第16話 粗忽星(そこつぼし)

m(_ _)m



 エ、今日もおはこび、ありがとうございます。



 錬金術って、なんだかカッコよくて、いいですわな。錬金術士をテーマに書いた傑作長編を、アタシゃ何作か知っとります。こう、両手をパーンって合わせる金字塔とか、あと、詐欺師のやつとかね。



 あっと、詐欺師のやつは、一作じゃなかったねぇ。別の人がそれぞれ書いた、別のがあった。すんません、アタシうっかりしてたよ。うっかり者、粗忽そこつなんだな。ェァハハハ。



 等価交換で、何かを犠牲にするときんになる。欲やら愛やらがそこにある。ア、そうそう。哀なんかも滲んでますわな。だって、捨てなきゃなんねぇんだもの。喜怒哀楽をまとめて錬成すると、物語になるって寸法だ。



 錬金術士もかっけえやな。

 なんせ錬成にゃ、犠牲の他にも、技術が要る。知識が要る。世界の真理が、術士の頭にゃ詰まってる。

 際限ない、知の世界だろ? なぁ。



 ンー、んでもって、その知識を、「どう」使うか、あるいは「敢えて使わない」か、ってのが、個性だ。



 いいねぇ。酒ばっか飲んでるアタシじゃ、ちょっと届かない境地だねぇ。



 さて、知からかねを錬成するって考えりゃ、ある意味特許も錬金術だ。なんせ独占出来んだからな。資本主義社会でのインパクト、論理的にはでけえやな。



 ってーと……あれだね……。

 地球外技術鑑定士「未満」の未来と至は、錬金術の査定人? 錬成の成功確率を見定める、スカウター的な便利アイテム? そんな感じになるんかな?



 いや、そんな諸々の、「見習い」か……。

 またも、粗忽な先走りだったねぇ。すんません。



 そんな二人の見習いは、とある卵を、「これは金の卵じゃねえ」と見定めた。



 中野ミルキーウェイの11階。その最深に鎮座する、ヨジゲン株式会社って怪しげな名前の会社の、汗の結晶と自称される、「家庭用マイクロダイソン球」って卵をサ。



 未来と至の2人はヨ? 上長の存在センセに、てっきりそのまま報告書を出すと思いきや、そろってこう、言い出した。

「「先生。申し訳ないのですが、もう少し時間をいただけないでしょうか?」」



「え? 期日も先だし、別に良いけど……急にまた、なんで?」



「「調べ直しをしてみたくて」」



 東京中野の北西の、背中の斜面がカタパルトになってるデカいビルな。そこが今の特許庁。今日も宇宙船はどんどん、銀河の彼方へと発進してる。



 そんな庁舎の一室で、未来と至は、裏取り作業を始めたね。



 名前を紙に書き、身分証明書も提示して、中に入ったら、特許庁データベースの端末を借り、知へのアクセスだ。



 ヨジゲンさんとこの次元社長が言っていた、謎の原料の仕入先。「ナシキロン星」って星の情報を調べたい。



 特許庁DBなら、外の星の情報にも、当然ながらアクセス出来る。



 ただな? 『開示レベル』ってのがあってサ。あからさまに技術レベルが高い星の情報は、鑑定士ですら見れない仕様になってんだな。



 まぁ、ちょっと考えりゃ、そうだよなぁ。外星の情報が見放題なら、タイムマシン経営が、インフレの嵐になっちまうよ。外星技術アンリミテッドってわけにゃーいかんのよ。



 あ、そうそう。タイムマシン経営ってのはサ。他の国で成功したビジネスモデルを輸入して、経営を展開することでサ。遅れてる国がソレをやりゃ、それこそ時間をタイムマシンで飛び越したみたいに出来るって話。



 でもって、2人がデータベースに潜ってみたら、「ナシキロン星」はサ。和名「スライムアパタイト」って岩で出来た惑星で。その岩は、粘性を有していると解った。断エネルギー性があるのと、あと、酸素で固まるってのもな?



