幕間 グレイ事件(下)

m(_ _)m



 すいませんすいません。戻ってきました。



 楽屋裏でね? テレビでニュースやっててサ?

 見たら、『映画泥棒、ついに逮捕』って事件でさ。思わず見入っちまったヨ。



 タキシード姿にビデオカメラ頭のノッポが、手錠かけられて、捕まったってんだ。凄い絵ヅラだったねぇ!



 ま、日付の計算間違ったんだな。



 通称「映画盗撮防止法」って法律だと、映画の封切りから八月は、こっそり私的な撮影もアウトなんだそうで。本来、私的複製は著作権法30条でセーフなんだが、その例外だとさ。



 八月満了する前にやっちまって、お縄だとよ。

 パントマイムではしゃぎ出すのが、ちょっとばかし早かったなァ。ご愁傷さま。



 ……つか、だめだぞ!? 八月過ぎてもな。



 って、何の話してたんだっけか? ……あの……その……ね? あーそうだそうだ。グレイ型宇宙人(?)が黒服に捕まりそう、って話だったなぁ?



 グレイ型宇宙人(?)と、黒服グラサンの集団が、夜中のモールに出たり入ったりするもんだから、「知りたい欲」を刺激されちまったんだな。至はおそるおそる、中野ミルキーウェイに入っていった。



 1階は、天井の電気がついてるだけで、フツーに店は閉まってた。

 止まったまんまのエスカレーターを登って、まんだらけのある3階に行くと、例のグレイくん人形は、いつもの位置に居てサ。楽しく踊ったり、コーヒー・ブレイクしたりしてる。ア、動くよ? ファーストコンタクト後のグレイくんは。



 『宇宙人権』の関係で、ただの剥製的なのを飾るのは、タブーになったんだな。



 ミニチュアのフィギュア自体は、人権ってか、グレイ権的にはクリアするが、こんどは肖像権や、著名なグレイ型宇宙人のパブリシティ権やらがぽこぽこ出てきてな? うっかり等身大フィギュアとかを作れなくなった。マルシー貰ってれば別な?



 なので、夜中に動いたりコーヒー・ブレイクしたりするこのグレイくん人形には、よく見ると、隅っこに「マルシー」のタグがついてた。



 あ、あとサ。


 

 こいつはちょいと蛇足になるが、かなり昔に、ギャロップレーサー事件という判例があってな。『馬は人じゃなくて物扱いだから、パブリシティでは保護されません!』って扱いをされた時代があった。「馬力」って表現があった頃の話な?



 ところが……。



 ファーストコンタクト後に、ホース星人が激怒したんだよ。

 有形無形の圧力が、汎銀河の奥の方からかかって、今じゃ、生物にはパブリシティ権が認められてて。勝手に複製出来なくなった。



 「馬力」って表現も検閲が入って、今使うなら「PS」ってな。

 追伸かってぇの。



 ……その関係で、人間自体のクローン問題も解決した。

 許可の無いクローンは複製権の侵害だとか、クローニングの独占ライセンスがどうとか、まぁそうなった。



 ああ、また脱線したなぁ。



 ともあれな? 至がモールの中に入って、止まったエスカレーターを階段みたいに上がっていくとサ? なんと、あちこちのガレージで、シャッターが開いててよ? 電気もついて、営業中みたいなんだよ。丑三つ時ってか、夜中の2時過ぎに。 



 そして、通路の向こうにある店の中をこう、首を伸ばして覗くってーと、グレイ型宇宙人(?)が隠れてんだよ。棚の上に、並んだ商品のフリしてな。ジーっと見てるとこう、たまに身震いしたりしてな。



「なにこれ……潜伏?」



 と至が小声を漏らしたちょうどその時。

 店に新たに入ってきた黒服と、グレイ型宇宙人(?)とで、目が合った。



 ……。



 ……。



 だだだーっ!

 走り出すグレイ型宇宙人。

 カモフラージュで置かれてた、他のフィギュア弾き飛ばして!

 脱兎の如く!


 逃げたねぇ。凄い勢いで逃げた。


 いやさ、隠れるところが悪いよ。

 だってよ? 萌え系アニメフィギュアの中に、グレイ型宇宙人は、そりゃぁ目立つだろ? もっと、特撮系の商品置いてる所に隠れないとサ。


 結果、至の目の前で、またも逃走劇が繰り広げられた。



 グレイ型宇宙人が跳躍。

 店を飛び出す。

 横道へ曲がった先の方で、キー! って声。


 至も小走りで横道に首突っ込んで。

 覗いてみるってーと。


 反対側からも黒服が来て、グレイ型が挟み撃ちになってんだな。

 あえなく捕まる、グレイ型宇宙人。かわいそうに。



 そして、背の高い黒服2人に左右を挟まれ、両手を引かれて連れて行かれた。まるで、父母と息子のように……。


 このあと、グレイ型は、人体実験でもされちまうのかね? あからさまに犯罪、グレイ権の侵害だがサ。黒服グラサンの追っかけ具合は、もう常軌を逸する程の執念を感じさせててな?



(これ以上、深追いしちゃいけない……)

 そう思って、至は踵を返そうとした。そしたら――。



 ガシッ!


 ものすごい力で、背後から、両肩を掴まれた。


「%◆ё※Ш◎≒」

 言葉にならない声を上げちまう至の目の前にゃ、黒服さんのお腹がどーん! ビルドアップされてるのが、シャツの上からでも分かる。ほんで、頭の上から、こう、低ーい声で、片言の日本語で、降ってきやがった。




「サツエイチュウ。ジャマ、ヨクナイ」




 ……。




 まぁ……その後サ。「ウロチョロ ノー」とか言われた至は、7階に連れてかれて、見学を許されたんだけどナ?



 首にゴムチューブを、パーカーよろしく巻いたグレイ型宇宙人が、こっちは流暢な日本語で言うわけよ。

「このプログラム、流行ってるんですヨねぇ。うちの星で」



 『逃走中』って番組あったでしょ? 昔の地球にさ。知ってる人居るかなぁ? あんな感じの鬼ごっこゲームが今、グレイ型宇宙人の星で大流行りなんだとさ。



 実際、モールの7階にゃ、急ごしらえの銀色の檻。グレイが6ー7人捕まってるんだが、楽しげに談笑してる。日本語じゃないから、何言ってるかわからない。けれど、雰囲気でわかる。ボディランゲージって偉大だねぇしかし。



 そこに、まだ捕まっていない別のグレイ型宇宙人が、タッタカタッタカかけてきてさ。檻の所をそのまま突っ切り、モールの奥の方へと消えてった。



 捕まってる方のグレイたちは、もう、やいのやいのと大喝采!



 その檻の横に、透明なカプセルが、プカプカ浮いてんだよ。その中には……。


 

 札束な。


 

 ……。



 ……。



 すべてを理解した至はサ? 走り去りゆくグレイ型宇宙人の背中に向かって、こう呟いた。



「グレイにとっちゃ、中野が江戸村みたいなもんなんだなぁ……」



m(_ _)m

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