第21話 放浪するなら……。

m(_ _)m



 エ、今日もおはこび、ありがとうございます。



 1192で、「いい国作ろう鎌倉幕府」なんてのがございますな。

 なんでも今は、1185で、良い箱を作るらしいですが。



 ウー、うん。まつりごとは確かに、人の悲喜こもごもを入れる、箱と言っても良いかもしれない。その意味じゃ、まあ合ってるわけです。国に縛られない、箱ね? 汎銀河時代にゃ、その感覚の方が良いかもしれん。



 710で、なんと大きな平城京だとか。

 こういう語呂合わせ、歴史以外にもありまして。犬小屋は、犬が寝るからケンネルKennelとか。



 エ、放浪者のことを、英語で、vagabondバガボンドと言うそうで。

 


 この英語、いい覚え方もあるんです。「放浪するならバカボンと」ってぇんです。



 オイオイ、それでいいのか? 放浪相手がバカボンでいいのか? って聞くと、親父が出てきて、「それでいい!」と断定しそうな勢いを感じますな。

 バカボンと一緒に放浪。ううむ申し訳ないが、利口な弟の、はじめちゃんの方がよさそうだなぁと思う所だけれど、バカボンでも案外、気持ちがほっこりはしそうですな。精神的にヤられてるときなんかは特に、救いになるかもしれない。



 さて……エー、瀬田OA鑑定事務所の宗谷未来そうや・みくさんは、逃げ出したサラブレッドだ。



 中野に居たんじゃ、すぐに見つかっちまうってんで、事務所からふらっと居なくなった後、未来さんは電車に乗って、都心に出たんだな。中野から新宿まで、電車で。中央特快だと4~5分で着いちまう。カップラーメンがちょっとやわくなるくらい……って、電車で食うなよ!? 匂うから。



 新宿はサ? 人がいつも居る、『眠らない町』として有名なとこだね。

 つっても、ことごとく赤の他人。他人が路上でワーっと騒いでるのを見ても、まぁ雑音みたいなもんで。逆に孤立を感じるんだな。



 案の定、若い女性の未来さんに寄ってくるのは、ナンパ目的の男と、キャッチの男ばかり。あしらうのもまぁ、疲れるわな。



 デパートを軽く物色しちまうと、あとはもう、やる事が無い。

 カラオケでも趣味にしてりゃあストレス発散できて良かったんだろう。しかし女一人で入るってのも、結構勇気が居るねぇ。外もまだ明るくて、こんな時間から酒ってわけにもいかない。



 やることないからブラブラと、新宿の東を西をと、当てもなく行ったり来たり。高架化のガード下をくぐってな。考え事しながら、ゆっくりとだ。



 あ、そうそう。未来は結構、裕福な家の生まれでサ? 



 父も母も弁護士で、それぞれ別の事務所を経営してる。一緒にやると、何かあったら共倒れってんでさ。ハイソな駅前の、ハイソなビルの最上階に、いい事務所を構えてんだな。それでいて、訴訟になりゃぁ、敗訴じゃなくて勝訴、勝訴って具合だよ。



 当然のように未来さんも、最初は弁護士を目指した。頭もそうは悪くない。

 ただね? 三振制度にやられた。

 野球と同じで、法科大学院卒業後に3回落ちるとアウトで、最初っからやり直し。酸っぱい思いを味わった。



 そこでまぁ……現実と向き合ったんだな。



 より強く羽ばたき直すんじゃなくて、目標自体を切り替えた。

 雪車夜そりやおいちゃんの口利きで、瀬田OA鑑定事務所に居候。そんで今は、鑑定士の試験を受けている。



 新宿東口スタジオアルタの前にゃ、生のフルーツをカットして、割り箸に刺して売る店がある。そこで買ったパインで、またも酸っぱい思いをしたあとで、電車に乗り込んだ。まあるい緑の山手線にサ。



 長椅子の端っこに座って、横に流れる景色とかさ。天井あたりの、送風で揺れる吊り広告とかさ。駅ごとに違う発車音とかを感じながら、山手線を、1周、2周。



 そんなこんなで、今年で5回目。

 いや、山手線の話じゃねえぞ? 5年も乗ってたら餓死しちまうよ。試験の話だぞ?



