第22話 二人の顛末
m(_ _)m
エ、今日もおはこび、ありがとうございます。
欲望通りにゃいかない事って、あるもんでして。
たとえば、投稿プラットフォーム。
読者を外から呼び込もうと、有料広告を試そうとすりゃ、運営から待ったがかかる。
『営利目的の利用は駄目ヨ?』と、まぁそうなって。せっかくいいこと思いついたのにとなるわけだ。まぁ、しょうがねぇやな。
ンー、欲望に、現実がついて行けないときもある。
書籍化してぇ、売れてぇ、って欲望が、うまく叶うとも限らんわな。
織姫と彦星ですら、天の川挟んで、1年に1度しか会えねえんだ。人間だって我慢しろ、って感じかもしれねぇな。
マ、人間様にゃ頭があって、理性がある。だからサ? 大丈夫だよ。な?
いろんな対処があるだろうが、アタシゃふーーーっと息をついて、一休みするのが良いと思いますな。果報は寝て待て。待てば海路の日和あり、ってな? アタシゃ、のんびりが大好きだよ。
さて。
放浪していたバガボンド、
至は前に、グレイ型宇宙人の一件でこの7階に来たことがあってな?
そこにゲーセンを見つけて以来、ちょくちょく気晴らしに来てたんだな。それが結果的には良い方に転がった。
そして二人して、夜の街へと繰り出した。
適当に見繕った、路地裏の、ちっちゃい飲み屋に入ったね。
「心配かけたみたいで、ごめんね。至くん。ちょっと、いっぱいいっばいになっちゃって……」
「そうだったんですか……」
とまぁ、未来さんは、一日巡った考えを、至に話した。
別に大して新規性のある話じゃねぇよ? 試験に挑んだヤツが出くわす、よーくある話だ。
世界はそれを、「愚痴」って言うんだぜ?
まぁ、新人くんの至はさ? 話聞くことしかできねぇわな。まだ一回も試験受けてねぇから、そもそもよくわからない。でも、それでちょうどいいんだよ。吐き出してもらえば、それでいいんだからサ。
「僕もこれから、そういう世界に入っていくんですね……」
と言いつつ、至は内心、「自分なら出来る」って、根拠の無い自信を持っててさ。ま、そのへんも若気の至りかもしれないが、そういうのがないと、まぁ長期の戦いは耐えられんわな。
「おいちゃんが、あたしに言ったてことがあるんだ。駄目だった時の心の処理だって、
「えっ? 心はどうにもならないもんでしょ……」
って、つい至は反論する。なんせ元カノにまーだ未練があるからさ。どうにもならんと肌で知ってる。
路地裏の店で、おいちゃんに習って、あったかい日本酒と、鍋を頂いた。
人間ってのは不思議なもんで、胃袋があったまると、こう、心もだいぶ楽になるんだな。
店から出たら、外は当然、暗いまま。
雑踏を抜けて散歩する。ほろ酔いで。
途中で駅前を横切ると、改札がサ? 呼吸するみたいに、空気の代わりに人間を、吸って、吐いて、吸って、吐いてと繰り返してる。遅い時間だから、その呼吸もゆっくり、ゆっくりとな。
ロータリーの椅子に、座ったままのサラリーマンとOLは、缶チューハイ片手にだべってる。ストロングワンとかツーとか、そんなやつでさ。
その奥じゃ恒例の、年末の工事で、クレーン車が動いてて、黄色いヘルメットかぶった現場のおっちゃんが、ぼーっと突っ立ってる。
ベージュのコート来たおばちゃん達が、こんな遅い時間なのに、連れ立って歩いてる。駅前のちっちゃな立ち飲み屋は、客でギュウギュウ詰めだ。
そんなこんなを横目で眺めながら、散歩して、公園までやってきた。いつも昼間に弁当食ってる、あの公園だな。
「そういやおいちゃん、辛くなったら空を見ろって言ってたなぁ」
「こうですか?」
二人して寒空を見上げたらさ。
ちょうど宇宙船が、ライトを明滅させながら、虚空へと飛んでくとこでよ。流れ星みたいにさ。
「きれいだね……」
となるわけだ。
その先にゃ、無限の宇宙と、星と星。
なんでも、光のスピードじゃ届かないとこまで、広がってるって話だ。
「世界のスケールに比べたら、人の悩みなんて誤差にすぎない。おいちゃんが言いたかったのは、そういうことなのかも」
「……ちっちゃくても、無視の出来ない誤差ですね」
「無視は出来なくても、ちっちゃい誤差だよ」
「どっちが正しいんでしょう? 未来先輩」
「どっちだっていいんじゃない? 好きな方を選べば」
「まぁ、そうですね」
「至くん。あたし、帰りたくないかも……」
ってんで、そして二人は、また、夜の街に消えてった。
――。
――。
でさ。
こんだけ条件揃ってて、2人の間にゃ、待ったがかかるんだな。
お互い、理性が邪魔してさ?
ギリギリんとこでさ。
「先輩……やっぱりストップで」
「んぅ……ん? なんで?」
「先輩、合格するまで、無しっていってませんでした?」
「言ったけど……」
「ごめんなさい。俺のほうにも事情があって……前の彼女に、凄く似てるんですよ、先輩が」
「それの、なにがダメなの?」
「混同しちゃ、まずいでしょ?」
「あはは。まじめだねぇ。じゃあさ、その子には無いところを見つけてちょーだいな。じきに」
「じきに」
ってな。
……あのよ?
――。
――。
めんどくせえなぁもう!
ものには勢いってもんがあんだよ。
な。そう思うだろ?
そのへんがわかっちゃいない。だから、若気の至って名付けられんだ。
ま……しょうがねぇやな。
人間には、理性ってもんがある。使い方一つで、毒にも薬にもなるもんがな。
二人がそれぞれの家へと帰途につきゃ、そっからは、一人一人の戦いだ。
至はまだ始まったばかり。
未来先輩は、次で6回目。
冷たい宇宙に、所定の距離で浮かんでる、星と星みたいな関係って言やいいのかね?
ぬくもりはなくても、そこにいるという認識、存在そのものが力になると、二人は感じたらしくてさ?
まどろっこしいなぁもう。
アタシゃのんびりが大嫌いだよ!
m(_ _)m
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