第17話 公開の代償?

m(_ _)m



 エ、今日もおはこび、ありがとうございます。



 こないだは、すいませんでした。『粗忽そこつ長屋』を知らねぇと、いったいなんのオチなのかサッパリだ。



 アタシの脳を酒にして、それをアタシが飲むってうっかり者の、わけわかんない話をしちまいました。『酒』なんだか、『酒を楽しむ脳』なんだか、もうわけがわからない。概念がごっちゃごちゃなんですな。



 ミイラ取りがミイラに……。

 なんて、概念ごっちゃごちゃ話も有りますが、ミイラ取りとミイラも、ある意味紙一重なわけです。



 何が言いたいかって?

『どうとでも変わる』ってことかねぇ。



 魔法少女が魔女になる。

 昨日の敵が今日の友になる。



 ってーと、鑑定書は、なんになるんですかね?

 アートになるんですかねぇ?



 だってヨ? そもそも「技術」はアートでいいやなぁ? ここまではいい。ここまではナ?



 じゃあ、そのアートを言葉で表現する、技術文書は、アートなのかねえ? 人が創作したもんだけど。



 そんで、その文書を読んで作った鑑定書も、アート……ってことになるんかねえ? 人の個性や意思が、滲んでいるならば。

 


 ってな。そんな、アートなんだか、そうじゃねえんだか、よくわからない文書を、未来と至は作ろうとしてる。「内部鑑定書」って名前の書類をサ? あとで特許庁の審査官へと送る書類だ。



 特許庁での調べ物から帰ってきた至は、とにかく思った事をつらつらと、まずは文書に書いてみた。いや、構成も整理もあったもんじゃないから、これじゃとてもとても、鑑定書にはならないシロモノだ。



 至は、書いた文書を印刷し、その紙に、『タスク縮小石鹸』を塗りたくる。



(鑑定書の作成に必要な部分)

 と、念じながらな。



 この、タスク縮小石鹸はサ? 事務所の過去の案件で「アウターアート」と認定されたモンでして。この石鹸を塗りたくり、しばらく放置してから水洗いすると、タスクに不要な部分が溶け落ちるという、優れもの。



 業務効率化の為にサ? 有資格者の存在先生とかなら、これを使うことができるが、無資格者の至と未来の二人にゃまだ、使う権限が与えられてない。



 そりゃあそうだよ。使う側が経験積んでなきゃ、「どこが無駄か」も分からねえんだ。せっかく銀河の超技術使っても、大してタスクは減らないってなったら、コストパフォーマンスが悪くてしょうがねえやなぁ?



 ま、今回は、「自分たちで調べなおそうとは、感心感心」って、存在センセのご好意で、石鹸の切れっ端を、ちょこっとだけもらったんだな。



 ただよ?

 今回は印刷モノだからいいけどよ。水性ペンで手書きしちまうと、水洗い工程で文字がぜーんぶ消えちまうから要注意だ。なぁ。



 そんな感じで若気の至。鑑定書の草稿を作って、指導係の宗谷未来先輩の机に持ってきた。



「はい、見せて」

 未来先輩は、机の隅に置いてあったメガネを掛けて、その鑑定書を読む。メガネをかけると知的カワイイになるからすごーい! って、今頃、けものフレンズかよ。なぁ。

 


 やはり、調べた事実に反することは書けないようでサ?



『酸素雰囲気下において所定の時間が経過した後に物質透過性を失う材料、なる物質は、ナシキロン星で産出されたものと思われる。その他、これを地球上で産出可能と思しき事実は見当たらない』


 

 と書かかれてた。

 いわゆる、「正直モード」って書きっぷりだわなぁ?