 いつまで、あたしは同じ所をグルグルしてんのかなぁ、ってな具合でよ。



 試験勉強自体は、別に良いんだよ。やんなきゃいけない事なんだから。

 時間取られんのも、まぁ工夫でなんとか出来る。楽しい時間が、人より少ないだけだ。

 山手線も良いんだよ。1時間も乗れば、次の周。



 試験が1年に1回しかねぇ。

 これこそが、寿命ある人類にゃちとキツイ。



 どんなに頑張っても、走っても。なぁ? 泣こうがわめこうが、次に結果を出せるのは、きっかり1年後。後ろに伸びることはあっても、縮まることはない。また1年、あたしは解放されないのか、って事になる。



 暦と役所は残酷でサ? 宗谷未来そうや・みくさんっていう、きれいな花の命を、またも1年、吸うわけだ。未来みらいも1年消費して。



 その挙句に。次に勝つとも限らねぇ……ってか5%だ。

 そんなこんなで、終わりの見えない挑戦を、5年間。

 気がつきゃ浦島太郎。浮世にもどんどんうとくなる。



 未来が心の旅をしてる間に、電車は、アー、上野に止まった。2両目の端っこには、ベビーカー用のスペースがあった。そこに子連れで乗り込んできたんだよ。未来と同じくらいの年頃の、ママさんがさ。



(大学時代の友達、みんな結婚しちゃったんだよな……あたしだけか。残ってるの……)



 いっそのこと、辞めちまえば良いんだよな。弁護士目指して三振した時みたいに。資格にこだわらなきゃ、幸せな生き方は、他にいろいろあってもおかしくない。



 ただよ?



 未来さんが縛られてる呪縛は、試験だけじゃねぇんだ。

 家族っていう、別の呪縛がある。



 未来のおじいさんは大学教授。父は弁護士、母も弁護士、いとこは医者だ。地球外技術鑑定士のおいちゃんが、ステータス的には最底辺だってんだから、もうね……。なんだよこの出来杉家族よ。



 いや、環境的には良いこった。

 現にサ? 鑑定士の受験に使う費用は、1年に50万。受験機関に払う費用だな。それをちゃあんと、親が払ってくれてる。

 貧乏人は、自分が稼いだお給金から捻出してんだぞ?



 金がありゃ自由も効くし、なんてったって、教育を受ける機会が増える。教育機会が均等ったって、やっぱり金持ちの方が有利でさ? とにかく、情報が入るのが早い。情報が下へ流れて、代わりに金が、上に流れるシステムだからなぁ。



 そんな、不自由の無い環境を与えられてサ?

「結果を出せない」って結果を見せたらさ?

 親戚たちはどう思うよ?



「いや……別にそれで良いよ」ってなもんだよなぁ正直。親からしちゃあ。一人や二人、出来ない子が混じってても、金持ち家族はビクともしない。



 ……目ぇに見えない「蔑む目」と「劣等感」ってやつに苦しむ、未来ちゃんの心を除けば、のことだがな?



 そんなこんなでドロップアウトは許されない。いや、「あたし」さん自身がドロップアウトを許さない。そんな縛りだ。



 データベースの用語で。データ操作が別々のとこからきて衝突して、どうにも処理できなくなることを、「デッドロック」ってんだけど。



 まさに未来は、そのデッドロック状態にいたんだな。試験と家族の呪縛に挟まれて、同じ場所から動けないでいる。



 そこから抜けだすにゃぁ……ま、受かるしか無いんだな。結果にコミットするってやつだ。あれ? データベースの話をしてたはずが、ライ○ップの話になっちまったねぇ。デーデッデデーデッデッデデー! ってなもんよ。



 わかっちゃいる。未来は真面目で、頭もそこそこ良いんだ。抜けるには、受かるしかねぇと分かってる。早く気持ちを切り替えて、未来みらいに向けて、始めなければいけない。孤独な戦いをな?



 電車の窓の外に、「RECセミナー」って受験機関の看板が見えてよ? 「ライバルに差をつけるのは今! 受講料20%オフ!」って講座のキャンペーンをやってる。心が弱った今、つい金を払っちまいたくなるタイミングを、狙いすましたように。

 


 休みたい。

 ここで休んで、来年も駄目だったらどうしよう。

 それとも、休んだ方が効率良いんだろうか。

 講座、申し込んだ方がいいんだろうか。

 能率アップ錠、使わせて貰えないんだろうか。



 そんな葛藤が、頭の中をぐるぐると、山手線みたいに回る回る。



 ア、『能率アップ錠』ってのは、ま、一言でドーピングだな。頭の処理能力を劇的に増やすアウターアートの薬剤でさ? 電車に例えて言うならば、目的地へショートカットの、真ん中通るは中央線快速ってとこか?

