第18話 覆面座談会
m(_ _)m
エ、今日もおはこび、ありがとうございます。今日は空いてますねぇ。
落語ってのはそんなもんで、駄目な日もあるんです。
もともと、駄目なモンも受け入れるのが落語ってもんだから。
じゃ、今日は、客が大勢居ちゃ出来ない話でもやるかなぁ。
ンー、あのさ。イニシャルトークだとか、覆面座談会って、おもしれぁやな。素性隠して、あぶねぇ話する雰囲気がさ。
仮面舞踏会みたいに目ぇ隠した女王様が、ズラリと並んで……って、こりゃアタシの発想が貧困だ。今日の話にゃ、女王様は出てこない。
瀬田OA鑑定事務所の中でね?
結局、ナシキロン星の件については、触れない形で鑑定書が作られ、「地球外技術鑑定士 薄井存在」の名前で、特許庁へと提出されたんだな。未来と至は、有資格者の存在センセの下で、いわば手足として働いたことになるわけだ。
正直、いまさらな感じもあるけどサ?
「この鑑定書は、一旦は特許庁に行って、じきに出願人のヨジゲン株式会社も、それを閲覧できるようになるはずだよ」
って、かぼそい声で言ったね。存在センセは、もっと息を吸ったほうがいいね。
ってなわけで、仕事が一段落した
場所は池袋の、「
業界人はみんな、その訴訟の
……若気の至を除いてな?
至は、他の連中と同様、初学者なわけだが、条文ばっかりに潜って、判例チェックを後回しにしてた。そのツケがこうやって来てヨ? すぐ近くにあった「島二郎」の方に入っちまった。
スマホのメッセージアプリの
「遅れてすみません。違う店入っちゃいました」
「
「はい。看板が凄く似てまして」
「リアルで間違えんなよー!」
「ははは、ごめんなさい」
「実際に、誤認混同が生じてるってわけだね」
「不競法2条1項の1号2号ですね」
「仮面ライダーみたいだよな!」
「ええっと……なんです?」
「ちょっとネタが古すぎた? ライダーには、1号とか2号とかがいたんだよ」
「うーん、みなさん勉強が進んでるんですね……」
「ただの特撮知識な!」
初学者が集まる初級ゼミって言っても、年齢層は様々でサ? 平均で言うと、30才近いおっちゃんが多い。至からすると、みんな人生の先輩ばっかりだ。まぁ、女性もチラホラいるぞ?
飲みは先に始まってた。至は席について早々、ビールを1杯追加注文して、話に加わるんだが、やっばり、仕事と試験の話が多いねぇ。
「若気くんは、どこの事務所入ったんだっけ?」
「瀬田先生のとこです」
「中野の?」
「はい」
「じゃあ、うちの事務所のライバルだね」
「たしかに!」
「ってことは、佐藤さんは……」
「うん。藪先生のとこ。秋葉原のね」
「そうなんですか!」
「よろしくー」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「ははは、ライバル意識持ってるの、所長同士ってだけだから」
「あ、そうなんですか?」
「そそ。うちらまで気にしててもしょうがないよ」
「あっ、そういえば、そろそろ二次の、論文試験の合格発表ですよね?」
「そうなんです?」
「だよ! うちの先輩も、胃痛そうにしててさ! 悩んでも結果変わらんのに」
「あたしの知りあいも、毎日余裕がない感じですよ? 今年で2年目だから」
「なんで? 2年目って普通じゃん」
「大手の事務所に入りたいんですって」
「ええと……?」
「大手だと、『2年以内に受からない無能はそもそも採用しない』って事務所があって」
「えー! 厳しくないですか!?」
「色々なのよ」
「平均、どのくらいで皆さん合格するんでしょうか……」
「3年から5年ってとこじゃない?」
「まぁ、3000時間は勉強しろって言われてますよね。1年で受かる人は優秀、それ以後に受かる人は、まぁまぁ優秀って感じで」
「なんとまぁ……」
「僕みたいに、企業人だとそのへん、気楽でいいっすね」
「一言目がそれかよ! 上司からブレッシャーかけられたりしないの? 早く受かれ! みたいなやつ」
「あ、僕、別に仕事しなくても、親の資産で食っていけますから」
「あはは!」
「ずりぃー! 勉強する必要ねーじゃん!」
「うらやましいですね……」
「す、すごい……」
「まぁ、それはそれとして、僕も真面目に勉強しますけどね」
「いいなぁ……。俺は胃がちょっと……」
「そっか! 佐藤さんも一次通ってたんだっけ!」
「一応」
「一発で突破ですかぁ」
「凄いですね……」
「いや、何問か、当てずっぽうにマークしましたよ? 偶然それが当たってて、ボーダーラインギリギリで」
「ラッキーじゃん!」
「あれですか? いくつあるか問題?」
「ですね。解く時間足りなくて、残りを全部『2』ってマークしたら、結構当たって」
「マジで? 超ラッキーじゃん!」
「あたしは、1で全塗りしましたね……どハズレでした……」
「ハハハ。残念!」
「3時間半でしたっけ? 一次の試験時間」
「そそ。長いよー! ……でさ。佐藤さんは、二次の出来はどうだったの?」
「いやもう、何がなんだか分かりませんでした。問題文が長すぎて……」
「へー。どの位の?」
「A4紙1枚使って、条件がビッシリ書いてあって」
「うっぎゃあ!」
「事例問題か」
「法の趣旨を書くっていう一行問題は、ほとんど出なくなったって、あたし、うちの先生から聞きました」
「酷いんですよ。問題の登場人物。
「6人も登場人物が!?」
「ごめんなさい……ついていけません」
「そんなん死ぬわ!」
「初学者殺しの年だったんですね……今年は……」
「あのう……話を戻してすみませんが、『いくつあるか問題』って、何です?」
「あっ、そうか。若気君は、来年から受験なんだよね?」
「はい」
「あのね。『次の5つの文章のうち、正しいのはいくつあるか?』って聞いてくるの」
「な、なんですそれー!」
「滅茶苦茶いやらしいんだよ! 5つの枝の正誤を、全部言い当てないと得点にならない」
「2つ判断ミスって、逆に得点になっちゃう事もあるんですよね」
「正直おかしいですよね? 勉強進んでない人の方が逆に正答しちゃうってことだから」
「あっ、そうか……そういうことになるのか……」
「まぁ僕は、そもそも時間足らなくて、問題読まずに2をマークしたわけですがね」
「はっはっは! 結果的に合格ならいいんだよ!」
「若気君? あたし達は、まずは一次をパスできるように、来年一緒に頑張りましょうね!」
「がんばります」
「そこ! なに男女でいい感じになってんの!」
ってな感じでな?
なんか微妙に、ゼミの女性にロックオンされたみたいな至だがよ。なんせ、メンツの中で一番若いもんだから。
……名前の通り、若気の至りにならなきゃいいけどねぇ。
m(_ _)m
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