「すごいなあ……この星自体が、マイクロダイソン球の材料の塊だ……」



「じゃあ、地底人みたく、星の中で暮らしてるって感じなんですか? 未来先輩」



「いや……廃墟になってるみたい」



 その星の歴史を紐解くと、とあるレポートが引っかかったのヨ。汎銀河の誰が書いたのか、よーくわからんレポートな。



 それによると……サ。



 その昔。ナシキロン星は結構繁栄したらしい。

 酸素じゃなくて、二酸化炭素を吸う、地球で言うと「植物」の星だったそうな。



 人口……ってか、草口が増えた結果、酸素の濃度が上昇。星は固まり始めた。それまでは、ブヨブヨだったのにな。



 うちらに例えて言や、密室で「さ、酸素が……だんだん……薄くなる……ッ」って状態だ。梨木龍ナシキロン星人は、酸欠ならぬ、二酸化炭素欠で死に絶えたなっしー。



 だんだん世界がヤバくなってるのに、長期の対策打てないのは、地球の人類と、まぁだいたい同じでサ? それでも、「星の地表に、内側から穴を開けよう」って試みはあったらしい。梨汁を水鉄砲みたいに、高圧で噴射してナ?



 ただサ? 酸素に接する星の内側から、ブヨブヨがカチカチになってくわけよ。カッチカッチに水鉄砲じゃ、ちょっとなぁ……ブヨブヨのうちにブシャアとやって変形させときゃよかったのに。



 ホラ、地球でも言うだろ? 「鉄は熱いうちに打て」「後の祭り」ってサ?



 あ、でもサ? ブヨブヨだと、梨汁も透過しちまうんだから、そうは行かないわナ?



 その後も試行錯誤を頑張ったようだが、梨汁銃の技術革新が、迫りくる死に追いつかなかったんだな……。意志があっても、手があっても、スピードが足らなきゃ届かない。競争も戦争も無かったもんだから、革新のスピードもゆっくりだ。



 そうして結局、廃墟になった。その後、宇宙連合がその星を見つけた。宇宙ゴルフのコースを整備してる時にな。



「外から人を入植するより、このまま7番ホールのカップにしちまえ」ってんで、外から穴掘り。ナシキロン星人が梨汁で掘った穴と、繋げたんだな。どうやら内側から梨汁で、まぁまぁ掘り進んでたらしい。それと繋げた。



 そんな星の歴史を、ヨジゲン株式会社の次元社長は、知ってたんだろうかね?



 ヨジゲンさんとこの出願書類を見ると、途中の段落に、こーんなことが書いてあった。



 っていうかな? こっから先はまるで呪文だ。ま、じゅげむじゅげむみたいなもんだ。



 エー……。



『家庭用マイクロダイソン球を形成する物質透過性可変材は、酸素と接した部分の物質透過性が、所定の時間経過後に失われる。

 すると、該家庭用マイクロダイソン球の内部は、その外部と連通する箇所を持たない密閉空間となり、外界と遮断されてしまう。この事態を避ける為、該家庭用マイクロダイソン球を構成する物質透過性可変材の一部に穿孔を行い、外部との連通路を確保する。

 この穿孔は、膨張させた該家庭用マイクロダイソン球の、連通路を設けようとする箇所に部分的に酸素を吹き付けることで、物質透過性を部分的に失わせた後、ドリルあるいは爆破等の適宜な穿孔手段を用いることにより実施できる。

 穿孔後は、形成された連通部を酸素雰囲気下に維持することにより、該連通部の維持が可能となるが、本惑星の酸素濃度は、該連通部の前記維持には充分なものであるため、少なくとも本惑星において該家庭用マイクロダイソン球を用いる限り、特段の維持手段は必要ない』



 ……小難しいねぇ。

 要は、『あぶねぇから、空気穴を開けとけよコンチクショー』ってだけだろ? だったらそう書けば良いのに。



 って、な? 

 こんな、聞き手にゃわからん事をくっちゃべるアタシゃ、やっばり粗忽者だねぇ。つか、自分でも分かってるんだか、分かってないんだか。



 法律でもなんでも、正しく書こうとすると、小難しくなっちまうってのはわかるがよ? わかり易さを犠牲にして、正しさを錬成するってぇのは、はたして、錬金術って言っていいのかねえ? 小難しくて、頭が発酵しちまいそうだよ。



 ア、発酵したら、酒になる?

 おうおう! そりゃいいじゃねえか! ドンドン発酵させて、ドンドン酒にしてくれよ! 片っ端から飲みたいもんだよ!



 ……ってーと、サ? アタシの頭を発酵させて、出来た酒を飲んでるアタシは、一体誰でい?



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