「至くん。あたし思うんだけど、ナシキロン星の話は、出さない方がいいんじゃない?」って言いながら、未来先輩は書類に赤ペンでチェックを入れる。



「どうしてです? 特許庁DBで、確認した事項ですよ?」



「まぁそうなんだけどさ……」

 未来先輩はモジモジさんになった。こう、黒タイツが覆う太ももの間に、両手を置くような感じでな? そしてこう続けた。

「ヨジゲン株式会社の次元社長が、おっしゃってたじゃない? 真似されたら、たまったもんじゃないって」



 至は、はぁ? ってな顔をした。素直に顔にでる奴だねぇどうも。

「いや、でも、事実でしょ?」



「だめだよ、会社さんの足を引っ張っちゃ。わかる? 至くん」

「いえ……。鑑定なんですから、正しく書くのが、あるべき姿かと思うのですが」



「ええとね……」

 おいちゃんから受けた皮肉から、時間を置いて考えて、思考がすすんだらしいねぇ、宗谷未来先輩は。後輩の至に向き直った。



「まずね? このまま事が推移したとして、ヨジゲンさんの『家庭用マイクロダイソン球』の特許出願は、特許権成立までいくとおもう?」

「無理でしょうね」

「その根拠は?」

「第29i条があるからです」



「その通り」

 未来はコクンとうなずいた。で、話を続けたね。



「第29i条で、アウターアートの混入の場合は、惑星特許を受けられないって、規定されてるもんね? 新規性とか進歩性とか、他の要件をクリアしていてもさ」



「そう……ですね」

 至の方は、『何か問題でも?』ってな顔してるね。



「じゃあさ、至くん。特許にならないってことは、家庭用マイクロダイソン球はどうなるかなぁ? 例えば、他の会社さんは作ってもいい?」



「えっと……独占権が存在しないんだから……」



「そうだよね? 何人も自由に実施できることになる。そうすると、他社に『仕入れ先』がバレちゃうと、まずくない?」



「まぁ、そうですね……」

 と、至は考えこんだ。



「そう。だから、ヨジゲンさんとしては、秘密にしたいはずなんだよ。実際、こないだ話を聞きに伺った時に、社長さん、そんな感じのこと言ってたでしょ?」



「でも先輩? ヨジゲンさんは、特許が欲しかったんですよねぇ? その為には、公開が義務なんだから、入手経路も、公開するのが筋なのでは?」



「出願公開制度が、曲者なんだよね……」



「へっ?」

 至はきょとんとした。それで事態に気づいた未来先輩。説明を足したねぇ。



「初級ゼミだとまだ、そこまで勉強してない? 惑星特許法64条。特許出願から1年半経つと、発明の内容は自動的に公開される。『出願公開公報』っていう、特許庁が発行する公報に」



「ふむ……新規発明公開の代償に特許権を与えることで、産業を発展させるっていう法目的でしたよね? 公開は、法目的に合致してますが?」



「だとするなら、ヨジゲンさんは特許をゲットできなきゃおかしいよね? だって、発明の内容は、先に公開されるんだから」



「あ……」

 至は、何かに気づいたようだ。



「そう。特許は実は、等価交換じゃないんだよ。発明公開という代価を払ったからといって、特許という独占権をもらえるとは、限らないの。いろんな条件をチェックされて、問題あれば後から拒絶されるわけで。そうなったらヨジゲンさんは、自分のノウハウを公開し損になるよね?」



「そ、そうですね……」

 おっ。至もどうやら気づいたようだねぇ。特許は錬金術そのものじゃ無いってことに。犠牲を払っても、何も得られない場合もあるってことに。



 賢者の石でもあれば、別だけどナ? へっへっへ。



 理解の色を示した、若気の至の顔。

 それ見て未来先輩は、微笑しながら、こう続けたよ。



「だから、オープンクローズ戦略っていう小難しい言葉が、この業界ではよく使われるの。要は、『発明者よ、選ぶが良い。貴様のノウハウを秘密にするか。公開して独占権取得にするか」



 至は手をポンと打ってこう言った。

「あ……コーラの件って……もしかして……」



「さすがにその件は知ってたね。そう。コーラの製法は、『権利はいらないから秘密にしとく』って方を選択してるわけ。ほんの一部の幹部にしか製法の肝は知らされず、その幹部たちは、同じ飛行機には決して乗らないっていう……」



「飛行機が墜落すると、製法自体が闇に葬られちゃいますもんね」



「そういうことよ。でさ? 至くん。今回の場合、ヨジゲンさんの社長は入手経路を秘密にしていた。当たり前よね? 商売でやってるんだから。でさ、この件が、特許にならない筋だっていうなら……」


 

「先輩。わかりましたよ。せめてノウハウぐらいは、隠しておきたいですね。権利を諦める前提ならば」



 ようやく意図が至に伝わったみたいで、未来先輩は笑顔を見せた。

「そういうこと。で、あたしたちがやるのは、鑑定。入手経路まで具体的に書かなくても、鑑定書は作れるんじゃないかしら?」



「ううむ……確かにそうですね……」

 軽くうなった至は、自分が作った鑑定書案から、ナシキロン星についての記載を消した。



『酸素雰囲気下において所定の時間が経過した後に物質透過性を失う材料、なる物質を、地球上で産出あるいは生成することが可能と思しき事実は、現時点では見当たらない』

 とまぁ、入手経路をぼかした鑑定に、変えたわけだな。



(鑑定って、そんなが入ってもいいのかなぁ?)

 なーんて、疑問を抱きながら、な?



 さて。鑑定書は、アートになりますかねぇ?

 それとも他のものに、なりますかねぇ。



 ……あ、そうだ。


 

 存在センセの手によって、没になるかもしれないねぇ。



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