 まぁべらぼうにお高いんだが、未来ん家の経済力なら手が届く。ただよ? 「副作用もあるから駄目」って、親や親戚から、口すっぱくなる程言われてる薬でさ。



 ショートカットしたかったんだな。

 未来は秋葉原で、中央線に乗換えた。中野に戻るともう暗かった。相当な時間、一人でグルグル回ってたんだなぁ。



 戻ってきた中野の街は、すっかり暗い景色だ。みんな夜の酒モード。

 考え事しながら、目の前の酔っぱらいをかわして、中野のアーケードをトボトボ歩き、中野ミルキーウェイに吸い込まれた。



 ヨジゲン株式会社の次元社長は、この前、こんなことを言ってたな。

「ウチの家庭用マイクロダイソン球はな? ワシや従業員が、汗水たらして作ったもんじゃ。それが認められんっちゅーなら、それはそもそも、法がおかしいんとちゃうか?」



(じゃあ、あたしが頑張ってきた5年間は、認められないんだろうか)



 でもさ。そういうもんだよ? セレクションってのは。



 ショッピングモールの中ぁ入ると、そこはもう異世界なわけよ。

 人の居ない、ガレージの閉まった廃墟みたいな空間だな。

 ちょっとした探検みたいな気分で、ドキドキしながら、未来は階段を登った。妙齢の女性が夜中にソンナことしちゃ危ない! って諭す大人も居ない。



 1階にはまだ、人通りが少しあった。通路を北に突き抜けて、その奥の住宅地に住んでる人たちがいるからナ? 2階もまぁ良かったよ。まだしも人の通りが見える。



 3階より上に行っちまったから良くない。暗がりの廊下だ。シャッターはことごとく閉まって、廊下はテカってる。まぁ、謎のスリルはあるんだけどサ。一ヶ所二ヶ所、ガレージの中で話し声してるのが小さく漏れ聞こえてよ? それが救い。



 4階に行ったら、懐中電灯持った誰かが歩いてんだな。まんだらけの人か? 警備員か? 宇宙人か? 呼び止められそうで怖いわな。コートの中に冷や汗かきつつ、見つからないうちに上へと進んだ。



 5、6階をすっ飛ばして、そのまま7階行くってーと、やっぱり暗ぁーい廊下の奥に、煌々と光があってさ。光に吸い寄せられたように行ってみるってーと。ア、ガチャガチャだね? 無人の細長い、ちっちゃなブースが、ガレージを開けていた。その奥の方にも、なんか光があるね。



 なんとなくチャリーンと、手持ちのコインを入れて、レバーをガチャリと回すと、出たんだよ。



「能率アップ錠」

 って、カプセルに書いてある。



 いやこれ……当たりなのかハズレなのか、わからんな。



「いいかい? 未来。ドーピングで結果を得ても意味は無い。例え、他にそれをやってる奴がいてもだ」

 って親の言葉を、昔の未来さんは、素直にウンとうなずいて聞けた。



 今の未来は、わらにも薬にもすがりたい気分だった。あぶねえあぶねえ。そのカプセルの中のヤツが本物なのかどうかも含めてな?



 半日さまよって、判断能力も麻痺してきたんだろうな。



(ここで、これに出会うってことは……)

 なぁんて具合に、論理的思考を、どっかに放り込んじまった。

 飲むにしたって、もっと使い甲斐のあるタイミングで摂取するのが筋だしな。



 無言でカプセルを、こう、細い両手でひねって開けてサ? 中から錠剤を取り出して、こう、口の近くに……ゆっくり運んで……。



「おあああああああ!」

 と、声が!



 未来さんじゃねぇぞ? ガチャガチャの店から、さらに通路を先に進んだ、奥からだ。



「ひゃい!」

 と変な声出した未来さんの手は、飲む寸前で急停止! はっと我に返ってキョロキョロと。カブセル用のゴミ箱に、錠剤を、カプセルと一緒に捨てた。



 おそるおそる、奥に行って見るってーと、そこはやっぱり無人の、ゲームセンター。


 いや、無人じゃなかったね。よーく見知ったのが、座ってた。



「い、至くん?」

「え、先輩? なんでこんなとこにいるんですか!?」

「至くんこそ……」

「いや……先輩を探し回っても見つからないし、諦めて、対戦格闘ゲームなんぞを……」



 未来さんよ。



 ぷぷっと吹き出す未来さんよ。



 そばにいるのが、のほほーんとした奴で良かったなァ? ヤバい薬を薦めるろくでなしじゃなくてなァ?



 ま、バカボンでも、なかったんだけどな?



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