訳無いんですが……その時にある情報に基づいてしか、鑑定が出来ないんですね?」
「ええ、ええ。その通知は、最後通牒じゃなくてですね。ヨジゲンさんに、反論の機会もあるものでして。はい。はい。そうです。そのとおりです」
「すみません。反論は……AI弁理士と相談して進めて頂ければ……」
「ええ、ええ、申し訳ございません」
瀬田所長はそんな感じで、しばらく話してた。電話を切るなり、大きなため息をはぁーっとな。
「薄井先生? 未来さん。あと、若気。ちょっとこっち来て。応接室」
とまぁ、まだまだ所長の私物に占拠されたままの応接室、兼、会議室の、隅っこの領域を使ってミーティングだね。
若気の至がサ? 業務の合間に少しずつ捨てちゃいるんだよ? 所長の私物をサ? それでもやっぱり、多勢に無勢ってもんで。
ここで、ちょいと話がズレるが、特許の出願代理は、昔は「弁理士」っておサムライさんがやってたけど、今じゃほとんどAIに代替されててな? なにしろAIは処理が速くて安いから、ヨジゲンさんも使ってた。
瀬田事務所もサ? 至じゃなくってAIにゴミ捨てさせりゃあいいのに。未だに昔ながらの人力作業でやってんだよ。月額使用料をケチりたいなら、レンタルでいいのになぁ? 事務所の秘密情報が漏れるのが、そんなに怖いもんかねえ?
ま、そりゃいいけどよ。
存在センセも、未来も至もみーんな、「面倒なことになったなぁ」って薄々感づいてた。互いに顔ぉ見合わせながら応接室に入ってった。
「さっきのは、ヨジゲン株式会社の、次元社長から来た電話でな? カンカンに怒ってたぞ。『どうしてうちのマイクロダイソン球が特許にならないんだ! お前らの鑑定書のせいだろ? 邪魔しやがってこのヘボが!』だそうで」
所長はサ、そう言って、3人をねめつけるように、順番に見たね。
「あのさ……なにやってんの? 君たち」
薄井先生が、名前の通り、うっすい声で
「いえ、鑑定は公正に、しっかりと……」
「言い訳か!?」
途端に怒鳴り声だ。次いで所長はこう言った。
「ダイソン球の材料をどこから入手したのか、根掘り葉掘り聞きに言ったそうじゃないか! 『大事な営業秘密なのに!』と、お怒りになってたぞ? そんなヒアリングまでしてたら、いちいち時間がかかる上に、こうやって、いらぬトラブルを呼びこむだろうが!」
3人は、……閉口したねぇ。薄井先生は申し訳なさそうに。未来と至は、不満げに。
「こんな案件さっさと処理して、もっと件数を稼げ! でないと秋葉の
言って所長は、応接室を出でった。奥のロッカーから、バタンバタンと音がしてな?
「気晴らしに、風呂に行ってくるから、ちゃんと仕事しておくように! ヨジゲンさんから電話きても適当にあしらって、早く次の案件を処理して? 今月中に、色々と請求に回したいから! ランキングにも影響するから」
指示を出しっぱなしにして所長は消えた。
運転手付きの高級車で。
ま、こんな時だよなぁ? 満員電車に揺られて、こんな事務所に来たく無いって、思っちまうのはヨ?
瀬田所長って名ァの嵐が過ぎ去った後で、宗谷未来が真っ先に口を開いた。
「なに!? なんなの所長のアレ! あたしたちはちゃんとヒアリングして、ちゃんと鑑定しただけじゃない!」
「まぁまぁ」
なだめに入る存在センセ。
「ヨジゲンの社長さんだって、ウチに対して怒るのは筋違いでしょ!? 最終判断は特許庁の審査官なんだからさ!」
「まぁまぁ」
なだめに入る存在センセ。
「風呂から帰ってきて、人の話も聞かずに怒鳴り散らして、お金の話ばっかで、またお風呂?
「どうどう。どうどう」
なだめに入る存在センセ。
至はサ? 首を扇風機みたいに左右に振りながら、存在センセと未来先輩の2人を、交互に眺めてサ?
2人にゃ聞こえないぐらいの小さな声で、つぶやいた。
「……じゃじゃ馬に乗るのは、大変なんだなぁ」
m(_ _)m
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